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NetflixがWBCを独占放送権を獲得、筋を通すことにこだわる日本はアメリカ型ビジネスに対抗できるのか?

2025.09.29

NetflixがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の独占放送権を獲得したことを巡り、野球ファンのみならず業界全体が揺れています。

NPB(日本野球機構)は9月1日に開いた理事会で、国内のテレビ局で放送されないことに対して対応の検討を進めるとの方針を固めました。

今回の出来事は日本型のテレビ局のビジネスモデルの限界と、日米の商習慣の違いが如実に出たと言えるでしょう。

国際大会の中でも“ビジネス”に特化したWBC

NPBの理事会では、会議に出席した各球団の代表者から対応の検討を求める声が上がったといいます。パ・リーグ理事長の楽天の井上智治取締役は、「何らかの形で無料放送をして、できるだけ多くの方に見てもらいたい」とコメントしました。

前回のWBCの放映権料は推定30億円前後だったものの、今回は150億円にまで跳ね上がった模様。2023年3月22日の決勝戦の視聴率は42.4%で、1次ラウンドから日本代表戦の視聴率は40%を超えるという驚異的な数字を残しました。

Netflixがこの数字に目をつけたのは間違いありません。しかも、Netflixは2024年ごろからスポーツ配信を強化。2024年1月にはプロレス団体WWEと長期パートナーシップ契約を結んだことを明かしました。WBCの独占放送権の獲得は事業戦略とも合致するのです。

WBCが特異な点は、オリンピックやFIFAワールドカップのように国際スポーツ団体が主催するのではなく、WBCI(ワールド・ベースボール・クラシック・インク)という営利企業が運営していること。そのため、野球の普及を促すといった公共性よりも利益が優先されてしまうのです。

実はWBCは、出場する参加国に普通は認められている代表チームのスポンサー権、グッズのライセンシング権が認められていません。WBCIが儲けを出すスキームが構築されているのです。日本プロ野球選手会はこの構造を強く批判してきました。

もともとビジネスライクな大会だったのですが、Netflixの独占放送権獲得でそれがわかりやすい形で表出したということでしょう。

日本の視聴対象世帯の1%を獲得できれば150億円のもとが取れる?

150億円という桁違いの投資ができるのもNetflixならでは。視聴者の獲得がダイレクトに収益に跳ね返るからです。日本の放送局はそうはいきません。

例えば、前回の大会で視聴率48.0%を叩き出したイタリア戦や決勝のアメリカ戦はテレビ朝日が放送しています。しかし、2023年3月期のテレビ朝日のテレビ放送事業で、大会を放送した下期の地上波タイム収入は1.5%とわずかに増加したものの、放映権を獲得した影響で番組制作費は10.6%も増えました。

この数字を見ると、とてもではありませんが150億円もの資金を投じることはできません。

Netflixは潤沢な番組制作費をかけているというイメージが先行していますが、見方を変えると日本のテレビ局とそう変わりません。ビジネスモデルの違いでそのように見えるだけです。

Netflixの課金ユーザー数はおよそ3億人。年間で150億ドルほどの制作費をかけています。つまり、1ユーザーあたり年間50ドル(約7500円)という原価をかけて人々を喜ばせているというわけです。Netflixの広告なしの料金は1590円で、年間1万9080円。原価率は39.3%で、何となく納得のできる数字なのではないでしょうか。

一方、NHKに加入している世帯数は3580万。2025年度の制作予算は2240億円。1世帯当たり年間6257円の原価をかけているという計算になります。NHKの受信料は年額1万3200円で、原価率は47.4%です。Netflixと大きく乖離するものではありません。

Netflixが強いのは、課金ユーザーを獲得すればするほど収益性が加速するところ。

NHKの加入対象世帯数は4571万世帯で、これがNetflixの日本における課金対象ユーザー数であると仮定します。WBCによって10%の獲得に成功すると、457万ユーザーが積み上がります。広告なしの料金が1590円で、1ヶ月当たりに入る売上は72億円。3ヶ月ほどで投じた予算を上回ります。5%であっても、半年ほどで投資回収ができるのです。

Netflixの平均契約期間は20カ月ほどと言われており、そこから逆算すると1.1%ほどの獲得で十分回収できる計算です。

稟議と根回し文化の日本型ビジネス

独占放送権の問題では、アメリカと日本の商習慣の違いもよく出ていました。

2023年の大会では、WBCIとともに東京開催試合の運営を読売新聞社が担っていました。読売新聞社を通して、民間放送局に権利を付与していたのです。

2026年の大会も読売新聞社が1次ラウンド東京プール計10試合の主催を務めます。そうした背景もあり、2025年8月26日に読売新聞社は「2026年WBCに関するNetflixの発表について」という声明を発表しました。

そのなかで、「WBCIが当社を通さずに直接Netflixに対し、東京プールを含む全試合について、日本国内での放送・配信権を付与しました」と書かれています。“通さずに”というところがポイント。

日本の商習慣では、「筋を通す」ことが重視されます。何か大きなプロジェクトで企画や開発、運営に尽力した組織や人に対して、敬意を払う習わしがあります。一足飛びに大きな物事を決めることは、基本的にはありません。

関連する部署すべてに稟議を通す、日本の大企業の組織運営にも通じるところがあります。会社で「自分は聞いていない」と騒ぎ立てる窓際族をたまに見かけますが、筋を重視する日本の商習慣に根差したものだと言えるでしょう。

アメリカは意志決定のスピードが速く、組織にとって有利なものを貪欲に取り入れる文化があります。大手企業では稟議に似たプロセスがあるものの、上司や部署に話を通すという意味合いよりも、会社にとって有利な内容かどうかを問うもの。成果が出るかどうかが重要です。

WBIを巡る問題は、アメリカと日本の商習慣の衝突と見ることもできるのです。

スポーツの放映権は高騰が続いており、配信型サービスの会社に有利な状況が続くでしょう。大会の運営スキームにおける常識も崩れており、民放が無料で放送することは困難になっています。

文/不破聡

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