『アップスキリング』は、従業員の既存スキルを高め、より高度な業務に対応できるようにする取り組みを指します。労働市場の変化への対応や、イノベーションにつながります。
目次
近年、『アップスキリング』という言葉を耳にする機会が増えています。働き方・技術が急速に変化する中で注目を集めている言葉ですが、正確な意味を理解している人は意外と少ないかもしれません。
「アップスキリング」とは?
まずは、その定義と混同されがちな『リスキリング』との違いについて、詳しく見ていきましょう。
■「アップスキリング」の定義
アップスキリングとは、企業や個人が現在保有するスキル・知識をさらに高め、業務をより高いレベルで遂行するための教育・訓練を指します。
例えば、マーケティング担当者がデジタル戦略・分析スキルを更新したり、エンジニアが新しいプログラミング技術を習得したりすることなどです。
アップスキリングは単なる学習活動ではなく、業務効率や成果の向上、さらには組織の競争力強化を目的とした実践的な取り組みです。
必要なスキルの特定や学習計画の策定、進捗評価、そして取得スキルを実践に生かす体系的なプロセスの確立が欠かせません。
■「リスキリング」との違い
リスキリングは、人材育成の中でも注目度が高い取り組みの一つですが、その目的と方向性はアップスキリングとは異なります。
アップスキリングは、現在の職務・役割の中で既存スキルを磨き、業務の質を高めることが主な目的です。対して、リスキリングは新しいスキルを習得し、異なる職種・キャリアに移行することを目的とします。
例えば、営業職の社員がプログラミングを学んでエンジニアに転身したり、事務職の人がWebデザインを習得し、デザイナーとして新たなキャリアを築いたりするケースなどです。
リスキリングは、単なるスキルアップにとどまらず、キャリアチェンジ・職種転換を前提とした『学び直し』のプロセスに位置付けられます。
「アップスキリング」が重要視されている主な理由

アップスキリングが重要視される理由には、複数の側面があります。ここでは、なぜアップスキリングがこれほど注目されているのか、その主な理由について詳しく紹介します。
アップスキリングは、企業の人事戦略としても、個人のキャリア形成においても不可欠です。その重要性を理解することで、効果的な人材育成の第一歩やキャリアアップにつながるでしょう。
■労働市場の変化に対応するため
近年のテクノロジーの急速な進化により、労働市場はこれまでにないほど大きな変化を遂げています。
特にAI(人工知能)やロボティクスの発展は、従来の業務プロセスや働き方そのものを根元から変えつつあります。こうした環境変化に対応するため、アップスキリングの重要性がこれまで以上に高まっているのです。
情報量と技術革新のサイクルが短縮する中で、常に新たなスキルを学び続けることが、組織の成長と個人の競争力維持に直結します。従業員が、デジタルスキル・専門知識を更新することで、急速に変化する市場環境に柔軟に適応できるのです。
さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI関連職が拡大する現代では、従来のスキルセットだけでは対応が難しくなっています。企業にとって、従業員の継続的なアップスキリング支援は、生産性とイノベーションを維持するための最重要戦略です。
■人材不足を解消し、持続的成長を支えるため
深刻な人材不足に対応することも、アップスキリングが求められる重要な理由の一つです。
日本では、少子高齢化によって労働力人口が減少し続けており、質の高い人材の確保が企業の生存戦略に直結しています。
アップスキリングによって既存社員のスキルを高めれば、新規採用への依存を減らしながら、組織全体の生産性を向上させることができます。
例えば、AIやロボット技術を使いこなせる人材を社内で育成すれば、限られた人員でも高い成果を出せる仕組みを築くことが可能です。
さらに、変化に強い『自律型人材』の育成は、組織の柔軟性と競争力を高め、持続的な成長を支えます。自発的に考え、行動し、成果を生み出す社員の存在こそが、人手不足時代を乗り越える鍵となります。
■イノベーションを促進するため
アップスキリングは、企業の成長戦略において、イノベーションを促進する重要な要素です。従業員が新しいスキル・知識を身に付けることで、組織内に新たな発想や創造性が芽生え、革新的なアイデアが生まれやすくなります。
最新の技術・トレンドを学び業務に応用すれば、従来のビジネスプロセスに革新をもたらし、組織全体の付加価値を高めることができます。
さらに、異なる専門知識を持つ人材同士が協働することで、相乗的に新しいアイデアが創発され、イノベーションの基盤が形成されるでしょう。
特にAI・ロボティクス・データサイエンスなどのデジタル技術を理解し、実務に生かせる人材が増えることで、新たなビジネスモデル・サービスが創出される可能性が飛躍的に高まります。
こうしたアップスキリングの取り組みは、企業が変化の激しい市場で持続的に成長するための原動力となります。
「アップスキリング」を実施するメリット

アップスキリングは、企業と従業員に具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?最後に、主なメリットを実践的な観点から見ていきましょう。
■生産性や競争力の向上
従業員が新たなスキル・知識を習得することで、業務プロセスの自動化と効率化が進み、日常業務における無駄・ミスを大幅に削減できます。
例えば、経理担当者が最新の会計システムや、自動化ツールの操作スキルを身に付ければ、処理スピードの向上とともにヒューマンエラーを防ぐことが可能です。
さらに、アップスキリングは組織の競争力を高めるための、戦略的投資でもあります。マーケティング担当者が、データ分析・デジタルマーケティングを学ぶことで、顧客の行動・ニーズを正確に把握できるようになり、その分析結果を生かした施策が新たな価値を生み出します。
こうした知見を活用して市場の変化に対応すれば、商品・サービスの差別化を図り、企業としての市場優位性を持続的に強化することができるでしょう。
■従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上
アップスキリングの推進は、従業員のモチベーションを高め、組織全体を活性化させる取り組みとして大きな効果を発揮します。従業員が新しいスキル・知識を身に付けることで、自己成長を実感し、仕事に対する自信と主体性が高まるでしょう。
こうしたポジティブな変化は、業務への意欲向上だけでなく、組織への帰属意識と貢献意欲の強化につながります。その結果、離職率の低下やチーム全体の生産性向上など、長期的な組織価値の向上が期待できます。
一方で、学習と業務を両立させるためには、柔軟な教育設計が欠かせません。実務に関連性のあるテーマ設定と、継続的なフィードバック体制を整備し、学び続けられる環境を構築することが重要です。
アップスキリングは、企業に必要不可欠な取り組み

アップスキリングとは、既存スキルの向上・強化を指し、新たな職種へのスキル転換を意味するリスキリングとは異なります。テクノロジーの急速な進化による労働市場の変化、人材不足の解消、イノベーションの促進などのために重要視されています。
企業にとってのメリットは、主に生産性・競争力の向上、従業員のエンゲージメントやモチベーションアップなどです。変化の激しい現代ビジネス環境において、アップスキリングは企業の持続的成長と人材育成の鍵となる戦略といえます。
構成/編集部







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