
漢方を試してみたい方を応援したい。そんな思いから誕生したのが、日本調剤のプライベートブランド「10COINSKAMPO」だ。発売からわずか3か月で、前年同期に販売していた他社製品の2.5倍の売上個数を記録。税込1,100円という手に取りやすい価格設定で、漢方へのハードルを下げる存在として注目を集めている。
今回は、日本調剤株式会社 薬剤本部 ヘルスケア推進部長 佐々木康秀さんに、ブランド誕生の背景や製品のこだわり、今後の展望についてお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
健康とも病気とも言えない「未病」に対するアプローチ
そもそも漢方とはどのようなものなのか、はじめに佐々木さんは次のように説明する。
「西洋薬が病気そのものを『治す』ことにアプローチするのに対し、漢方は『未病』の予防や、心身の『バランスを整える』ことを目的としています。未病とは、病気の一歩手前にある、健康とも病気とも言えない中間の状態のことです。例えば、原因ははっきりしないけれど、日常的に続く頭痛のような不調も未病と捉えられます。また、個人の体質に合わせて服用するのも、西洋薬との違いです」
「10COINSKAMPO」の先駆けは、2023年に発売された「5COINS PHARMA」。風邪薬や鎮痛剤、塗り薬、湿布など、家庭で常備しておきたい市販薬を550円均一で提供する人気シリーズだ。
「西洋薬を中心にラインナップした『5COINS PHARMA』は、手に取りやすい価格設定が大変好評でした。反響の良さを受けて誕生したのが『10COINSKAMPO』です。5~10日分の漢方を1,100円均一で展開しており、一般的な製品と比べて3割から5割ほどお値打ちになっています」
当初は「仕事や家庭で多忙な30~50代の女性を、主なターゲットに据えていた」と話す佐々木さん。実際は、男女問わず幅広い層から支持を集めているという。
「風邪薬の『葛根湯(かっこんとう)』や『小青竜湯(しょうせいりゅうとう)』は男性の利用も多く、トータルで見ると性別を問わず幅広く購入されているのが現状です。特に葛根湯は常備薬にも適しており、男女問わず好評をいただいています」
漢方の定番である葛根湯は、多くのメーカーが展開する、まさに群雄割拠の市場。競合ひしめく中「10COINSKAMPO」は“信頼のおけるメーカーとの製造”にこだわることで、独自の価値を打ち出している。
「漢方は自然界にある植物の根や皮、葉を乾燥させ、組み合わせて作られています。その中で、私たちは素材にこだわるメーカー様に製造をお願いしています。また、漢方においては『味』も大切な要素の一つです。個人的な見解として『濃い味の方が効く』と感じるお客様は少なくありません。味の印象も含め、安心感や品質に配慮した商品づくりを信頼できる製造先とともに取り組んでいます」
第一回より
漢方の“壁”を壊す!ヒットの要因は「気軽に手に取れる設計」
「敷居が高い」と思われがちな漢方。そのハードルを下げるカギとなったのが、先行ブランドの存在だった。
「550円均一の西洋薬シリーズ『5COINS PHARMA』の“兄弟ブランド”として展開することで、消費者に受け入れやすい土台を築きました。シリーズ化により、どちらも一緒に訴求できたのもよかったです。一方、苦労したのが価格設定です。漢方原料の高騰や希少性が増している中で、すべての商品を1,100円に統一するのは簡単ではありませんでした」
佐々木さんは、「他社製品と差別化するべく、ラインアップにもこだわった」と話す。
「商品ラインナップの選定では、市場の売れ筋商品だけを追うのではなく、医療現場のニーズや、昨今注目されているフェムケアにも対応できるよう意識しました。一般薬ではあまり売れていない商品も、一部こだわって揃えています。例えば、胃腸が弱い方や虚弱体質の方向けの『香蘇散(こうそさん)』が該当します」
一見ニッチに見える商品も、需要や市場動向を多面的に捉えたうえで企画されている。
「商品ラインナップの選定にあたっては、医療用の医薬品や市販薬の販売データ、そして市場のトレンドといった多面的な情報を加味して仮説を立て、ニーズ調査を実施しました。また、処方箋を通じてお客様と接する中で見えてくる、医療現場ならではのニーズも反映させています」
