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「うどん県」から「うに県」へ!?香川県で讃岐うどんを食べて育ったウニが誕生!

2025.10.17

香川県の和食店が、うどんを食べさせて養殖したウニ「讃岐うどん雲丹」の提供を始める。

実はこの讃岐うどん雲丹の正体、凶暴な食欲で海の資源を食い荒らし、地元の漁師たちを泣かせているムラサキウニだ。うどんをエサにすることで品質が向上し、海の厄介者を商品化することに成功したのである。

「食用には向かない」とされていたムラサキウニを絶品の食材に育てあげ、さらには廃棄うどんのフードロス削減に取り組む「遊食房屋」の取締役本部長、細川明宏さんにお話を伺った。

うどんで育てたウニは甘みがあって雑味がない

香川県の和食店「遊食房屋(ゆうしょくぼうや)」丸亀店にて、2025年10月20日(月)から、うどんを食べさせて育てたウニ「讃岐うどん雲丹」がデビューを果たす。

うどんを食べさせて育てたウニ「讃岐うどん雲丹」(1650円)

「“讃岐うどん雲丹”の刺身は過去に感じた経験がない甘みとうまみがあり、苦みやえぐみ、雑味がありません。ふっくらとしてクリーミーな食感が特徴で、『新しい名物が香川県に誕生した』と言って大げさではないと思います。ぜひとも最初の一口は醤油をつけず、自然な塩味とまろやかさを楽しんでいただきたいです」

そう語るのは株式会社遊食房屋の取締役本部長、細川明宏さん(44)。「遊食房屋」は香川・愛媛・岡山に10店舗を展開するファミリー向けの和食チェーン。瀬戸内海に面した四国・山陽の住民に馴染みが深い店だ。

株式会社遊食房屋の取締役本部長であり、社内に讃岐うどん雲丹の養殖事業部を起ち上げた細川明宏さん。背景のキャラクターは讃岐うどん雲丹の「うにぴっぴ」

「醤油をつけずに食べてほしい」とは、素材のウニそのものの味にそうとうな自信があるのだろう。意外なのは「可食部が少なく、おいしくない」と評価が低く、漁獲されることがほとんどない瀬戸内海のムラサキウニを使用していること。うどんを食べさせると、味や可食部の大きさが天と地ほどの差に変化したのだそうだ。

「うどんを食べさせたムラサキウニと、そうではないムラサキウニを食べ較べできるセットも考えたのですが、うどんを食べていないほうは(時期によるが)割っても中身が空っぽなので、断念しました。うどんを食べているか食べていないかで、まったく別物ってくらい違うんです」

うどんを食べていないムラサキウニは割っても空っぽ

うどんを与えたムラサキウニは実入りがパンパン!

さすが香川県のウニ、うどんを食べるとテンションが上がるようだ。そして、この讃岐うどん雲丹は、フードロス問題や漁業の衰退を食い止める救世主となるかもしれない存在なのである。

大量発生し海底を荒廃させるムラサキウニ

香川県をはじめとする瀬戸内海の漁場は、海藻を食害するムラサキウニの大量発生に悩まされている。海藻は魚たちの産卵の場であり、幼魚を育てるゆりかごだ。この藻場をムラサキウニたちが獰猛な食欲で食い荒らしてしまうため、海底が荒廃して「磯焼け」と呼ばれる状態となり、海藻を餌としたり住処としたりする多くの魚介類が姿を消してしまうのである。

「香川県の漁獲量は減ってきています。ムラサキウニに漁場を荒らされた漁師さんたちが潜水し、ハンマーで叩き割って駆除しているのですが、増加のスピードに追いつかない状況です。そのため近年は漁業をやめてしまう人が増え、深刻な問題となっています」

漁師が駆除したムラサキウニ。商品にならない“海の厄介者”だった

調理師専門学校で料理を学び、「遊食房屋」へ入社して26年という細川さん、長く厨房で働き、水産資源の減少で地元の漁師たちが苦しむ姿に胸を締め付けられる思いをしていた。

実は年間3,000トン以上のうどんを廃棄する香川県

そして調理師だった細川さんにはもう一つ、心を痛める問題があった。それが「うどんの廃棄」だ。

「香川の讃岐うどんはコシが命。このコシは茹でて約30分で失われるため、30分を過ぎると廃棄するのが慣習となっています。だから香川県では、おびただしい量のうどんが棄てられているんです。これを有効活用する方法はないのかと、ずっと悩んでいました」

香川県の調査によると、廃棄うどんの量は年間3,000トン以上にも及ぶという。廃棄されるうどんは賞味期限が切れているわけではなく、コシを最重要視する讃岐うどんの輝きは失われたとしても、品質にはまったく問題がない。「ムラサキウニの大量発生による地元の水産業の衰退」と「うどん県だからこそのフードロス問題」、二つの課題に悶々としていた細川さんは、香川県立多度津(たどつ)高等学校の海洋生産科が、授業の一環としてムラサキウニを食用に養殖する研究を行っていることを知る。

