
関西の百貨店売上が好調です。
あべのハルカス近鉄本店のHoop等を含む2025年9月の売上高は、前年同月比で28.4%増加しました。大阪・関西万博のオフィシャルストアが増収に貢献しています。
阪神梅田本店も9月は34.4%増と絶好調。阪神タイガース2年ぶりのセ・リーグ優勝セールで大幅な増収でした。
しかし、百貨店は都市部が盛況な一方で、地方都市は苦戦気味。明暗がわかれています。
インバウンドの不調を万博が跳ね返す
あべのハルカス近鉄本店は、今年5月が減収でした。前年はインバウンド売上が好調で、2ケタ増からの反動と見られています。高級ブランドを中心とした外国人観光客の買物熱はややトーンダウンしており、今年の百貨店売上を危ぶむ声も聞こえました。
しかし、大阪・関西万博の思わぬ人気ぶりに救われました。あべのハルカス店、万博会場内店舗ともに目標を大きく超える売上で推移しているといいます。あべのハルカス近鉄本店のHoop等を含む8月の売上も前年同月比で23.3%増加。7月は8.4%増でした。万博の混雑ぶりに歩調を合わせるようにして売上増を重ねているのです。
万博の会場内オフィシャルストアの累計購入者数は8月14日に500万を突破しています。読売新聞は開幕後2カ月で売上が想定を1割上回る110億円に達したと報じました。
オフィシャルストア内では、公式キャラクターの「ミャクミャク」のぬいぐるみ、コラボレーションアイテム、カプセルトイなど約4000種類を発売。あまりの人気ぶりに、フリマアプリでは9900円のニットが2万円以上で販売されるなど、転売ヤーの標的にもなるほどでした。
近鉄百貨店は独自企画商品を多く取り揃えたことも奏功。あべのハルカス店、万博会場内店舗で販売している商品が異なるというこだわりぶりを見せています。これは、それぞれの店舗への来店動機を作るため。こうした取り組みが、インバウンドの不調を見事にカバーしました。
阪神梅田本店は建て替え以降の週間売上が過去最高に
阪神梅田本店は、阪神タイガースが優勝した9月8日から1週間の売上と客数が、2022年4月の建て替え開業後の週間の数字では最高だったと発表しています。阪神梅田本店は9月の売上が3割増でしたが、これほどの好調ぶりは珍しいでしょう。
今年はタイガースが史上最速のリーグ優勝を遂げており、2位以下を大きく引き離しました。僅差で優勝するかどうかの見極めがしづらい場合、百貨店はセールの準備に時間をかけることができません。しかし、今回のように優勝間違いなしとの見方が強まると、仕入れや企画に力を入れることができます。阪神梅田本店の8階宝飾品売場では、88万円の純金製優勝記念メダルを販売しました。
セールには初日から多くの人が列をなす盛況ぶりで、伝統とも言えるタイガースの優勝セールが今も健在であることを示しました。
地方に点在する百貨店の行方は…?
9月は大阪の他の百貨店も好調でした。大丸梅田店は12.0%、大丸心斎橋店は8.8%それぞれ増加しています。東京の百貨店も好調。伊勢丹新宿本店は14.0%増、三越日本橋本店は2.4%の増加でした。
ラグジュアリーブランドの売れ行きが堅調。大丸は外商が増収をけん引しています。
百貨店にとって、頭の痛い問題が富裕層と貧困層の二極化。かつて百貨店の売上を支えていた中間層の厚みが失われているのです。この影響を特に受けやすいのが電鉄系の百貨店。三越や伊勢丹、大丸などの呉服系の老舗百貨店は古くから“贔屓”を大切にしてきたという伝統がある一方、電鉄系の百貨店は住宅地を整備して街づくりを進め、中間層を開拓してきたという歴史があるからです。
足元では地方都市の百貨店を中心として、苦戦する様子が浮かび上がっています。
2025年9月の近鉄百貨店の売上は奈良店が1.4%、橿原店が3.7%、和歌山店が1.8%、四日市店が4.5%それぞれ減少しました。2026年2月末に閉店する近鉄パッセは11.9%減少しています。
名古屋では大規模な再開発プロジェクトを進めており、名鉄百貨店本店も閉鎖。街全体で集客効果を高めようという、官民挙げての取り組みに余念がありません。
地方都市の百貨店はインバウンドにも期待しづらく、中長期的な売上の低迷から抜け出すことができません。
百貨店は食料品以外だと衣料品の売上構成比率が高いという特徴があります。しかし、今はユニクロやGUなどのファストファッションか、しまむらに代表される低価格商品を幅広く取りそろえるカジュアルショップが主流であり、中間層向けのブランドを取りそろえる百貨店に足を運ぶ人は多くありません。
不採算店舗の閉鎖は緩やかに進行しており、この流れを押しとどめることは難しいでしょう。将来的に百貨店は都市部に集中的に出店をし、ラグジュアリー志向が高まる可能性があります。
問題は閉鎖した地方都市の百貨店の跡地利用。2020年に閉店した神戸市のそごう西神店は、2022年2月にエキソアレ西神中央として新たにオープンしました。再オープンプロジェクトには双日が携わっていますが、新たな商業施設として生まれ変わることができるのは稀。閉鎖したほとんどの建物は、交流センターなどとして細々と利用されるケースが大半です。
撤退する百貨店の跡地利用の議論は、今後加速する可能性もあります。
©Expo 2025
文/不破聡