正社員の半数以上がフリーランスになることを「キャリアアップ」と認識

2025.10.14

まだまだ先が長い若手社員と、ゴール及び延長戦が見えているシニア層の社員ではキャリアに対する意識が異なっていて当然だ。

では、それぞれの年代において、キャリアで重視することにはどのような違いがあるのだろうか？

テックビズはこのほど、全国の正社員900名を対象に「キャリアの自律性に関する実態調査」を実施し、その結果を発表した。

半数以上(55.4%)が本業の正社員以外の働き方に関心あり

「正社員としての働き方以外で、してみたいと思ったことがある働き方をお選びください（いくつでも）」という質問に対して、半数以上(55.4%)が本業の正社員以外の働き方に関心を示し、1位の副業・兼業(38.3%)、2位のフリーランス(14.8%)への志向が明確になった。

副業への高い関心の背景には、物価高や将来への経済不安から「収入の複線化」によるリスク分散を図りたいニーズと、本業では得られない経験やスキル習得の機会として副業を捉える「自己投資」的な側面があると推測される。

また、52.6%の人がフリーランスになることを「キャリアアップ」と認識している点は、従来の「安定志向」から「成長・自己実現志向」「自由な働き方」への価値観の転換を示唆している。これはフリーランスという働き方の認知度の高まりを表し、働き方の自由化に対するニーズが広がっていることを示している。

64.4%が「自分でキャリアを構築したい」一方で、64.7%がキャリアアップのために「特に何もしていない」

「あなた自身のキャリアに対する考え方について最も近いものをお聞かせください」という質問に対して、64.4%が「自分で積極的に構築していきたい」「どちらかといえば自分で構築していきたい」と回答。一方で、「キャリアアップのために、過去1年間で行った取り組みはありますか（いくつでも）」に対して、64.7%が「特に何もしていない」と回答した現実は、単なる個人の意欲不足ではなく、複層的な構造問題を抱えていることを示している。

「キャリアアップのための取り組みをすることに対して障壁と感じることは何ですか」という質問で障壁として1位に上がったのは「時間がない」(25.2%)、2位「何から始めればいいかわからない」（22.1%）という時間や情報・指針不足だったが、問題はより深層に根ざしている。

日本の雇用文化では長らく「会社がキャリアを用意してくれる」という前提があり、個人が「自分でキャリアを開拓する」ことに対する社会的な後押しや成功モデルの可視化も不足しており、挑戦することへの心理的ハードルが高い状況がある。

この意識と行動のギャップ解消には、個人への情報提供だけでなく、キャリア自立を促進する社会的風土の醸成が不可欠だ。日本企業の人的資本経営やリスキリング意識も高まってきてはいるが、実際の現場ではまだ発展途上の段階だと言える。

20-30代の6割と60代の7割近くが高いキャリア自律意欲

今回の調査では、全年代を通じてキャリア意識の特徴的な傾向が見られたが、特に20-30代の若手層と60代のシニア層において、それぞれ異なる背景から高いキャリア自律意識を示す興味深い結果が得られた。この二つの年代層の特性を詳しく分析することで、現代の多世代におけるキャリア支援の方向性が見えてくる。

■20-30代：高い意欲と自由な働き方への憧れを持つ支援対象層

20代はキャリア構築意欲が「自分で積極的に構築していきたい」「どちらかといえば自分で構築していきたい」が合計64.5%で高水準を示し、学習への積極性に関しても「主に個人で学習し、会社はあまり頼らない」「完全に個人の責任で、常に学び続けなければならない」が合計53.3%で過半数以上が個人での学習の重要性を実感している。

30代は副業・兼業関心が49.4%で全年代最高値、転職サイト登録19.4%も全年代最高など、実際の行動でも他年代を上回る積極性を発揮している。また、フリーランス独立への関心も20代・30代ともに18.9%と同率で全年代最高だ。「フリーランスとして働いてみたいと思った理由をお聞かせください」という質問に対して、20代は88.2%、30代は85.3%が「自分のペースで柔軟に働きたい」と回答した。

両世代に共通するのは「キャリア向上への強い意欲と自由な働き方への憧れ」だ。このような意欲的な世代には、具体的な行動指針の提供や段階的なキャリアステップの明確化、そして転職・独立を含む多様な働き方を指し示す具体的支援が効果的と考えられる。

■60代：経験を活かした自主的キャリア再設計層

60代はキャリア構築意欲が「自分で積極的に構築していきたい」「どちらかといえば自分で構築していきたい」が合計68.3%で全年代最高値を示している。近年、定年退職年齢の延長や健康寿命の伸長により、60代でも現役で働き続ける人が増加しており、従来の「定年＝引退」という概念が変化している。

この世代は長年培った専門知識や豊富な人脈を持ちながら、組織に依存しない自由度の高い働き方を模索する傾向があり、豊富な経験を活かしたフリーランス化支援や、専門性を生かせる案件マッチング、そして人生100年時代に対応したセカンドキャリア設計支援が必要になっている。

■若手とシニアの対比

「あなたにとって「成功したキャリア」で最も重要なのは何ですか？最大3つお選びください」という質問に対して、20代では「チャレンジや成長を続ける」ことが最重視される一方、年齢を重ねるにつれて「やりがいのある仕事をする」の重要度が右肩上がりに増加し、60代では59.4%と全年代最高値に達する。

対照的に「高い収入を得ること」は若手層で高く、シニア層では大幅に低下する。キャリア初期の経済的安定確保から、経験を積むにつれて内発的動機や社会貢献への意識が高まっていく。また、「安定した雇用を維持する」が30-40代でピークを迎えるのは、ライフステージ上の責任が最も重い時期の特性を反映している。

給与不満58.3%、今後のキャリアで「高収入」が重視項目1位でも64.7%が行動せず

現在の働き方の不満で最も多いのは「給与・待遇が低い」58.3%である一方、今後のキャリアプランで最重視されるのは「高い収入を得ること」が35.1%となっており、収入への不満と重視度の高さが全年代で共通して見られる。また、「仕事内容がつまらない」（30.8%）という不満がある一方で「やりがいのある仕事をすること」（24.3%）を重視するなど、重視する要素への不満が高いという現実がある。

しかし、この「重視しているものに不満がある」状況にも関わらず、64.7%が「キャリアアップのために特に何もしていない」という矛盾構造が存在している。これは単なる個人の意欲不足ではなく、「時間がない」が25.2%、「何から始めればいいかわからない」が22.1%という直接的な障壁に加え、転職によるリスクやスキル不足への不安、さらには「不満を持ちながらも現状に留まることが合理的選択」となってしまう日本の労働市場の構造的問題を示唆している。行動を起こすコストが現状維持のコストを上回る状況が、この矛盾した行動パターンを生み出していると考えられる。