
長く同じ企業で働いていると、楽をすることを覚え、毎日の業務が惰性化し、仕事へのモチベーションを失いがちだ。しかし中には、勤続年数を重ねても意欲的に働き続けられる会社も存在するようだ。
オープンワークはこのほど、社員クチコミサイト「OpenWork」のデータをもとにした「在籍5年以上の社員が選ぶ『ポジティブ定着を実現する企業ランキング』」を発表した。
今回の調査レポートでは、早期離職を乗り越えた勤続 5 年以上の現職社員が OpenWork に投稿した会社評価レポートを対象に、「人材の長期育成」と「社員の士気」の合計スコア(10 点満点)を分析。
ランクイン企業の社員クチコミをもとに、働く意欲を失い必要最低限の業務だけをこなす「静かな退職」や現状に甘んじて成長を止めてしまった「ぶら下がり社員」とは異なり、高いモチベーションを持って働き続ける社員が多い職場の共通点や、社員の定着に寄与する組織文化・制度の傾向を探るものだ。
上位 10 社のうち半数がコンサルティング企業。TOP30 には特許庁が官公庁から唯一ランクイン
勤続 5 年以上の現職社員が「人材の長期育成」と「社員の士気」を評価する企業を調査した本ランキング。1位にマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社、2 位はマーケティング・PR 支援を行うトレンダーズ、3 位は三井不動産がランクインした。
業界別では、上位 10 社のうち半数にあたる 5 社をコンサルティング企業が占めた。コンサルティング企業は、成長志向が高い人材が多くさらなるステップアップを求めて比較的短期間で離職するイメージを持たれやすいが、社員の質が売上や成果に大きく影響するからこそ人材育成に注力している様子が見られた。また、官公庁からは唯一、特許庁がランクインしている。
ランクイン企業のクチコミからは、社員が挑戦したいキャリアや業務を実現するための制度とサポート姿勢の両面が整っていることがうかがえた。昨今、若手を中心に入社時の配属先が希望と大きく異なる「配属ガチャ」を敬遠する傾向が強まっている。
今回ランクインした企業からは営業職で入社したらそのまま営業組織の管理職へ進むといった固定的なキャリアパスではなく、社内で別の部署の仕事に挑戦できる「社内兼業」や、希望するポジションに応募できる「公募制度」などを用意し、多様なキャリア形成を可能にする環境が評価されていると考えられる。
ランクイン企業の社員が OpenWork に投稿した、人材育成に関するクチコミ
「自身がこの会社で何をしたいのかをよく問われ、やりたいことを主張し続ければ幅広く手厚く支援を受けることができる。日々の FB から、キャリア形成の相談まで、問題解決が好きな優秀な上司の支援を受けられるのは非常に恵まれた環境だと思う。(コンサルタント、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社)」
「部署内のマネジャー同士が人材開発会議を行い、部下全員のキャリア、成長課題について議論を行っている。半期に一度異動希望を出す自己申告制度、社内兼業制度もあり、他の業務に対してチャレンジする機会がある。(営業、リクルートマネジメントソリューションズ)」
「自身のキャリアを再考したときにチャレンジしたい部署があり異動するチャンスをもらうことができた。チャレンジしたい業務に手を挙げたり、希望を上司に伝え続けることで、現在の業務でパフォーマンスしていることを前提にだが、大体は機会を貰える場所である。(バックオフィス、ボストン・コンサルティング・グループ)」
「会社全体でその人のキャリアを全力でサポートする企業体制になっており、様々な研修や公募等、全員が手を挙げることができる。組織外の部署の案内なども年に数回あるので、どこの部署に行ってみたいなどキャリアを考えやすい。(営業、サントリーホールディングス)」
「学会聴講、大学への聴講、留学など、知識を深める機会は様々にある。審査部からの部署異動も容易であり、むしろ推奨されている。審査官とは全く異なる仕事であるばかりか、特許庁以外の官公庁で働くことや、民間企業、大学教授として従事することもあり、自身が望めば、キャリア形成は千差万別。(審査官、特許庁)」
介護休暇や男性育休など社員の声を反映し、進化する柔軟な支援制度も高評価
ライフステージの変化に合わせて働き方を柔軟に調整できる環境づくりも、社員が安心して働き続けるために欠かせない要素だ。ランクイン企業のクチコミからは、女性の産休・育休だけでなく、介護休暇や男性の育休取得など、社員のニーズに応える制度が年々充実している様子がうかがえた。
ランクイン企業の社員が OpenWork に投稿した、働き方に関するクチコミ
「女性社員比率がとても高く、産休・育休からも全員復帰していて、あらゆるライフスタイルの方を内包する会社だなと思います。(企画、トレンダーズ)」
「近年では男性の育休も推奨されており働きやすい環境が整っている。(営業、三井不動産)」
「女性や子育てをしている人も多く、子育てをしているマネージャーもいる。子育てや介護を行っている社員向けの福利厚生のプログラム(休暇やベビーシッターなど)を利用することもできるので、働きやすいと言える。(マーケティング、セールスフォース・ジャパン)」
「(女性の働きやすさについて)意識は非常にしていると思う。規模も小さいので、女性からの発案でどんどんルール化されている。(コンサルタント、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ)」
「急な子育てニーズや介護にも対応できるくらいフレキシブルで、周りの理解もとてもあるため、期待されている仕事をやり抜いている限りにおいては、ワークライフバランスがよい会社だと思う。(管理部門、P & G ジャパン)」
「男性社員であっても育休を取得することが推奨されており多くの男性職員が1ヶ月から1年程度の育休を取得している。特に第二子の場合は半年以上の育休を取得される方のほうが多いのではないだろうか。病気休暇の制度もあり、有給がなくなっても数日間風邪で休むなどの場合は医師の診断書なく病気休暇が取得できる。(審査官、特許庁)」
社員の定着施策は、必ずしも大規模な制度設計や潤沢な予算から始める必要はない。実際に、今回のランキングには従業員数が 200 名ほどの企業も複数ランクインした。共通して見られるのは、社員の声を丁寧に受け止め、小さくても地道に制度や環境を育てる姿勢だ。
クチコミにも「幹部が社員それぞれの強みが最大限活かせる場所を真剣に考えてくれる」といった声が寄せられた。社員のキャリアや人生を真剣に考える姿勢そのものが、社員からの信頼を生み、ポジティブな定着に繋がっていくのではないだろうか。
<対象データ>
2005 年以降に入社した在籍 5 年以上の現職社員による OpenWork 上の投稿を集計。対象企業数は 6,384 社。
構成/こじへい