
仕事中に、誰にもバレずにマッサージ。そんな理想をかたちにしたのが、ドウシシャから発売されている「実はこっそりマッサージしてるんです。」だ。わずか8cmという驚きの薄さながら、本格的なもみ心地を叶える新感覚マッサージ器は、2024年10月の発売直後からSNSや口コミで話題を集め、大ヒット商品となっている。
開発を手がけたのは、同社の「ゴリラシリーズ」で数々のヒットを飛ばしてきた「はな子さん」こと、株式会社ドウシシャ 家電事業部 水島英恵さん。
開発の背景や苦労した点、ヒットの要因についてお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
“薄さ”に触れて見えてきた「新しいニーズ」
はじめに、商品開発のきっかけについて水島さんは次のように話す。
「開発前は『マッサージ器は年配の方が使うもの』といった先入観がありました。ところが、製品の薄さに触れた瞬間“デスクワークで疲れたときに、オフィスでこっそり使いたい”という具体的なイメージがすっと浮かんできて。どこか噛み合わない印象があった、若い世代とマッサージ器が繋がったんです」(水島さん)
「パッと見て『気になる』と思ってもらえる名前、それでいて、説明がなくても商品の特徴がわかる名前にしようと考えました。言葉では伝えづらいイメージを補っているのが『カメレオン』です。周りに自然になじんでばれにくい、コンセプトにぴったりだと考えてシリーズ名にしました」
「本商品は“薄さ”にこだわりました。従来のマッサージ器は“もみ玉”が動くレールを固定していますが、今回は薄さを追求するためにあえて固定部材を取り除いています。とはいえ、レールがしなってしまうと、もみ玉の動きが止まってしまう。そこで、もみ玉自体にエッジ加工を施し、滑走性を高めることで、レールが多少しなってもスムーズに動く構造に仕上げました。固定しないことで可動域が広がり、従来は届きにくかった部分までアプローチできるようになったメリットもあります」
さらに、「こっそり」にこだわり、使用していることがバレない工夫も盛り込んでいる。
「コードレスなので、充電しておけば場所を問わず使えます。デスクで使っていて、コードが引っかかって椅子もデスクもぐちゃぐちゃ、なんてことも防げます。カラーは周りに馴染みやすい、ブラック、グレー、アイボリーを用意しました」
ゴリラからカメレオンへ。葛藤を押し切った開発者の情熱
水島さんが手がけた「ゴリラシリーズ」は大ヒットを記録したが、一方で前シリーズがヒット作だったがゆえの苦悩もあったという。
「ゴリラシリーズでいくか、カメレオンでいくかは、社内で何度も議論を重ねました。社内では『ゴリラで続けよう』という声が多かったんです。でも、私は違和感がぬぐえなくて。商品の良さをお客さんに伝えるとき、オフィスでバレずに使える薄さが最大の魅力なのに、ゴリラじゃ無理やり感が出てしまうのではないかと感じていたんです。情熱で押し切り、最終的には『じゃあ頑張りなさい』と背中を押してもらえました」
ヒットの要因について、水島さんは「特別なことをしたとは思っていない」と話す。ベースにあるのは“お客さんの目線”。実際に売り場に足を運び、人間観察をしているという。
「家電量販店や雑貨店に行き、商品だけではなく、どんな人が、何を話しているかまで観察します。行動を観察して、この人たちが手に取る商品って何だろう?と考えて具体化したのが今の商品たちです」
さらに、「ゴリラのひとつかみ」開発時のエピソードも明かしてくれた。
「健康家電の開発担当なのに、マッサージ器を欲しいと思ったことがない自分に気づいたんです。でも『美容』と聞くと興味が湧く。調べてみたら、ふくらはぎ用マッサージ器より着圧ソックスの方が圧倒的に人気なんです。なぜそちらに流れるのか、実際に売り場で観察し、ターゲットや売れている製品、課題点を分析していったら、自然と企画にハマっていったんです」
ターゲットを超えて届いた商品力
若い世代にマッサージ器を“身近なリラックスアイテム”として認識してもらえるよう工夫を凝らしたと話す水島さん。狙いは的中し、評判は上々だったと振り返る。
「ゴリラシリーズも社内で好評でしたが、カメレオンは販売前の展示会の段階から『欲しい』という声が社内で上がっていました。実際に発売してみると、ネットですぐに話題になり、情報番組でも取り上げられました。ただ『マッサージ器です』『健康雑貨です』と売るのではなく、見せ方にひと工夫したことで、ドウシシャらしい商品展開ができたと感じています」
想定していた層以外からも意外な反応もあったという。
「展示会でバイヤーさんに商談していたら、VIPの方々がみんな買っていくんです。『社長室に1個置いといて』みたいな感じで。こうした層の方たちは、さまざまなマッサージ器を使っていると思うんです。その中でこの商品を選んでもらえたということは、本格的なマッサージ機として認めてもらえたのかなと感じました」
販促では、売り場でいかに足を止めてもらえるかを考えて施策を打った。
「健康家電売り場は基本的に『指名買い』がほとんどで、足を止めてもらうのは本当に難しいんです。だから、パッケージにこだわりました。ポイントは『そのまま持ち帰れる袋形状』です。カバンに入れて帰るには大きすぎるし、車で来られない方も多い。そこで、持ち帰りに便利な形状にしました。フック掛けできるので、陳列するとインパクトがあります」
多くのレビューやコメントがある中、水島さんは「“使用感”を評価してくれる声がうれしかった」と話す。
「最近は、ネットやInstagramで探して、試さずにネットで買われる方も多いんです。だからこそ『薄いのに結構もんでくれる』『こんなにもんでくれるんだ』といった、使わないとわからない実力を評価してもらえたのうはうれしかったですね」
商品開発を“楽しむ”姿勢がヒットの要因
カメレオンシリーズからはすでに新商品も登場している。
「カメレオンシリーズは第2弾として、薄型にたためる座椅子型のマッサージチェアをすでに展開しています。従来のマッサージチェアと比べてかなり薄く、幅20センチの隙間に収納できるんです。現在はゴリラシリーズとカメレオンシリーズを順番に展開していますが、今後もカメレオンシリーズから新商品を出していければと考えています」
「運もあって商品も当たった」と笑う水島さん。しかしその裏には、若手ながらも商品開発に情熱を注ぐ前向きな姿勢がある。
「トレンドって、何か新しいものが突然生まれるというより、お客さんの不満や願望から生まれるものだと思うんです。それが、今までになかったものかもしれないし、既存のものにプラスアルファしたものかもしれない。お客さんの声を大切にしつつ、ふっと笑えるようなユーモアを交えて商品づくりをしていきたいですね」
最後に、@DIMEのリスナーに向けてメッセージをもらった。
「私たちは『面白さ』を大切にしながら、いままでにない新たな商品を作っています。これを機に、同社の製品を知っていただけたらと思います。これからも健康家電の枠にとらわれず、さまざまな商品づくりにチャレンジしていきますので、 ぜひチェックしていただけるとうれしいです」
文・撮影/久我裕紀 構成/DIME編集部