
今回は京都の宿泊事情について旅館・一棟貸切宿の事業を行なうNazunaの渡邊龍一さんと対談。伝統建築を使うなど、今までにないブランディングや、ターゲットマーケティングについて盛り上がった。

【話を伺った人】Nazunaの渡邊龍一代表取締役社長兼CEO
1991年生まれ、奈良県出身。近畿大学を卒業し、2017年にコロンビア・ワークス入社。2021年に退社後、Nazunaに参画。2024年に現職へ就任。
伝統的な京町屋の建物を活用した
古風で新しい体験を提供する宿を取材!
玉川 この連載でテーマにしている京都は、インバウンドの影響もあり、宿を予約しにくいといわれます。京都で旅館を運営している渡邊さんは、そのあたりの事情についてどう見ていますか。
渡邊 実は今「供給過多」といってもいい状態です。コロナ禍明けの直後はどこも満室でしたが、その後は花見(春)や紅葉(秋)といった〝ハイシーズン〟を除くタイミングなら、予約は全然取れますよ。例えば、10月は〝ハイシーズン〟に差し掛かるので難しくなるかもしれませんが、暑さが残る〝ローシーズン〟の9月は予約しやすく、価格もメッチャ安いです。
玉川 そうなんですね。意外な気もします。ちなみに渡邊さんは学生時代から宿泊業の仕事を志していたのですか?
渡邊 学生時代はキャバクラのバイトを通し、女性スタッフと一緒に「お客様が本当に求めているのは何か」を勉強しました。Nazuna代表と知り合った2021年から、この業界に参画しています。
玉川 興味深い経歴ですね。渡邊さんが代表取締役社長兼CEOを務めている、Nazunaの宿泊施設の特徴は?
渡邊 「おせっかい」をコンセプトとする、30室以下のスモールラグジュアリー施設です。1泊当たり5万円以上になります。

玉川 集客の状況や、運営面で工夫している点などはありますか?
渡邊 自社サイトへの直接予約が多く、箱根の施設は開業前から予約が殺到しました。一般的な旅行代理店やOTA(Online Travel Agent/オンライン上で旅行商品を販売する会社)には頼っていません。SNSを積極的に活用し、顧客に対して情報を直接届けています。発信力のあるインフルエンサーの方々に投稿してもらうことも多いです。
玉川 協力してもらっているのは具体的にどんなインフルエンサーなのですか?
渡邊 旅行サイトのインフルエンサーが中心です。若い人たちに人気の女性モデルも含まれていて、実際に利用している様子を投稿してもらうことで、口コミに近い状態のPRになります。それにより、女性のフォロワーや閲覧者に「こういう写真や動画が撮れる」と理解してもらえれば、男性客の増加にもつながります。
玉川 なるほど。話を伺っていると顧客の中心はだいぶ若い層のようですね。
渡邊 おっしゃるとおり。メインターゲットは20~30歳代の日本人で、外国人観光客も含まれます。1泊当たり5万円以上の料金設定は若年層でも利用できる価格帯です。今の若い人たちの中で、ブランド時計や自動車といった〝自分のための買い物〟というニュアンスが強い商材に興味を持つのは少数派。一方で、年収500万円レベルでも、友人や恋人が喜ぶような特別な体験には、ドカンとお金を使う傾向が高いです。若い世代の消費傾向を徹底的に意識しながら、宿泊で得られる体験を訴求しています。

玉川 どのような宿泊体験に対し、若い世代は価値を見いだすのでしょう?
渡邊 自分たちのための特別なサービスが好きで、記念日には私どものサプライズプランナーが演出を手伝います。外国人観光客は歴史や文化的背景、日本だけの特別な体験を重視されます。日本の伝統建築に泊まるという体験価値をしっかり理解しているので、例えば階段が急でもクレームになりません。
玉川 そうすると私のような60代は、完全にターゲット外ですね(笑)。
渡邊 申し訳ありませんが……(苦笑)。弊社がコンバージョンやリノベーションをする宿泊施設は「壁が薄い」「階段が急勾配」といった京町屋ならではの特徴があります。これらは50代以上にとっては真っ先にクレームの対象になってしまうのです。100年以上前に建てられた京町屋の建物には、そもそもバリアフリーという概念がありませんからね。
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京町屋オーナーになって部屋を貸し出す計画もアリ
玉川 ターゲットを研究して絞り込み、すごく割り切っていますね。ちなみに町屋一棟買いをし、自分が泊まらない時は他人に貸すようなことは可能ですか?
渡邊 私どものグループ会社で、そういった事業をしています。特に京町屋の一棟貸しは、メチャメチャ物件があります。エリアによって変わりますが、古いもので6000〜8000万円。さらにリノベーション費用が追加されます。設備に掛ける費用にもよりますが、宿泊料金は1泊8万円くらい。運用した場合の利回りは約8%程度でしょうか。
玉川 それはなかなか魅力的な数字ですね。今後ぜひ、そちらの話の続きについても詳しくお聞きしたいです!
Nazunaが提供してきた20~30代&外国人観光客にウケる
京都らしいサービス


季節ごとにイベントがあり、春は「桜ウェルカム」として桜のフィナンシェを提供。梅雨期は「てるてる坊主」づくり、8月は「世界ビールデー」に京都各地のクラフトビールが飲めるイベントも。現場を任されたスタッフの満足度も高いようだ。
今月の取材で深めた京都の最新宿泊事情
□ 外国人観光客が多いものの花見や紅葉の季節以外は比較的予約しやすい
□ 日本の若者は伝統よりも写真映えする体験を重視
□ 外国人観光客は歴史や建物の構造に興味あり
□ 宿泊施設の情報発信は女性の心をつかむのが大事。そうすれば結果として男性にも情報が届く
今回のまとめ
今回の取材で印象的だったのは、ハッキリと言い切る渡邊さんの話ぶりです。再利用している京町屋の特徴をふまえてターゲットを若い人や外国人観光客に絞り込み、彼らが求めていることに集中したサービスを展開しているので〝的を外す〟ことがありません。若い人や外国人観光客といったターゲット層に楽しんでもらえるように工夫を凝らすことにも余念がなく、自社やインフルエンサーのSNSを積極的に活用する姿勢も含めて、Nazunaの取り組みには〝迷いがない〟と感じました。差別化を図るためにはこういった「割り切った戦略」も有効であることを知り、とても勉強になりました。読者の皆さんも好きなことを探究し、学びを得る機会にしてください。
一棟買いして宿を運営する話は実に興味深い!もっと調べたいです

玉川徹さん
テレビ朝日系、朝の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーターとしておなじみ。パーソナリティーを務めるレギュラー番組『ラジオのタマカワ』(TOKYO FM / 毎週木曜日11:30 ~13:00)が大好評オンエア中!
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