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累計100万個を突破!においを徹底的に解析して生まれた〝トイレ用くん煙剤〟ヒットの理由

2025.10.21

■連載/ヒット商品開発秘話

トイレをキレイに掃除しても、しばらくするとまた臭ってくる。ニオイとの戦いはイタチごっこの様相を呈しているといっても過言ではない。

そんなトイレのニオイに立ち向かうべく開発されたのが、ライオンの『ルックプラス トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』(以下、トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤)。2025 年4月に発売され、発売から3か月で累計販売個数(出荷ベース)が100万個を突破した(3個パックは3個としてカウント。ライオン調べ)。

『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』は、銀イオンの煙でトイレをまるごと除菌(注、すべての菌を取り除くわけではない)。壁や床だけではなく、掃除が行き届かない換気扇、タンク裏などまですみずみに煙が行き渡るので、ニオイの原因となる菌(ニオイ菌)を除菌することができる。使い方は簡単で、容器に水を入れてから缶を置き、煙が発生したらトイレを閉めて30分後に20分換気するだけだ。

トイレ用としては初のくん煙剤になる『ルックプラス トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』。銀イオンの煙をトイレ空間全体に行き渡らせることで、なかなか掃除が行き届かない場所に潜む菌を除菌することができ、ニオイの発生が抑えられるようになる。くん煙する目安は1か月に1回

くん煙剤で解決できるトイレの悩みは何か?

『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』は『ルックプラス おふろの防カビくん煙剤』(以下、おふろの防カビくん煙剤)の成功を受けて誕生した。『おふろの防カビくん煙剤』は2012年9月に発売され、現在カビ防止剤市場で売上ナンバー1(累計販売金額 2024年3月~2025年5月インテージSRI+調べ)。累計販売数(出荷ベース)は1億個を突破した(3個パックは3個としてカウント。ライオン調べ)。

「『おふろの防カビくん煙剤』に採用した銀イオンの煙をトイレ空間全体に行き渡らせる独自技術と、対処ではなく予防することの簡便さを広げられることから、社内ではトイレへ横展開すべきと考えられていました」

このように話すのは、『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』の企画を担当したヘルス&ホームケア事業本部ホームケア事業部の出島綾乃さん。トイレで使えるくん煙剤を望む声は以前から、社内に限らずユーザーからも挙がっていたが、どんな悩みが解決できるかの検討に時間を要した。

検討に当たり各種の調査を実施。トイレ掃除の意識が便器周りをキレイにすることから空間全体をキレイにすることに変わってきていること(n =2000、2017年12月・2021年10月ライオン調べ)、8割近くの人が掃除してもしばらくするとニオイが出てくることに不満を感じていること(n=1200、WEB調査、2023年12月ライオン調べ)などがわかった。

同社はニオイについてさらに調査を進めることにした。ニオイの原因として考えられるものとして挙がったのが、回答が多かった順に「床や壁に飛び散った汚れ」「手が届かない隙間に繁殖した菌」「床や壁に繁殖した菌」となり、ニオイ対策として実施していることとしては、「こまめな掃除」が最多。便器周りを週1回以上掃除する人は全体の8割以上にのぼったものの、壁や天井、換気扇まではなかなか手が回っておらずマメに掃除されていないこともわかった(n=1200、WEB調査、2023年12月ライオン調べ)。

菌叢解析技術でニオイ菌を特定

以上のことから同社はトイレ空間全体にアプローチする商品は受け入れられる可能性が高いと判断。掃除してもニオイの発生に不満を覚える人が多いことからニオイ対策に使えるものをつくることにした。

「ニオイの発生は掃除が行き届いていない場所に原因となるニオイ菌があると仮説を立てました」

このように話すのは、開発を担当した研究開発本部リビングケア研究所の那須万里奈さん。この仮説は、衣類の生乾き臭や汗臭など生活の中で感じられる悪臭には菌が関与していることが多く報告されていることに基づいたもの。仮説を検証するべく、トイレの実態調査に着手した。

ライオン
ヘルス&ホームケア事業本部ホームケア事業部
出島綾乃さん(右)
研究開発本部リビングケア研究所
那須万里奈さん

実態調査は一般家庭に出向き、トイレの便器内、床、壁、換気扇から菌を採取し生菌数を測定。便器手前や横の床の生菌数が便器内に匹敵し、壁や換気扇からも多くの菌が確認された。

家庭のトイレ内の生菌数(場所別)

ニオイの発生に関わる菌の特定には、同社が強みにしている菌叢(きんそう=細菌の集団)解析技術を活用した。家庭のトイレのいろんな場所から採取してきた菌を特殊な機械にかけて細菌由来の遺伝子配列を読み取り、採取した場所にどのような菌がいたかの割合を算出。ニオイが気になる家庭とそうでない家庭を比較することで、ニオイが気になる家庭で多かった菌をニオイ菌として特定することを可能にした。

解析の結果から、換気扇のほこりや尿汚れといった家庭のトイレにある汚れと混ざるとニオイ強度を強める菌2種をニオイ菌として特定。2種のニオイ菌はトイレ全体から検出され、床、壁、タンク裏、換気扇など掃除が行き届かないところにもいるものだった。

「換気扇のほこりや尿汚れは、少量だとそれほど強いニオイを発しません。なかなか掃除が行き届かないところに残っている汚れとニオイ菌が混ざることでニオイが発生しているのではないかと考えられました」と那須さん。先に挙げた仮説は、掃除してもやがてニオイが戻ってしまう原因として有力視されるようになった。

