モダリティとは、話し手の態度や判断を表す言語要素で、『対事的モダリティ』と『対人的モダリティ』の二つに分類されます。モダリティの種類や、ビジネスシーンでの活用法について解説します。
目次
モダリティは、言語学における概念の一つです。まずは、基本的な意味について見ていきましょう。
モダリティとは?
■話し手の態度や判断を表す言語要素
モダリティとは、話し手の主観的な態度・判断・感情などを示す言語要素です。文の意味内容は、客観的な事実を述べる『命題』と、話し手の主観を表す『モダリティ』という2層から構成されています。
例えば、「明日は雨が降るだろう」という文では、『明日は雨が降る』が命題にあたり、『だろう』が話し手の推測を表すモダリティです。
日本語と英語では、モダリティの表現方法が大きく異なります。英語では『will』『can』などの助動詞や、『probably』『perhaps』といった副詞で表すのが一般的です。
一方、日本語では『〜だろう』『〜はずだ』などの助動詞、『〜ね』『〜よ』『〜か』といった終助詞、さらにはイントネーションなど、多様な形式を用いて話し手の認識・感情を伝えます。
■AIにおけるモダリティの概念
AI分野におけるモダリティとは、AIが扱う情報の『形式』『データタイプ』を指します。代表的なモダリティは、テキスト・画像・音声・動画・センサー情報の五つです。人間の五感のように、異なる視点から周囲の情報を捉える役割を担います。
これら複数のモダリティを同時に処理・統合する技術を、『マルチモーダルAI』といいます。テキストや音声、映像を複合的に理解・判断できることで、より人間に近い高精度な推論・意思決定を実現するのが特徴です。
例えば、防犯カメラの映像に音声情報を掛け合わせて状況を正確に把握したり、生成AIが画像・文章・音声を組み合わせて新たな表現を生み出したりするのが、その典型例です。
モダリティの分類

モダリティは、『対事的モダリティ』と『対人的モダリティ』の二つに分類されます。ここでは、それぞれのモダリティの特徴と具体例を見ていきましょう。
■事実に対する認識を示す対事的モダリティ
対事的モダリティとは、話し手が命題(事実・出来事)をどのように認識・判断しているかを表す言語表現です。主な種類として、以下のようなパターンが挙げられます。
- 推量:「明日は雨が降るだろう」「この計画は成功するかもしれない」など、出来事の可能性や予測を示す
- 確信:「この方法は間違いなく効果がある」「彼は必ず成功するはずだ」など、強い信念や確証を伝える
- 伝聞:「彼が転職したそうだ」「景気は回復しているらしい」など、他者から得た情報であることを示す
- 義務・能力:「~なければならない」「~ことができる」など、当為(義務)や可能を表す
これらの表現は、事実そのものに対する話し手の視点を反映しており、『命題の真偽』『確信の度合い』『社会的規範意識』などを伝える役割を担います。
■聞き手に対して働きかける対人的モダリティ
対人的モダリティとは、聞き手に何らかの働きかけを行う言語表現のことです。例えば、「ドアを閉めてください」のような依頼や、「宿題をしなさい」という命令は、相手に行動を促す対人的モダリティです。
また、「今日は寒いね」の『ね』は共感・同意を求める働きを持ち、「この映画、面白かったよ」の『よ』は話し手の情報提示・主張を強調します。さらに、『よね』のように二つの終助詞を組み合わせることで、相手への確認・共感を同時に表現することもできます。
対人的モダリティは、発話の内容だけでなく、会話の雰囲気や人間関係の距離感にも影響を与える要素です。言葉の使い方次第で、親密さや丁寧さ、感情の伝わり方が大きく変わります。
ビジネスシーンでのモダリティの活用法

モダリティをうまく活用することで、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションをより円滑にできる可能性があります。最後に、日々の業務で実践できる具体的な活用法を解説します。
■適切な断定表現で自信を示す
自信を明確に伝えたいときは、断定的なモダリティを意識して使いましょう。例えば、「これは効果的です」「この方法が最適です」といった言い切りの表現は、主張に説得力を与え、リーダーシップや専門性を感じさせます。
断定表現を使うことで曖昧さがなくなり、文章全体に力強さが生まれます。商品・サービスの特徴を紹介する場面では、信頼感を高め、読者・顧客の購買意欲を後押しする効果も期待できるでしょう。
ただし、断定的な表現は相手に強い印象を与えるため、内容の根拠が十分なときに限定して使用することが大切です。臨機応変にトーンを使い分けることで、バランスの取れた説得力のある文章になります。
■丁寧さと伝聞表現で信頼関係を構築する
伝聞表現は、情報の出所を明確にし、話し手自身の判断と情報提供者の責任を区別する役割を担います。例えば、「部長からの連絡で〜とのことです」と述べることで、情報の根拠が伝わり、聞き手に内容への信頼感を与えます。
また、報告相手に応じた言葉遣いも重要です。上司に対しては「〜とのことです」と簡潔に伝え、取引先には「〜とのことでございます」とより丁寧に述べるなど、関係性に合わせた表現を選びましょう。
このような敬意と配慮を込めた伝え方は、礼儀としてだけでなく、相手を尊重する姿勢そのものとして受け取られます。日々の丁寧な表現習慣が、結果的に信頼関係の強化や円滑なコミュニケーションの基盤となります。
■依頼や命令を柔らかく伝える
依頼や命令を伝える場合も、モダリティの用い方一つで相手の受け取り方や場の雰囲気は大きく変わります。同じ指示内容でも、『どの程度の強さ・確実さで伝えるか』という話し手の態度によって、聞き手の心理的印象は変化します。
「~しろ」「~しなさい」などの強い命令表現は圧力を与えやすい一方で、「~てください」「~ていただけますか」といった丁寧な依頼表現は、協調・信頼を生みやすいモダリティです。
例えば、「資料を確認して」という直接的な指示を「資料を確認してください」と言い換えるだけで、柔らかく、相手を尊重した印象に変わります。
このように、場面や相手との関係に合わせてモダリティを調整することで、より良いコミュニケーションと人間関係を築くことができます。
モダリティの意味を理解して会話に生かそう

モダリティとは、話し手の態度や判断を示す言語要素で、事実認識を示す『対事的モダリティ』と、聞き手への働きかけを表す『対人的モダリティ』の2種類に大別されます。
話し手の態度や判断は、聞き手との関係性に影響を及ぼすため、状況・距離感を踏まえたモダリティを選ぶことが重要です。
ビジネスシーンでは、『自信を示す』『信頼関係を築く』『依頼や命令を柔らかく伝える』など、場面に応じた表現を使い分けることで、円滑なコミュニケーションが可能になります。
構成/編集部







DIME MAGAZINE












