
SNSやAIの普及で膨大な情報にアクセスできるようになったが、同時にAI生成による事実と異なる情報の「ハルシネーション」やSNSの断片的な情報を真偽の確認なく受け入れてしまう傾向も強まっているという。こうした潮流は、ビジネスのマネジメントにも影響を与えており、リモートワークやチャットツールによって対面コミュニケーションの機会が減少して業務的な情報交換にとどまりやすくなって、上司と部下の関係が「表層的なマネジメント」に陥る要因になっているという。
このような状況を踏まえて、光学・精密機器の開発製造を手掛けるカールツァイスは、全国の管理職500名、一般社員500名を対象に「ビジネスパーソンの上司・部下の関係性に関する調査」を実施して、その結果を公開した。それによれば理想の上司の1位は「話しかけやすい」だが、退職時の上司と部下の感情にギャップが生まれていることが浮き彫りになったという。
理想の上司は話しかけやすい人で、対話の姿勢が部下のモチベーションを左右
一般社員に「理想の上司」について質問すると、1位は32.6%で「話しかけやすく相談しやすい」だった。2位以下も「コミュニケーション能力が高い」(27.2%)、「公正公平に判断して贔屓がない」(25.4%)、「業務の目的や背景を丁寧に説明する」(24.0%)、「部下の失敗を成長の機会と捉える(21.4%)」といった回答だった。ちなみに最下位は「部下のキャリア形成をサポートする」(17.2%)」だった。
仕事へのモチベーションを低下させる上司の言動についての質問では、6割以上が「アドバイスは多いがこちらの意見は聞いてくれない」と回答。2位以下も「フィードバックで理由や背景を聞かずに否定的な指摘をされる」や「ヘルプを求めた時に具体的な指示などなく「がんばれ」とだけ言われる」といった否定的な言葉や抽象的な言葉による対応だった。一方的で背景を掘り下げないコミュニケーションや部下の意向を無視した対応は、アドバイスやフィードバックの内容が的確でも「聞いてくれない」や「説明してくれない」と部下のやる気を削ぐ可能性があるという。
仕事における気持ちや行動に関する質問では、一般社員の半数以上が「上司の気持ちを気遣って言いたいことを我慢している」(54.8%)と回答しており、上司の顔色をうかがってきちんと質問できない現状もみえたという。
1on1ミーティングが「1か月に1回以上」の上司の約86%が部下との関係性が良好
どのくらいの頻度で「1on1ミーティング」のような話し合いの機会を設けているかを管理職に聞くと、「1か月以上の頻度で1on1を実施している」(49.8%)と回答した管理職の86.3%が「部下との関係が良好」と答えている。それが「半年に1回以下の頻度で1on1を実施している」(30.0%)と回答した管理職では68.0%にとどまり、18.3%も低下していた。やはり部下との関係を良好に保つためには、時間を割いてコミュニケーションを取ることが重要だといえる。
「部下のための時間を確保できているか」については、「半年に1回以下の頻度で1on1を実施している」(30.0%)と回答した人の約6割が「忙しさから自分の仕事を優先してしまう」(58.6%)と回答しており、上司が自分の時間を優先して部下の課題や悩みに寄り添えていない現状もみえたという。
1on1ミーティングなどで「上司に本音を言えているか」については、「本音を言えている」(46.4%)と回答した一般社員の約9割が「退職・休職を検討・実行したことはない(真剣に検討したことがない)」と答えており、上司との本音を話せる関係性が不満や問題を未然に解決して健全な信頼関係の構築につながっているようだ。部下のモチベーション維持や組織の健全性を高めるためには、上司の「傾聴姿勢」と「対話への時間投資」が大切といえる。
約3人にひとりの管理職が突然の部下の休職・退職を経験
管理職に部下の突然の退職・休職経験の有無を質問すると、およそ3人にひとりが「突然の退職・休職あり」(32.4%)と回答した。突然の部下の退職・休職に対して上司が後悔していることでは、1位は「業務量の負担や偏りを考慮すること」(32.7%)、2位は「キャリアや将来について対話の機会(1on1など)を増やすこと」(30.8%)、3位は「職場の人間関係や雰囲気を改善すること(29.0%)という結果だった。ちなみに最下位の8位は、「部下の体調管理や健康面に気を付けること」(22.2%)だった。
一般社員で「上司が理由で退職・休職を検討または実行したことがある」(44.0%)と回答した人に、当時の上司にして欲しかった行動を質問すると、1位は「自分のキャリアや将来について対話の機会(1on1など)を増やすこと(25.0%)」で、2位は「自分の体調や健康面にも気を配ること(23.1%)」、「業務量の負担や偏りを考慮してくれること(23.1%)」、「職場の人間関係や雰囲気を改善してくれること(23.1%)」という結果だった。管理職が「後悔したこと」として最下位だった「部下の体調管理や健康面に気を付けること」は、一般社員では「して欲しかったこと」の2位にランクインしており、部下の不調サインに上司が気づいて適切に対応できるかがマネジメントの大きな課題であることが浮き彫りになったといえる。
今回の調査でわかったのは、部下が上司に求めているのは「話しかけやすさ」や「丁寧な説明」、「体調や精神面への配慮」など人として寄り添う姿勢だということ。1on1ミーティングの頻度と関係の良好さに明確な相関があり、定期的に時間を割いて傾聴する上司ほど部下との関係を良好に保ちやすく、退職・休職のリスクを抑える効果もあるようだ。管理職が軽視しがちな「健康面への配慮」については、実際には部下が強く望む支援であることもわかった。
マネジメントで大切なのは、業務効率や成果の管理だけでなく、部下の心身の健康や将来のキャリアを考えて対話に時間を投資する姿勢といえる。テクニック論ではなく、「人」に向き合うマネジメントが信頼関係を深めて健全な組織につながるといえそうだ。
「ビジネスパーソンの上司・部下の関係性に関する調査」概要
調査対象:全国20歳~59歳/管理職500名・一般社員500名
調査期間:2025年8月22日~8月25日
調査方法:インターネット調査
https://www.people.zeiss.co.jp
構成/KUMU