
古くからある橋梁をライトアップすることで、街の新たなシンボルとする……。
今、歴史的建造物の価値再評価が進んでいます。
LEDによるライトアップは、建造物をインフラだけではなく、街の個性を育む力となります。
JR東日本千葉支社は、総武線の両国駅と浅草橋駅間にあり、隅田川に掛かる鉄道専用のアーチ形の橋梁を、2025年9月29日からライトアップしています。
全国的にも珍しい鉄道専用の橋梁のライトアップがなぜ行われたのか?
その理由と隠された技術の真相に迫ります。
JR東日本千葉支社で初の橋梁のライトアップ
JR東日本千葉支社は、同支社初となる橋梁のライトアップを行いました。
総武線浅草橋~両国駅間にある隅田川橋梁は、1932年(昭和7年)3月に竣工。2025年で93年の歴史を持ちます。
上流にはNTT専用橋梁を挟んで蔵前橋があり、こちらはすでに東京都によるライトアップが施されています。
そして、下流の両国橋も2025年3月からライトアップを開始と、隅田川の各橋梁が再評価される下地が揃っていました。
そこで、JR東日本千葉支社は、東京都・(公財)東京観光財団の「建造物等のライトアップモデル事業費助成金」を活用して、全長96mのアーチ部分のライトアップを実施することとなりました。
パナソニックがライトアップをサポート
ライトアップにはパナソニックのLED照明技術が活用されることとなり、RGBWのフルカラースポットライトが利用されています。
パナソニック エレクトリックワークス社の先崎さんは、「隅田川橋梁の周辺は温かみのある電球色の光が多く、ライトアップは、その雰囲気に調和した形を考えて電球色をベースにし、川の流れと同じように光に動きを出すことで、周囲との調和を目指しました」と言います。
そして、毎正時、18時と19時、20時、21時、22時の1日5回には、3分程度のカラー演出が行われます。
これは「総武線の隅田川橋梁は両国国技館が近く、住民のみなさまをはじめ、とても馴染みのある場所です。その天井の四つの房を、毎正時の演出のテーマカラーにしました」と先崎さんが言うとおり、緑色点灯、白色点灯、赤色点灯、青紫色点灯を実施します。
両国国技館の天井の四つの房(四神)はそれぞれ意味を持ちます。
緑の総(ふさ)は青龍(しょうりゅう)となり、神は龍で方角は東を指します。
白の総は白虎(びゃっこ)で、神は虎。方角は西を指します。
赤い総は朱雀(すざく)となり、神は鳥で、方角は南を指します。
そして、黒い総は玄武(げんぶ)で神は亀。方角は北を向いています。照明は青紫色です
隅田川橋梁の正時演出では、東西南北の順に四神の光を演出。それぞれが45秒ほど点灯されます。
さらに、特別な日には照明の特別演出も可能。その日のテーマや雰囲気に合わせて光の演出が行え、隅田川の夜を華やかに彩ります。
世界最速の光環境のシミュレーションを目指した「ライトニングフロー」でカラー提案
JR東日本の千葉支社への提案には、パナソニックのシミュレーションソフトが活用されました。
「ライトニングフロー」と称するシミュレーションソフトは、パナソニック エレクトリックワークス社が「世界最速の光環境のシミュレーション」を目指して開発した建築ビジュアライゼーションソフトです。
3Dデータ上に配置した照明の光の効果を瞬時に反映・確認が可能で、照明設計の業務フローや合意形成を最大限に加速するものです。
パナソニック エレクトリックワークス社の高島さんは「ライトニングフローは『まだ見ぬ空間をイメージできる』ソフト」だと言います。
高島さんによると、「従来のシミュレーションソフトは、光の再現を行う照明計算時間に多くの時間がかかった」そうです。
一方、ライトニングフローを使うと、既存のシミュレーションソフトが照明計算に45秒かかるところを1秒まで短縮できるのです。
パナソニック エレクトリックワークス社はこのライトニングフローを無償で提供しており、すでにゼネコンなどを中心に1200社以上で導入されています。
このソフトが画期的なのは、ゲームの技術を活用して照明計算の時間を短縮していることです。また、ソフトを運用するコンピュータの仕様も「ゲーミングPCまでのハイスペックでなくても稼働できる」(高島さん)とのこと。無償提供と併せて、照明設計の進化へ大いに貢献しているのです。
そして、JR東日本千葉支社の隅田川橋梁への提案にもライトニングフローは活用され、通常演出や正時演出などのシミュレーションが行われました。
「汐留サイバードーム」のデモで等身大スケールの体験が実現
さらに、隅田川橋梁のLEDライトアップ化にあたり、「汐留サイバードーム」によるデモが行われました。
汐留サイバードームは、180°の没入型体験が可能な、等身大スケールの空間確認施設です。わかりやすくいうと、パラボラアンテナのような形をした巨大なスクリーンに映像を流して、あたかも実際の風景のように体感できます。
また、汐留サイバードームでは、3D映像を流して人物を動かして、実際に建物などを移動しているような体験が可能です。
*「汐留サイバードーム」は一般公開されていません
視点の移動操作にはゲーム機のコントローラーを活用し、使い勝手も親しみやすいものとなっています。
以下は、汐留サイバードームにライトニングフローで生成した、隅田川橋梁のライトアップシミュレーション映像を映したところです。
説明会に参加した多くの方がスマホなどで撮影しましたが、実際の風景を撮っているような感覚でした。
JR東日本千葉支社の担当者のみなさんも、汐留サイバードームで映像を確認しています。そこで、ライトアップの効果を事前に体感できたそうです。