「県内唯一の水産科がある多度津高校が毎年、オリジナルブランド魚の開発に取り組んでおり、以前から『食を通じて一緒に何かやりたい』と願っていました。そして先生に訊けば、ムラサキウニの養殖はやはり産業化がそう簡単にはいかないようで、実験はいったん中断していたそうなんです。そこで『エサ代がかからないよう、廃棄するうどんを食べさせてみませんか』と提案しました」

廃棄うどんでムラサキウニが育つのならば、香川うどん界が抱えるフードロス問題の解消につながる。また、それによってムラサキウニが漁獲の対象となれば、瀬戸内海の漁師にも還元できる。循環型の仕組みが、つるっと喉越しよく確立できるのである。

「でんぷん質を好まない」はずのウニがうどんを爆食

しかし、その提案には懸念があった。県外機関の先行研究では『ウニはでんぷん質を好まない』という結果がすでに出ており、うどんを食べない、あるいは食べても商品化にまで至らないのではないかと考えられていたのだ。

そうして2023年11月より、うどんだけではなく、出汁を取った後の昆布やイリコを混ぜたり、出汁ガラだけを与えたりするなど、さまざまなタイプの餌を与えながらムラサキウニの飼育を開始。2か月ほど育てたところで、試食となった。すると……。

「もっともおいしかったのは意外にも“うどんだけを与えたムラサキウニ”でした。昆布はさほど変化が見られず、イリコに至っては実験前よりまずくなったんです。それに対して、うどんだけを与えたムラサキウニは『おいしすぎる!』という感想が出たほど変化していました。見た目にもうどんのように白くてきれいですし、しかも実入りはたっぷり。これには学者さんたちも驚いていましたね」

県立多度津高校海洋生産科の生徒たちと飼育や調理の方法を研究した

「でんぷん質を好まない」どころか、1匹が1日で5グラムのうどんを食べる。ウニ1匹あたりの可食部の重さが約10グラム。自分の身体の半分の量だ。よほど気に入ったのだろう。

「とはいえ、廃棄して時間が経ったうどんは食べないんです」

さすが香川のムラサキウニ、うどんの味には厳しいのだ。まさに、うどん県の香川が生んだウニなのである。

こうして、世界で初めてうどんで育てられたムラサキウニは「讃岐うどん雲丹」と命名され、この養殖実験は2024年に第33回「地球環境大賞奨励賞」と第5回「かがわ食品ロス削減大賞環境森林部長賞」を受賞した。

いよいよ讃岐うどん雲丹が和食店デビューを果たす

細川さんはその後、社内に養殖事業部「讃岐うどん雲丹Labo」を起ち上げ、漁業協同組合の理解を得ながら間借りの形で養殖をしている。水が汚れると讃岐うどん雲丹はすぐに死んでしまうため、海水を頻繁に入れ替え、清掃を欠かさず、清潔な環境づくりを徹底しているという。お店では、新鮮で澄んだ味の讃岐うどん雲丹をいただけるのだ。

うどんをたらふく食べるムラサキウニたち。海水は頻繁に取り替えられ、ケースの清掃も毎日行っている

「讃岐うどん雲丹Laboの最大の目標は、産学官連携で持続可能な新しい資源サイクルを地域につくることです。ムラサキウニの漁獲によって磯焼けが改善されれば漁場は回復し、水産業の安定につながります。そして廃棄うどんの活用でフードロス削減につながりますしね」

サステナブルな役目を担った讃岐うどん雲丹は2025年10月20日(月)より、「遊食房屋」丸亀店にて午後5時より、1日10食限定で提供が始まる。2匹分の刺身で1,500円(税別)。希望者には寿司にも対応するとのこと。

「遊食房屋は和食処のほかに焼肉が5店舗、うどんが3店舗、イタリアンが1店舗あります。いずれは養殖の規模を大きくし、全店での提供や、ふるさと納税にも対応していきたい。お肉に讃岐うどん雲丹を乗せた“ウニク”も、なかなかうまいんです。香川と言えばうどんですが、いつか『香川の特産品と言えば讃岐うどん雲丹』と呼ばれるほど普及に努めてゆきたいですね」

海の厄介者と呼ばれたムラサキウニが、フードロス削減と漁業の衰退を同時に救うキーマンになろうとしている。うどんのようにコシを据えて末永く取り組んでいただき、世の中のトゲトゲしさを解消していただきたい。

遊食房屋

取材・文/吉村智樹 画像/すべて株式会社遊食房屋提供

吉村智樹 放送作家/ライター。京都在住。テレビ番組『LIFE 夢のカタチ』(ABC)を構成。大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校講師。著書に『VOWやねん』(宝島社)、『まぬけもの中毒』『ビックリ仰天! 食べ歩きの旅』(鹿砦社)、『吉村智樹の街がいさがし』(オークラ出版)、『ジワジワくる関西』(扶桑社)、『恐怖電視台』(竹書房)などがある。妻は小説家の花房観音。 X https://x.com/tomokiy Instagram https://www.instagram.com/tomokiyoshimura/

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