
いまや転職が当たり前の時代になり、個人のキャリア形成が多様化していく中で、SNSの普及で他者の成功やライフスタイルが可視化されやすくなった。それによって年収や企業のブランドなどのステータスが価値を示す分かりやすい指標になって、「目先の肩書」を追求する「キャリアの近視眼化」が強まっているといえる。
このような社会の潮流を受けて、光学・精密機器の開発製造を手掛けるカールツァイスは、コーポレートアイデンティティ「Seeing Beyond」(視る力=本質を見抜き、可能性を広げ、未来を切り拓く力)のもと、全国のビジネスパーソンを対象に「ビジネスパーソンのキャリア形成における満足度に関する調査」を実施して結果を公開した。
それによると20代会社員の3人にふたりが新卒の企業選びで家族や友人や異性など周囲の見え方を重視する「見栄就活」をしており、そのうちの約40%は3年未満に退職していた。そこで注目すべきなのが、将来のビジョンを見据える「キャリア視力」だという。
20代会社員の新卒時の企業選びで3人にふたりが「家族・友人・異性」の見え方を重視
新卒時の就職活動で企業選びの時に重視した点では、48.0%が「家族・親からの評価・期待」、45.4%が「友人や周囲からの評価・印象」、44.4%が「異性から見られた時の企業イメージ」と回答しており、いずれかひとつでも重視した人は65.0%もいた。
若手ビジネスパーソンにとって就職する企業は、単なる働く場所だけでなく自分の価値やセンスを示す“ブランド”としての側面もあり、本心ややりがいに加えて他者からの目線も大きな影響を与えていたという。一方で20代会社員で新卒の企業選びを「家族」、「友人」、「異性」からの見え方で決めた人の39.7%が入社3年未満で退職していた。
全体(31.8%)と比較して約10%も早期退職する割合が高く、周囲の評価を重視してキャリアをスタートさせた人は、早期退職する傾向があるといえるだろう。
新卒の企業選びで「将来のキャリアプランに合っている業務内容」を重視した人(55.0%)では、76.7%が当時の選択に「満足」と回答しており、全体の満足度(59.6%)と比較すると約17%も高かった。明確なキャリア観を持って仕事を選んだ人は、入社後の満足度も高い傾向がみられたという。目先の肩書や他者からの評価ではなく、将来のビジョンから逆算してキャリアを築く「キャリア視力」がキャリア構築の鍵になりそうだ。
就職・転職時に重視することでは「企業知名度」は5位
勤めている企業に就職・転職した時の志望動機では、「働きやすさ」(37.9%)がもっとも多く、次いで「待遇・報酬」(37.6%)、「企業知名度・安定性・将来性」(25.4%)という結果で、肩書や外的評価に関わる要素が上位を占めた。それが入社して働き始めると現職で働く動機についての回答は「働きやすさ」(32.1%)、「待遇・報酬」(32.1%)に続き、「達成感のある業務(18.6%)」、「成長・キャリアアップ」(17.1%)が上位だったという。入社時に上位の「企業知名度・安定性・将来性」(16.9%)は5位に下落して、肩書やブランド性は必ずしも仕事のモチベーションに直結していないという。
転職時に「企業知名度・安定性・将来性」を重視した人の多くが入社後にギャップを感じている
会社員の転職活動で企業を選ぶ時に重視した条件では、「企業知名度・安定性・将来性」を重視する人(34.1%)のうち、76.2%が「入社後に思っていたのと違った」と感じていたという。具体的なギャップの内容では、1位が「ワークライフバランスが想定より悪い」(33.7%)、2位が「入社前の説明や面接時の印象と違った」(31.8%)、3位が「職場の人間関係・雰囲気がよくない」(30.5%)という結果だった。調査で「自身のキャリアビジョン(今後の働き方・役割・目標など)を明確に描けて」いるかという質問では、わずか10.3%が「具体的に決めている」と回答しており、多くのビジネスパーソンがキャリアビジョンを明確に描けずに「キャリア視力」が不足している現状があるという。
現代社会では、SNSによって他者の成功やライフスタイルが常に可視化されて、「高年収」や「有名企業での勤務」といったステータスが“わかりやすい成功”として捉えられやすく、入社前のキャリア選択は「自分がどう働きたいか」よりも「誰からどう見られるか」といった外的価値観に左右されがちだ。だが今後のキャリア形成には、他者に示すための目先の肩書だけを追うのではなく、自身の価値観ややりがいに基づいてキャリアを切り開く高い「キャリア視力」 が不可欠といえる。これを高めることで、働きやすさや成長実感といった内的モチベーションに基づいた職業や転職先の選択が可能になるといえるだろう。
「ビジネスパーソンのキャリア形成における満足度に関する調査」概要
調査対象:全国20歳~59歳のビジネスパーソン男女1000名
調査期間:2025年8月22日~8月25日
調査方法:インターネット調査
https://www.zeiss.co.jp/corporate/home.html
構成/KUMU