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【仕事の裏側】購入者の約半数が男性!ジェンダーレスな子育てバッグ「Hug育バッグ」開発秘話

2025.10.16

気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第20回は、“親子のふれあい”をコンセプトに、クラウドファンディングで1000万円を集めたヒップシート「Hug育(はぐいく)バッグ」を開発・販売する、株式会社エミナルの脇谷由香さんと健太郎さんに話を聞いた。夫婦起業ならではの葛藤と成長、そして子育て世代に寄り添うものづくりの哲学に迫る。

保育現場で見た”本当に必要なもの”

「元々、このバッグを作りたくて会社を立ち上げたわけではないんです」

そう話すのは、Hug育バッグの開発者である脇谷健太郎さん。在宅でできる仕事を確立し、将来を見据えた働き方を模索していた2022年。健太郎さんが消防士、共同開発者の由香さんは保育士という二足のわらじで、海外商品を日本で販売する貿易ビジネスを手がけていた。転機となったのは、子育ての中の小さな違和感だった。

「既存のマザーズバッグを使いながら、『もうちょっとこうだったらいいのに』と感じることが多くて、子育てをしている人向けのバッグを作りたいと主人に提案したんです」(由香さん)

保育現場で保護者や保育士の悩みを日々見聞きしていたからこそ、自分たちも子育て真っ最中であったからこそ、“本当に必要とされるもの”を形にできるという確信があった。5歳と7歳、2人の子どもを育てながら、夫婦は新たな挑戦を始めた。

1年間の試行錯誤。知識ゼロからの商品開発

開発で最も苦労したのは、イメージを形にする過程だった。縫製の知識が全くない状態で、作りたいバッグのイメージをイラストに落とし込み、工場に提出したものの、うまく伝わらない。

「そもそも物理的に無理な寸法でオーダーしてしまって、一番最初の試作品は、どでかいシリアルバッグみたいなものが届いたんです(笑)。担当者が外国籍の方で、日本語は上手なんですけど、細かいニュアンスを伝えるのが難しくて…」(由香さん)

バッグ製造経験者などに相談し、試行錯誤の上、工場とも何度も話し合いを重ねた。立体図面の描き方を学び、折り紙のように紙を折って立体的に構造を伝える工夫もした。5回のサンプル製作を経て、ようやく納得のいく形にたどり着いた。完成まで約1年を要した。

「その間もクラウドファンディングでの物販をいくつか並行して進めていたので、『これもやらなきゃ、あれもやらなきゃ』という日々でした。子どもを寝かしつけた後にパソコンを開くことも多く、家族の時間とのバランスには本当に悩みました」(由香さん)

家族のために始めた事業が、家族の時間を奪う。その矛盾に向き合いながら、由香さんはタスクを増やしすぎないよう意識的にコントロールするようになった。

購入者の45%が男性。ジェンダーレスな子育てバッグ

完成したHug育バッグの最大の特徴は、男女兼用で使えるデザインだ。登山用リュックに使用される丈夫な生地を採用し、販売当初は黒一色での展開。購入者の45%が男性という数字は、二人の意図が間違っていないことを意味している。

商品ページには健太郎さん自身がモデルとして登場。多くのマザーズバッグが女性向けのイメージで打ち出される中、「男性が使った時にどう見えるか」をあえて提示した。

「小規模でやっているからこそ、自分たちがモデルになって男性の使用イメージを持ってもらおうと思いました。それが結果的に男性にも手に取ってもらいやすくなったのかなと思います」(健太郎さん)

「Hug育」という商品名には、もう一つの想いが込められている。

「バッグを使うことで、抱っこが楽になるだけじゃなくて、親と子どもが肌を寄せ合う瞬間が生まれる。このバッグを通して親子の触れ合いや、家族の時間を『ハグして育てる』という意味を込めました。抱っこした時に子どもがお父さんやお母さんの胸にぴったり寄り添えるよう、傾斜をつけるなど、こだわって設計しました」(健太郎さん)

夫婦だからこそのメリットとデメリット

健太郎さんが消防士として勤めていた頃は、24時間勤務のため、家を不在にする時間がどうしても多かった。事業を始め、自宅で仕事をすることが多い今は、「子どもの成長を間近で見られる幸せ」を感じているという。

「毎朝の子どもの見送りも、『ただいま』の声を聞くことも、お風呂に一緒に入ることもできる。自分にとって、それがとても良い時間だなって思っています。授業参観など、平日の行事にも参加できるようになりました」(健太郎さん)

一方で、夫婦経営ならではの難しさもある。仕事とプライベートの境界線が曖昧になり、24時間仕事のことを考えている状態。他人なら言えないことも、夫婦だからこそ言えてしまう。意見の食い違いが衝突に発展することもある。

「最初は『すぐに怒らないようにしよう』とルールを決めたんですけど、うまくいかなかった(笑)。今は、お互いの仕事内容を全部見ようとしないようにしています。仕事内容によって、かかる時間も労力も違うのに、全部見ようとすると『私はこれだけやってる、あなたはこれしかやってない』と天秤にかけてしまうので」(由香さん)

「このバッグがなければ帰省できなかった」その一言が支えになる

2025年に実施したクラウドファンディングでは、応援購入金額1000万円を達成、サポーターは975人にものぼった。数字の成果も大きいが、2人にとって何より嬉しいのは、実際に手に取った人からの感謝の言葉だ。

「購入者の方が『Hug育バッグがなかったら、実家に帰省できなかった』という声を聞いたり、ご夫婦で2つ購入してくれたり。ママ会を開催した際には、購入者の方がお子さまと一緒に会いに来てくださったこともありました。自分たちの想いに共感してもらえたことが、すごく嬉しかったです」(由香さん)

「消防時代の同僚や上司が『知り合いの出産祝いに買いたい』と連絡をくれたんです。もう辞めて2年経つのに、影ながら応援してくれていたんだなと感じ、胸が熱くなりました」(健太郎さん)

家族を軸にした”在り方”としてのビジネス

今後の展望について聞くと、2人はこう答える。

「Hug育バッグのブラッシュアップを続けながら、子育てに関わる人たちが助かる商品を開発していきたい。ベビー・キッズメーカーとしての立ち位置を確立して、自社商品だけでなく、海外メーカーなど他社の良い商品も含めて、ファミリー向けのセレクトショップのような形を作っていきたいですね」

自分たちが心からいいと思えるものを形にし、誰かの笑顔につながる。その積み重ねこそが、ブランドを育て、信頼をつくる。その姿勢こそ、これからのビジネスを強くする原動力になるだろう。

【取材協力】
株式会社エミナル
脇谷由香さん・健太郎さん
「Hug育バッグ」12,100円(税込)
https://item.rakuten.co.jp/eminal-store/e1047/

取材・文 / Kikka

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