現代のライフスタイルに合わせて、製品のビジュアルにもこだわったと続ける。
「女性が違和感なく手に取れるように、柔らかい色味でデザインを整えました。また、パッケージの厚みは2.7cmに設定しています。ECサイトで購入した際に送料を抑えやすいだけでなく、箱詰め作業も効率よく行えるような設計です。実はこの厚み、本の背表紙のように並べる『ブック陳列』にも対応しています」
店販強化の一環として、同社は店舗ごとに「販売コンクール」を実施。「勉強会や販促準備を通じてスタッフの知識を深め、お客様との会話のきっかけにも活用した」と佐々木さんは話す。
「プロジェクトを通して大切にしていたのは“お客様のセルフメディケーションに貢献したい”という価値観です。セルフメディケーションとは、自分自身の健康に責任を持ち、軽度の不調は自分で手当てする考え方です。例えば、軽い風邪や頭痛、肌荒れなど、病院に行くほどではない不調を市販薬でケアすることが、これからの社会で重要になると考えています」
第二回より
漢方の売れ行きを通して見えてくるもの
佐々木さんは「製品の販売を通して、ユーザーから嬉しい声が届いている」と話す。
「お客様からは『漢方薬をよく知らなかったが、薬剤師の説明で効能を理解できてよかった』と嬉しい声をいただいています。また、職員の家族が足のつりに悩んでいたため『芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)』を勧めたところ、効果を実感してもらえたという事例もありました」
漢方薬の興味深い点は、季節や気候、そして地域によって売れ方が大きく変わるところだ。
「夏場は、発汗による足のつりに効く『芍薬甘草湯』、気温の上昇や気圧の変化によって生じる頭痛に効く 『五苓散(ごれいさん)』などのニーズが高まります。地域別でも違いがありますね。たとえば、北海道ではシラカバ花粉の影響で春以降も『小青竜湯』が売れたり、東京では百日咳の流行で『麦門冬湯(ばくもんどうとう)』が伸びたりします」
2025年4月に発売開始して以降、わずか3か月で前年同期に販売した他社製品の2.5倍を売り上げた「10COINSKAMPO」。認知拡大においては、雑誌やネットニュースでリリースの発信を強化したほか、店頭PRにも注力した。
「店頭ではデジタルサイネージを放映したり、チラシを配布したりして訴求しました。全体的に効果があったと思っていますが、調剤薬局ならではのアプローチも功を奏したと感じています。お客様の『既往歴』をもとに漢方を紹介するんです。たとえば、お薬手帳に解熱鎮痛剤を処方している既往歴があれば、『五苓散のような漢方もありますよ』と提案します」
第三回より
忙しい現代人も、より「手に取りやすい」漢方へ
西洋薬からの「切り替え」ではなく、体質に合った漢方を「常備薬」の選択肢に加えてもらう。そんな調剤薬局ならではの提案が、顧客の意識を少しずつ変えているようだ。今後の展望について、佐々木さんは次のように話す。
「今後は、日本調剤の店舗やECサイトでの販売を強化するとともに、お問い合わせをいただいている他のチェーン薬局様へも展開を広げていく予定です。あわせて、市販薬を身近に備え、軽度な不調は家庭でケアする“セルフメディケーション”の考えを広めていきたいですね。将来的には、お客様自身が自分に合った漢方を選べるよう、支援ツールの活用も検討できればと考えています」
これからは、漢方ならではの“根本に働きかけるアプローチ”が、多忙な現代人の新たなセルフケアとして注目されていくだろう。最後に、リスナーにメッセージをもらった。
「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てする『セルフメディケーション』の重要性は一層高まっていきます。ご家庭に常備薬を備え、軽い病気は市販薬でケアする考え方を、ぜひ皆さんの生活にも取り入れてみてください。10COINSKAMPOと5COINS PHARMAは、全国約760店舗の日本調剤の薬局、または日本調剤オンラインストアでお求めいただけます」
第四回より
取材・文・撮影/久我裕紀 構成/DIME編集部