
9月25日、プライム市場にオリオンビールが上場しました。沖縄県内の製造業で初の上場であり、日本を代表する5大ビールメーカーの一つであることから大いに注目を集めました。初値は公開価格の2.2倍にあたる1863円。注目度の高さが伺えます。
実はオリオンビールにとって今から一年後の2026年10月1日はXデーとも言える日。沖縄県産の酒類にかかる酒税軽減措置が廃止されるからです。
この難局を乗り切る道筋を、株主に対して示さなければなりません。
沖縄県内でのシェアは8割と圧倒的
オリオンビールは2019年に野村ホールディングス傘下の投資ファンドと、アメリカのバイアウトファンドであるカーライル・グループによって買収されていました。沖縄県内では強力な販売ネットワークを築いているものの、ビールの消費量の落ち込みとともに出荷数が伸び悩んでいたのです。
投資ファンドのネットワークを活用し、販路拡大につなげる計画でした。
オリオンビールは2002年にアサヒビールと資本業務提携を締結し、沖縄県内におけるアサヒブランドのライセンス生産とアサヒビール商品の販売を開始します。オリオンビールの沖縄県内での販売シェアは83.8%。圧倒的なシェアを誇っていますが、これはアサヒのライセンス商品を含んでいるためです。
2025年3月期の売上高288億円のうち、およそ7割は県内事業によるもの。県外事業は1割ほどしかありません。オリオンビールは沖縄県以外でのシェア獲得が進みませんでした。
その主要因となっていたのが、酒税の軽減措置。ビールにかかる税金が本土よりも20%安いという特別措置が続いていたのです。
ビールは1990年代に発泡酒、2000年代に第3のビールへと人気が移っていきますが、これはバブル崩壊後の不況のなかで安いお酒が求められたことが背景にあります。発泡酒や第3のビールの開発が進んだのは、ビールにかかる税金をできる限り安く抑えようとした結果として生まれたもの。
しかし、沖縄県では酒税の20%軽減措置が導入されていたために、オリオンビールは開発競争に後れをとる結果となりました。県外進出の確かな足掛かりを確立できないまま、沖縄県で愛されるビールというポジションを築くに至ったのです。
営業利益率は12%と異例の高さを誇るが…
この酒税の軽減措置は2023年10月1日に15%となり、2026年10月1日には廃止されることが決まっています。競争力を高めるという意味では追い風ではありますが、業績を悪化させる要因にもなりかねません。正にXデーです。
国税庁の統計情報によると、沖縄県におけるビールの販売数量は年間約2.3万キロリットルで、大きく変化していません。外国人観光客が底堅く消費を支えていると考えられますが、軽減措置廃止によるビールの負担増は県内で生活する人の購買意欲に影響を与える可能性があります。
2024年度のオリオンビールの営業利益率は12%と超優良水準。サッポロホールディングスは2%でした。この利益率の高さも酒税が影響しているでしょう。
販売数量の落ち込みと利益率の低下というダブルパンチを受けかねません。
こうした背景がある中で、期待されているのが海外展開です。オリオンビールは2025年8月に発表した「中長期経営方針及び目標達成のための事業戦略について」において、主要な事業戦略の一つに「海外における独自ポジションの確立」を掲げました。
海外事業は足元で力強く成長しています。2021年3月期から2025年3月期までの年平均成長率は37.9%。売上全体の1割程度を占めるまでに育ちました。
台湾や韓国、オーストラリア、アメリカを中心に展開しており、香港・中国エリアの販売ネットワーク構築を強化中。海外事業は2023年3月期に黒字化を果たしています。
各メーカーが海外で苦戦するのはなぜなのか?
しかし、海外攻略は簡単に進むものではありません。地元で愛される強力なブランドが存在するうえ、他国のトップメーカーがすでに高いシェアを握っているからです。
アルコール飲料市場の調査を行なうIWSRによると、台湾で56%という圧倒的なシェアを握っているのが国内メーカーの「台湾ビール」。2位がキリンビールの「Kirin Bar」で、3位がオランダのハイネケンです。
「Kirin Bar」は2002年に発売した商品で、キリンが低価格を武器に台湾市場を攻め込んだ商品。日本では販売されておらず、台湾の消費者の好みの味にローカライズされています。「Kirin Bar」は20年以上をかけて2位のハイネケンを押しのけ、高シェアを獲得するに至りましたが、それでも「台湾ビール」の販売数の25%程度に留まっています。
海外のビール市場は典型的なレッドオーシャンであり、優秀な営業人員を現地に送りこんで販売ネットワークを築きつつ、大規模なマーケティング費用を投じて消費者にブランドを浸透させる必要があります。更に、現地の人に受け入れられるためのローカライズも欠かせません。
多くのトップメーカーが現地のビール会社を巨額の費用で買収していますが、資本力のある会社はM&Aによるシェア拡大を進めています。しかし、今のオリオンビールに大規模な会社を買収するリスクを負うことはできません。
地道な販売ネットワークの構築でどこまで外国でのシェアを伸ばすことができるのか。上場後の一番のポイントとなるでしょう。
文/不破聡