掃除が行き届いていない場所(壁、換気扇、タンク裏など)に潜んでいるニオイ菌が汚れ(ほこり、尿汚れ)をエサにすることで、掃除をしてもしばらくするとニオイが発生する

掃除しても発生するニオイを解決するには、ニオイ菌を取り除くことが不可欠。除菌効果の高い銀イオンの煙でトイレ空間全体を除菌すれば、なかなか掃除が行き届かないところに潜むニオイ菌も頑張ることなく簡単に取り除くことができる見通しがついた。

短時間での使用完了と効果の両立

開発に当たっては、ニオイの言語化(=どのようなニオイがするのかを明確にする作業)に時間を要した。一般家庭を訪問してトイレのニオイを嗅がせてもらったり汚れを採取したりすることはもちろん、社内のトイレを1日閉め切って臭気分析を行なった。一般家庭は社員の自宅も含め何十軒も調査。社内のトイレではできるだけ家庭用と環境を合わせるため、ドアの下など空いているところを塞ぐといった準備をしてからチューブを使ってニオイを捕集した。

せっかく捕集したニオイが飛んでしまうこともあり、ニオイを集め直したことも。一般家庭への訪問調査が新型コロナウイルスの感染拡大と重なったことなどから、ニオイの言語化には3年近くかかった。

製品仕様を固めるのも簡単ではなかった。『おふろの防カビくん煙剤』とは異なりトイレで使うのに適した仕様が求められた。

考慮しなければならなかった点の1つが、閉め切っている時間。『おふろの防カビくん煙剤』は煙が発生したら90分間、浴室を閉め切るが、家庭のトイレは90分も閉め切ることができない。閉め切る時間を短くすることが不可欠だった。

「短時間で使用を完了させつつも効果は妥協したくなかったので、中味の組成や煙の量を工夫して使いやすさと効果のバランスを取る製品設計をしました」と那須さん。サンプルをつくっては研究所内のトイレでくん煙させ、煙の濃さを確かめたり社員に評価してもらったりを繰り返した。

有効成分の銀イオンはカビ予防にも効果がある。便器内の水際に発生する黒ずみもカビが原因なことから検証したところ、予防できることが確認された。そこで、便器内の水際に発生する黒ずみ予防も効果として謳うことにした。

除菌消臭は効果実感がやんわりしているところがあるが、水際の黒ずみ予防は目視で効果が実感できる。黒ずみ予防も謳うことには、効果が明確に実感できることを示す意味もあった。

『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』でくん煙中のトイレ

『おふろの防カビくん煙剤』ユーザーの獲得を意識

販促では『おふろの防カビくん煙剤』にぶら下がることにした。狙いは『おふろの防カビくん煙剤』のユーザーを取り込むことにあり、パッケージ側面に「トイレにはこちら」と表記した案内を盛り込み、テレビCMでは最後に「トイレには除菌消臭くん煙剤!」と商品の案内を差し込んだ。

現在店頭に並んでいる『おふろの防カビくん煙剤』のパッケージ。トイレ用として『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』があることを謳っている

CMで広く認知拡大を目指しながら単独でインフォマーシャルも実施。CMより長尺であることを生かし、商品の特長を理解してもらうことに時間を使った。全国放送の番組でのインフォマーシャルには出島さんが出演したが、地方局のローカル番組では近くの支社の営業部員が対応。インフォマーシャルは店頭施策と連動させ、放送に合わせて店頭でエンドに陳列したり『おふろの防カビくん煙剤』との一体陳列を実施したりするなど、露出拡大を徹底した。

新たな試みとして実施したのが新聞広告の出稿だった。高年齢層のユーザー獲得を目的とし、8月に読売新聞社が関西圏で発行している『読売ファミリー』に『おふろの防カビくん煙剤』と合わせて出稿した。また、引越サービス事業者のメイン会員である20~30代単身女性を対象に、アンケートに回答した人の中から抽選で100名に商品をプレゼントするサンプリングも実施した。

狙いとしていた『おふろの防カビくん煙剤』ユーザーの獲得については、『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』ユーザーの約3割が、購入より半年前以内に『おふろの防カビくん煙剤』を購入していることが調査から判明。他のトイレ洗剤や消臭芳香剤は1割に満たない結果だったので、『おふろの防カビくん煙剤』ユーザーは順調に獲得できている。

取材からわかった『ルックプラス トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』のヒット要因3

1.手が行き届かないところまでケア

マメに掃除をしていても、なかなか手が行き届かないところがある。そういうところまでもれなくケアし、ニオイの発生が抑えられるようになった。

2.『おふろの防カビくん煙剤』のブランド力活用

大ヒット商品『おふろの防カビくん煙剤』の横展開で誕生したが、ブランド力の高い商品の横展開なので、効果に信頼感があった。販促でも高いブランド力を生かし抜かりがなかった。

3.小売店が販売に乗り気になってくれた

既存のトイレ用洗剤や消臭芳香剤をやめて使うものではなく、これらにプラスαするものとして使う。小売店の立場から見て、生活者がすでに使っているものにプラスαするものは既存品の売上を落とす心配がないので、多くの店舗で取り扱ってもらえた。

『トイレのまるごと除菌消臭くん煙剤』が従来のニオイ対策と異なるのは、空間全体にわたりニオイ発生の根本原因を解決するところ。しかも、煙が発生したら閉め切って放置するだけなので、手がかからない。ブランドコンセプト『がんばらなくてもキレイ』が実感できるだろう。

製品情報
https://look.lion.co.jp/toilet/kunen/

取材・文/大沢裕司

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