
映画「レッド・ツェッペリン ビカミング」公開で盛り上がっているレッド・ツェッペリンは、中学2年生の斎藤歌謡曲少年(僕です)がロック少年へと脱皮するきっかけとなったバンドだ。ラジオから流れる「移民の歌」に衝撃を受け、僕よりひと足先にロックに目覚めていた友人O君の家でシングル盤「胸いっぱいの愛を」を聴き、この世にこんな音楽があったのと驚愕した。
好きなバンドNO.1はずっとツェッペリン
忘れもしない1971年9月24日、O君と武道館にツェッペリンの初来日コンサートを見に行った。僕は栃木県宇都宮市、O君は同小山市から上京。まだロック・コンサートは危険なイベントとされていた時代で、武道館に入るまでにチケットを確か2箇所でチェックされた。冒頭「移民の歌」から迫力あふれるライブながら、今と違って最後の曲「胸いっぱいの愛を」(その後にアンコールあり)まではアリーナ全員(多分)が着席のまま、あのリフが始まるや総立ちになったと記憶する。今と違うという点では、アリーナでもチケット代は(確か)2300円で、隔世の思いだ。そして忘れられないのが同行O君。ライブ途中で「喉が渇いた」とコーラを買いに行った。ツェッペリンのライブ中にコーラを買いに行った坊主頭の中学生、日本では、いや世界でもO君ただ一人と思う。
以降この年齢(まもなく69歳)まで、好きなバンドNO.1はずっとツェッペリン。その間、『FMレコパル』編集者時代にソロで来日したロバート・プラントを取材、その時のツー・ショットは生涯の宝物だ(撮影は、あのハービー山口さん)。ペイジ&プラントでの来日時には、フォーシーズンズホテルで開かれた記者会見に出席し質問もした(その時に録ったカセットテープあり)。
さらに『祭典の日』のプロモーションでジミー・ペイジが来日した際は、当時編集長をしていた『ラピタ』誌でインタビュー(残念ながら僕は行けなかった)、表紙に『Ⅳ』を使った『ラピタ』にサインしてもらった。記事担当者によれば、表紙を見たジミー・ペイジに「このレコードは何だ?」と尋ねられたという。
というわけでその後50代後半にアナログレコードのマト1にハマると、ツェッペリンの全アルバムのマト1を揃えた(マト1についてはこちらを参照)。
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中でもレア物は、通称ターコイズと呼ばれる『Ⅰ』のUKマト1無修正と、『Ⅱ』の爆音との誉れ高い通称RLカット(またはホット・ミックス)のUSマト1/PRプレスだ(それぞれに蘊蓄があるが、この記事の本意ではないので省く)。レア物だけに価格高騰は半端なく、共に10年以上前の購入でターコイズは17万円が今や30万円超、RLカットは9千円が15万円ほどの相場になっている。
ところが、どちらも音という点では価格ほどではないと僕は思う。ターコイズを買う前、さる有名中古レコード店の店長に音について尋ねたら、「ロゴがオレンジではなくターコイズというジャケットの希少性で高いだけで、音はオレンジと変わりませんよ」と答えられたが、両方所有する僕も同感だ。同時期に約6千円で買ったUSマトC/PRプレスの轟音ぶりにはとても敵わない。このUSマトC/PRプレスは音が左右逆という欠点があり、それゆえに評価しない方もいるようだ。だが「ボヘミアン・ラプソディ」くらいのステレオ感があるわけではなく、試聴会でかけてもほとんどの人が左右逆には気づかなかった。
USマトC/PRプレスの今の相場は把握していないが、ターコイズの足元にも及ばない値段ではないか。もし見つけたら、絶対に買いだ。僕の持つすべてのツェッペリンのマト1の中でも、別次元の音を聴ける。
また爆音と評されるRLカットも、そこまでの爆音か? と聴くたびに思ってしまう。音はもちろんいい。やはり音がいいとされるUKマト1と何度も聴き比べたが、毎回こちらの方が上だと思う。現存する『Ⅱ』のアナログでは多分一番音がいいはずだが、“爆音”という表現にはどうにも違和感を覚えてしまう。
50周年を記念して登場したレッド・ツェッペリン「Live EP」を聴く
さて、ここからが本題。1975年に発表された『フィジカル・グラフィティ』の発売50周年記念としてこの9月に登場した「Live EP」についてだ。『フィジカル・グラフィティ』に入る4曲のライブを、A面に2曲B面に2曲収録する(CDもあり)。A面は1975年のアールズコート、B面は1979年のネブワースでのプレイだ。4曲とも2003年発表の映像作品『LED ZEPPELIN DVD』に収録されていて、今回のリリースにあたりジミー・ペイジがリマスターした。
レコードで聴くとA面1曲目「イン・マイ・ダイイング」からB面2曲目「カシミール」まで、とにかく生々しい。ライブだから当然と言えば当然だが、僕が今まで聴いてきたライブ・アルバムとは、いい意味でかなり違う生々しさだ。A面に針を落とすやその生っぷりに驚く。だが音がいいかというと、いいにはいいが、なんとなくこもっている。演奏の勢いは凄まじいが、録音としては優秀録音とまではいかないという印象だ。
ところがB面、会場がネブワースに変わり、「シック・アゲイン」が始まると音は一変する。クリアーでメリハリがくっきり、音場も広がる。5段階評価すると、A面は3.5でB面は5だ。屋内と屋外の違いか、4年間でライブ録音のテクノロジーが急進化したのか、マスターの保存状態の違いか、理由は不明だがとにかくその差は歴然だ。さらにB面2曲目「カシミール」になると、身体中に震えが走る。プレイが激烈で、これぞレッド・ツェッペリンのライブと実感する。特にジョン・ボーナムのドラムが凄まじい。1971年の日本公演しか聴いていない僕ながら、ツェッペリンの真骨頂ここにありと思う。
1979年のツェッペリンはバンドとしては末期、全盛は70年代中盤までという説もあるが、とにもかくにもこの「カシミール」のプレイは壮絶・圧巻、オーディオ的にも秀でている。B面の音を5と先述したが、1曲目の「シック・アゲイン」より2曲目の「カシミール」の方が一段と素晴らしい音で、「カシミール」は6と評したい。僕の持つツェッペリン・マト1コレクション中の優秀録音と比べても、遜色ない音の良さだと思う。
念の為、『LED ZEPPELIN DVD』での「カシミール」も聴いてみた。ただしLINNの200万円級プレーヤー・システムと違い、ソニーの普及価格帯ブルーレイレコーダーでの再生なので、アンプとスピーカーは同じとはいえ相当なハンディがある。5段階で評価するつもりだったが、結果は評価外。音源のせいか、再生機のせいか、いや双方のせいだろうが、比べるべくもなかった。
『LED ZEPPELIN DVD』にはネブワースで演奏された曲7曲が収録されていて、「ロックンロール」「アキレス最後の戦い」「胸いっぱいの愛を」等、ツェッペリンの代表曲が揃う。願わくばジミー・ペイジ、全曲をリマスターしてアルバム・リリースしてくれないだろうか。
PS 映画『レッド・ツェッペリン ビカミング』を見た。大ファンは必見、普通のファンも是非、ロックは好きでもハード・ロック系はちょっとという方には大音量が辛いかも。そして誰よりも、“音源はスマホでサブスク、再生もスマホ付属のイヤフォンで十分”なロック・ファンに勧めたい。IMAXの高音質・大音量で聴くと耳から鱗、音に対する考えが一変するはずだ。
文/斎藤好一