
転職に期待と不安を同時に抱いたり、大切な人に感謝しながら苛立ちも感じたり…。そんな矛盾する気持ちは「アンビバレンス」と呼ばれる自然な心理現象です。一見優柔不断に見えるかもしれませんが、実は現実に誠実に向き合っている証でもあります。本記事では、日常にあふれるアンビバレンスの具体例やメリット・デメリット、心の揺れを前進につなげる5つの方法を解説します。
転職しようと求人サイトを開いたのに、不安になって閉じてしまう。パートナーのことは大好きなのに、些細なことでイライラしてしまう。そんな矛盾する気持ち、覚えはありませんか?
実はそれ、「アンビバレンス(ambivalence)」という、ごく自然な心理現象です。今回は、心理カウンセラーの視点から、揺れる心との付き合い方をわかりやすくお届けします。
アンビバレンスとは?揺れる心の正体
私たちの心には、相反する感情が同時に存在します。そんな「アンビバレンス」とは、どういうものなのでしょうか?
「アンビバレンス(ambivalence)」とは、ひとつの対象に対して、相反する感情を同時に抱く心理状態のことです。
たとえば、尊敬する上司に『すごい人だ』と感じつつ、『あの態度には反発を感じる』と思う場合。これがアンビバレンスの典型例です。
この言葉はスイスの精神科医ブロイラーが提唱し、後にフロイトによって精神分析の文脈で広まりました。現在では日常でも広く使われ、誰もが無意識に経験している自然な心の動きです。
心理学では、アンビバレンスは未熟さや優柔不断のあらわれではなく、「複雑な現実に誠実に向き合っている証」と捉えます。矛盾する感情があるからこそ、私たちは一面的ではなく、より深みのある選択や関係性を築けるのです。
日常にあふれる「アンビバレンス」な5つの場面
私たちは日常のさまざまな場面で、アンビバレンスを経験しています。
(1)昇進話に「喜び」と「不安」が同時に湧く
キャリアアップのチャンスだと分かっていても、責任の重さやライフスタイルの変化が不安に思える。前に進みたい気持ちと、現状維持を望む気持ちが、心の中でぶつかり合います。
(2)上司を「尊敬」しつつ「反発」してしまう
実績がありリーダーシップもある上司。でも、感情的な言動や話を聞いてくれない態度にイライラ…。一緒に働きたいと思う一方で、距離を取りたくなることも。
(3)転職に「希望」と「不安」が入り混じる
今の職場に限界を感じるから新しい環境に飛び込みたい。でも、変化に対する不安やリスクも頭をよぎる。前向きな気持ちと慎重さのあいだで、気持ちが揺れます。
(4)子どもは愛おしい、でも疲れると正直しんどい
帰宅後に遊んであげたい気持ちはある。でも仕事でヘトヘトな自分もいる。子どもへの愛情と、自分の気力体力の限界のあいだで葛藤が生まれます。
(5)親には感謝している、でも期待や干渉が重い
育ててくれたことへの感謝はあるけれど、結婚や仕事に口出しされると負担に感じる。感謝の気持ちと煩わしさが交錯し、複雑な思いを抱えることも。
アンビバレンスのメリットとデメリット
アンビバレンスは一見厄介に思えるかもしれませんが、見方によって“強み”にも“弱点”にもなります。
メリット1:多角的な視点が持てる
物事を一面的にとらえず、複数の視点で考えられるため、冷静な判断につながります。
メリット2:相手の葛藤を理解しやすくなる
矛盾を抱えた経験がある人は、相手の葛藤にも理解を示しやすくなり、人間関係での距離の取り方がうまくなることもあります。
メリット3:リスク管理がしやすい
一歩立ち止まって考える力があるため、衝動的な行動を避けやすくなります。
デメリット1:決断が遅れがちになる
迷いが続いて決断が遅れ、チャンスを逃したり、先送りグセにつながることもあります。
デメリット2:自分を責めやすくなる
「自分は優柔不断だ」「また決められなかった」と自己否定に繋がりやすく、自信や行動意欲を削いでしまうこともあります。
デメリット3:感情の揺れで疲れやすい
矛盾した気持ちに引っ張られ、心がざわついて精神的に消耗しやすくなります。
アンビバレンスと向き合うための5つのヒント
アンビバレンスは、自然な心の動きです。なくそうとするのではなく、どう扱うかが鍵。揺れる気持ちを整理できれば、迷いは成長のきっかけになります。
(1)紙に書き出して可視化する
たとえば、「昇進はうれしい、でも不安もある」という気持ちは、頭の中だけで考えていると、同じ思考がぐるぐると回りがちです。相反する感情を紙に書き出すことで、気持ちを客観視でき、モヤモヤが一歩整理されていきます。
(2)どちらの気持ちも正当と認める
「子どもは大切だけど疲れる」と感じるように、矛盾する気持ちはどちらも自分の正直な感情です。「どちらが正しいか」ではなく、「どちらも自分の一部」と捉えてみましょう。両方が存在していていい、と認めることが心を軽くします。
(3)自分にとって何が大事かを見直す
たとえば「親には感謝しているけれど、干渉が重く感じる」といった悩み。そんなときは「どこまで応えたいのか」「どこは自分の価値観を優先したいのか」と問い直してみましょう。大切なものが明確になると、罪悪感に振り回されず判断できます。価値観に立ち戻ることが葛藤を整理する鍵です。
(4)一気に決めず、小さな一歩から動く
転職を迷っているなら、いきなり退職を決める必要はありません。まずは求人を眺める、理想の働き方をノートに書いてみるなど、小さなステップから始めましょう。
段階的に進めることで、不安が和らぎ、「自分は動けている」という実感につながります。一歩動いたことで、次の行動が見えてくることもあります。
(5)信頼できる人に話してみる
「上司のこと、尊敬してるけど腹も立つ」といった気持ちは、誰かに話すことで整理されることがあります。気持ちを言葉にするだけでも、自分では気づいていなかった本音が浮かび上がることも。また、外の視点を取り入れると「自分だけじゃなかった」と感じられ、安心につながります。
揺れる心は、成長のサイン
アンビバレンスを抱えると、「優柔不断だ」「前に進めない」と責めたくなることがあります。でも、矛盾する感情を抱くのは、それだけ本気で向き合っている証です。
大切なのは、揺れとどう付き合うか。葛藤する気持ちの中には、自分の価値観や願いが隠れています。気持ちの揺れをうまく扱えれば、本音が見えて、納得の選択につながります。迷いながらでも大丈夫。心の声に丁寧に耳を傾けることが、あなたを一歩ずつ前に進ませてくれるのです。
構成/高見 綾
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