
働き方の多様化が進んでいるが、企業にとっては人的資本経営の重要性が高まっているといえる。それによって従業員各個人のキャリア自律支援やリスキリング推進が経営課題にもなっているという。
そこで国内最大級のITフリーランス向けエージェント『TECHBIZ』などフリーランスと企業のマッチングサービスを運営するテックビズは、全国の正社員を対象に「キャリアの自律性に関する実態調査」を実施して結果を公開した。この調査では、半数以上の回答者が本業の正社員以外の働き方に関心があると回答したという。
55.4%が本業の正社員以外としての働き方に関心あり
「正社員としての働き方以外でしてみたいと思ったことがある働き方をお選びください。(いくつでも)」という質問では、半数以上の55.4%が本業の正社員以外の働き方に関心を示した。関心のある働き方のランキングは1位が副業・兼業(38.3%)で2位がフリーランス(14.8%)という結果だった。
副業への高い関心の背景には、物価高や将来への経済不安から「収入の複線化」によるリスク分散を図りたいニーズと本業では得られない経験やスキル習得の機会として副業を捉える「自己投資」的な側面がありそうだ。
フリーランスに関しては、52.6%がキャリアアップと認識しており、従来の「安定志向」から「成長・自己実現志向」や「自由な働き方」への価値観の転換として読み取れそうだ。フリーランスという働き方の認知度の高まりによって、働き方の自由化に対するニーズが広がっているといえるかもしれない。
64.7%がキャリアアップのために特に何もしていないと回答
「あなた自身のキャリアに対する考え方についてもっとも近いものをお聞かせください」という質問では、64.4%が「自分で積極的に構築していきたい」、「どちらかといえば自分で構築していきたい」と回答したが、「キャリアアップのために過去1年間で行った取り組みはありますか(いくつでも)」という質問には、64.7%が「特に何もしていない」と回答している。
「キャリアアップのための取り組みをすることに対して障壁と感じることは何ですか」という質問で、障壁として1位だったのは「時間がない」(25.2%)で2位は「何から始めればいいかわからない」(22.1%)だった。日本の雇用文化では、会社がキャリアを用意してくれるという前提があり、個人が自分でキャリアを開拓することに対する社会的な後押しや成功モデルの可視化も不足しているという。
そういった挑戦への心理的ハードルが高い状況では、意識と行動のギャップ解消に個人の情報提供個人への情報提供だけでなく、キャリア自立を促進する社会的風土の醸成が不可欠だという。その意味では、日本企業の人的資本経営やリスキリング意識も高まっているが、実際の現場では発展途上の段階といえるかもしれない。
20代と30代の6割と60代の7割近くが高いキャリア自律意欲あり
今回の調査では、20代と30代の若手層と60代のシニア層で、それぞれ異なる背景から高いキャリア自律意識を示す結果が出たという。20代はキャリア構築意欲が「自分で積極的に構築していきたい」、「どちらかといえば自分で構築していきたい」を合計すると64.5%で高水準だった。
学習への積極性に関しても「主に個人で学習し、会社はあまり頼らない」、「完全に個人の責任で、常に学び続けなければならない」を合わせて53.3%で過半数以上が個人での学習の重要性を実感していると回答している。30代は、副業・兼業関心が49.4%で全年代最高値を記録し、転職サイト登録の19.4%も全年代最高だった。
実際の行動でも他年代を上回る積極性を発揮しており、フリーランス・独立への関心も20代と30代は18.9%と同率で全年代最高だった「フリーランスとして働いてみたいと思った理由をお聞かせください」という質問では、20代は88.2%、30代は85.3%が「自分のペースで柔軟に働きたい」と回答したという。
両世代に共通するのは「キャリア向上への強い意欲と自由な働き方への憧れ」で、こういった意欲のある世代は、具体的な行動指針の提供や段階的なキャリアステップの明確化して、転職・独立を含む多様な働き方を提案する具体的支援が効果的だという。
一方の60代は、キャリア構築意欲が「自分で積極的に構築していきたい」と「どちらかといえば自分で構築していきたい」を合わせると68.3%で全年代最高値だった。近年の定年退職年齢の延長や健康寿命の伸長で、60代でも現役で働き続ける人が増加し、従来の「定年=引退」という概念に変化が起こっているという。この世代は、長年培った専門知識や豊富な人脈を持ち、組織に依存しない自由度の高い働き方を模索する傾向があり、豊富な経験を活かしたフリーランス化支援や専門性を生かせる案件マッチング、人生100年時代に対応したセカンドキャリア設計支援が必要だという。
今後のキャリアで重視項目1位は高収入
現在の働き方の不満でもっとも多いのは「給与・待遇が低い」(58.3%)で、今後のキャリアプランで最重視することでは「高い収入を得ること」(35.1%)という結果になった。収入の不満と重視度の高さが全年代で共通している。不満については「仕事内容がつまらない」(30.8%)という回答がある一方で、「やりがいのある仕事をすること」(24.3%)が重視されるなど、重視する要素への不満が高い傾向がみられた。こうした「重視しているものに不満がある」状況にも関わらず、64.7%は「キャリアアップのために特に何もしていない」という矛盾構造もあるという。
これは個人の意欲不足ではなく、「時間がない」(25.2%)や「何から始めればいいかわからない」(22.1%)という直接的な障壁に加えて、転職によるリスクやスキル不足への不安、「不満を持ちながらも現状に留まることが合理的選択」となってしまう日本の労働市場の構造的問題でもあるという。行動を起こすコストが現状維持のコストを上回る状況が、こうした矛盾した行動パターンの元になっているという。
今回の調査では、年代でキャリア意識や行動パターンに大きな違いがあり、20代と30代の「高い自律意識と実行ギャップ」、60代の「経験活用と新しい働き方への関心」、全年代共通の「意識と行動の乖離」が課題として浮き彫りになったという。
半数以上の52.6%がフリーランスをキャリアアップと認識している結果もあり、自由度の高い働き方への強い志向もうかがえた。全年代共通の「重視する要素への不満が高いにも関わらず行動が限定的」という構造的矛盾の解決には、行動コストの軽減と成功事例の可視化、安心してチャレンジできる環境整備が不可欠といえるだろう。
「正社員900人にキャリアの自律性に関して調査」概要
調査対象:全国の正社員の男女900人(20代から60代の各180人)
調査期間:2025年9月12日~2025年9月16日
調査方法:インターネット調査
調査実施:テックビズ
https://techbiz.com/
構成/KUMU