「理想の上司とは?」という問いに、必ずと言っていいほど挙がるのが「頼りになる上司」という答えです。多くの人がそうありたいと願いながらも、実際には「頼りない」というレッテルを貼られてしまう上司が一定数いるのも事実です。なぜ、このような理想と現実のギャップが生まれるのでしょうか。その原因の一つは、「頼れる」とはどういうことか、その要件が分解・整理されないまま、漠然としたイメージで「頼りがい」を目指した結果、知らず知らずのうちに「頼りない」行動をとってしまっている可能性にあります。
本稿では、真に「頼れるリーダー」となるために必要な条件について、掘り下げて解説していきます。
1. 「決めない」リーダーが信頼を失う理由
上司と部下では、その立場と責任が明確に異なります。上司は部下よりも豊富な知識や経験を背景に、会社からリーダーとしてのポジションを任されています。その役割には、チーム全体の目標達成に対する大きな責任が伴います。一方、部下の責任は、基本的には個人の目標達成の範囲内です。この責任の大きさの違いこそが、役職手当など報酬の差に反映されています。
にもかかわらず、次のような上司に対して部下はどのような感情を抱くでしょうか。
大事なことを、自分(上司)で決めようとしない
やたらと「みんなで決めよう」と、議論に終始する
「任せるから、決めといて」と丸投げする
もちろん、部下の主体性を引き出すために意見を求めることは重要です。しかし、部下は、上司が自分たちと横並びの立ち位置に立つことで、本来負うべき責任を回避・緩和しようとしている意図を敏感に感じ取ります。
結果として、「自分たちより高い給与をもらっているのに、責任の重い仕事は避けている」という不満が生まれ、「頼りない」という評価につながります。この不満は上司個人に留まらず、そのような状況を許している会社自体への不信感にまで発展しかねません。
2. リーダーは「決める」必要がある
では、「頼りになるリーダー」になるために、何をすべきか。その核心は、自らの責任範囲において「決める」ことです。
もちろん、自身の権限を超える決定をする必要はありません。それは越権行為であり、組織の秩序を乱します。しかし、自分の責任範囲で決めるべきことは、たとえ部下から意見を募ったとしても、最後は「自分の責任」として決断を下さなければなりません。
リーダーは常に孤独だと言われるのは、このためです。できることなら、全員で合意して物事を進めたいと思うのは自然な感情でしょう。しかし、組織がリーダーを置く大きな理由の一つは、「話し合いだけでは物事が進まない」からです。異なる経験や価値観を持つ人々が集まれば、それぞれの「当たり前」がぶつかり、議論はいつまでも着地点を見出せません。その間にも、競合他社は次々と意思決定を下し、PDCAサイクルを回しているのです。チームを前進させるために、リーダーには迅速な「決断」が求められます。
3. リーダーの仮面
リーダーに求められる役割は、その人の本来の人格とは別物です。たとえ本来は優しく、優柔不断な性格であったとしても、リーダーという「役割」が決断を求めるのであれば、その役を演じきる必要があります。ありのままの自分でいることだけが正解ではなく、チームプレーにおいては、自らの「役割」を意識的に演じることが極めて重要になるのです。
時には、部下が嫌がるような厳しい決断をせざるを得ない場面もあります。部下の負担が増えるルール設定や、気の進まない業務指示など、個人としては避けたい判断でも、チームが成果を出すために不可欠なのであれば、リーダーとして実行しなくてはなりません。
もし、リーダーとしての役割よりも「優しい上司でいたい」という個人の心地よさを優先したらどうなるでしょうか。目先の負担を増やさなかった上司に対し、部下は一時的に「優しいリーダーだ」と感じるかもしれません。しかし、部下は冷静に上司を見ています。優しさを評価する一方で、「このリーダーに付いていって、本当にチームは大丈夫だろうか」という疑念も同時に抱くのです。
部下の顔色をうかがい、チームにとって本当に必要な、時に厳しい決断から逃げるリーダーは、やがて「頼りない」という評価を下されます。部下から見て本当に「頼れる」のは、時には厳しいことも求めながら、最終的にチームを勝利に導いてくれるリーダーなのです。
4. 判断の「不足」を認め、修正する勇気
リーダーの決断が常に100発100中であることはあり得ません。もし完璧な確度が求められるなら、リーダーは決断を躊躇し、組織の成長は止まってしまうでしょう。
リーダーの最初の決断は、あくまでチームが進むべき方向性を示す「仮説」です。その仮説を実行する現場からは、必ず様々なエラーや予期せぬ事態が報告されます。ここで重要なのは、一度下した判断に固執し、自分の正しさを守ろうとすることではありません。現場からのリアルな情報に基づき、今回の決断の「不足点」を素早く分析し、次の改善行動へと繋げていく柔軟さです。それは、まず矢を放ってみて、風の向きや距離といった誤差の要因を探りながら、徐々に的を絞っていくアプローチに似ています。
部下もまた、上司の判断が一度「外れた」こと自体を責めるのではなく、実行部隊として様々な試行錯誤を繰り返し、目標達成の鍵となる要因(KPI)をいち早く特定することに貢献すべきです。
自らの判断ミスを認め、下の意見に耳を傾けながらPDCAの回転数を上げていく。そうしてチームを成功に導く姿勢こそが、部下からの揺るぎない信頼、すなわち本当の「頼りがい」を生むのです。
まとめ
「頼りになる上司」とは、生まれ持った才能やカリスマ性だけで決まるものではありません。それは、リーダーとしての役割を自覚し、日々の行動で体現していく姿勢そのものです。
具体的には、まずリーダーとしての責任から逃げずに「決める」こと。そして時には私情を挟まず、チームの成果を最大化するために厳しい「役割」に徹する覚悟を持つこと。さらに、自らの判断が完璧ではないと認め、現場の声をもとに柔軟に軌道修正していく勇気も不可欠です。
本当の「頼りがい」とは、決して揺るがない絶対的な正しさではなく、不確実な状況下でも勇気をもって決断し、チームと共に学び、修正しながらゴールを目指すプロセスを牽引する力に他なりません。
日頃から、こんな上司に不満を抱えていないだろうか?「相手によって態度を変える」「仕事を部下に押し付ける」「言い訳が多い」「指示があいまい」「パワハラ・威圧的」。…







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