
「静かな休暇」とは、働いているふりをして私的な時間を過ごす行為を指す。休暇申請に対する心理的ハードルやリモートワークの普及が背景にあり、懲戒処分や信頼損失のリスクも伴う。
目次
会社や上司に休暇申請をせず、働いているふりをして休む「静かな休暇」が話題になっている。有給休暇の取りづらさやリモートワークの浸透に伴って、新しい働き方のグレーゾーンとして生まれた行動だが、大きなデメリットやリスクがある点に注意が必要だ。この記事では、静かな休暇の意味や注目される背景、リスクやデメリットについて詳しく解説する。
静かな休暇とは?
まずは静かな休暇の定義を確認しよう。
■仕事をしているように見せながら休むこと
静かな休暇とは、リモートワークの環境で勤務中を装い、実際は仕事を行わずに休息や私的な時間を確保する行為を指す。英語では「quiet vacationing」と表記される。休暇の申請を出さず、表面上では通常通り働いているように見えるため、会社側が見抜きにくいのが特徴だ。静かな休暇は、特に1980年代前半から1990年代半ば頃に生まれた人々を意味する「ミレニアル世代」の間で広まったと言われている。
■「静かな退職」とは意味合いが異なる
静かな休暇と混同しがちな言葉として、「静かな退職(quiet quitting)」が挙げられるが、それぞれ異なる意味を持つ。静かな退職は、昇進や責任のある職位を求めず、与えられた最低限の業務のみをこなす、主体性のない働き方を指す。一方、静かな休暇は「働いているふり」をして業務を放棄する行動を示すため、静かな退職とは「業務をしているかしていないか」の点で大きく異なる。
静かな休暇が広がる背景と理由
静かな休暇という概念が生まれ、注目されるようになった背景には、働き方の変化や職場環境での課題が関係している。
■休暇申請の心理的なハードルの高さ
日本では「休むこと=後ろめたいこと」と思わせる雰囲気が残っており、有給休暇を取りづらいと感じる人が多い。有給休暇の取得は労働基準法で定められているため、従業員は理由を問わず、決められた日数の休暇を自由に取得する権利がある。しかし、実態は繫忙期や同僚への遠慮、上司からの視線などが気になり、体調不良や家庭の事情などやむを得ない理由がなければ取得希望を言い出せない人も少なくないだろう。休暇を申請するよりも「働いているふりをして自分の時間を作る」ほうが心理的なハードルが低く、静かな休暇を選ぶ人が増えていると考えられる。
■業務負担への不満やストレス
業務量の増加や人手不足などが原因で多忙を極める状況では、有給休暇の申請がしにくいのはもちろんのこと、有給休暇を取ったとしても完全に休むことは難しい。プライベートの時間でも通常業務の一部や緊急対応をしなければならず、「休暇のはずなのに休めない」とストレスに感じる人が抜け道を探した結果、静かな休暇と言われる行動につながった可能性も否めない。
■リモートワークの普及
コロナ禍をきっかけにリモートワークが急速に広がり、働く場所や時間の自由度が高まったメリットがある一方で、従業員の労働の実態が見えにくくなったデメリットも見過ごせない。在宅勤務は会社と物理的な距離があるため、従業員の勤務状態の把握が難しく、勤怠や業務進捗も自己申告になった。こうした環境下で働く側に「働いているふり」をする余地が生まれたことも、静かな休暇が生まれた要因だろう。
静かな休暇の実態とよくある行動パターン
実際に静かな休暇を取る人は、どのように行動しているのか。ここでは調査会社による静かな休暇の実態と、よく見られる行動パターンを紹介する。
■ハリス・ポールの調査結果
アメリカの調査会社ハリス・ポールが2024年に行ったアンケートでは、約37%のミレニアル世代の会社員が「休暇を申請せず、働いているふりをして仕事を休む」、いわゆる静かな休暇に該当する行動をした経験があると回答した。そのような行動をとった理由については「有給休暇が取りづらい雰囲気がある」「業務時間外でも対応しなければならない状態」などの回答があったと報告されている。
参考資料:https://theharrispoll.com/wp-content/uploads/2024/05/OOO-Culture-Report-May-2023.pdf
■よく見られる「静かな休暇」の行動パターン
静かな休暇の代表的な行動には、共通して「仕事をしている証拠」を小出しにすることで、リアルタイムで働いているように見せる工夫が見られる。ここでは静かな休暇の具体的な行動パターンを見てみよう。
例①チャットやコミュニケーションツールでアクティブに見せかける
会社で一般的に使用されているSlackやTeamsなどのコミュニケーションツールでは、ログイン状態が可視化される仕様が多い。静かな休暇を取る人には、勤務時間中に常に在籍している状態を装う手段として、一定時間ごとに短いメッセージやリアクションを送ったり、マウスを動かし続けたりする行動がみられる。
例②メールの予約送信を行う
メールの予約送信機能を利用して業務時間外まで熱心に業務を行っているかのように見せる方法もあるそうだ。また、週末や深夜にメールを作成しておき、平日の勤務時間に自動送信することで、勤務状況をカバーする人もいる。いずれにしても、手間をかけて「勤務しているふり」を演出し続けなければならない。
静かな休暇を取る人に生じるリスクとデメリット

静かな休暇は、人事評価の低下や周囲との信頼関係の悪化、自分自身の罪悪感やストレス増大など、本人に跳ね返るデメリットも多い。ここでは、静かな休暇を取る人が理解しておくべきリスクとデメリットを解説する。
■会社にバレた場合の処分や評価低下
静かな休暇が発覚すると、就業規則違反や不正行為と見なされ、懲戒処分や人事評価の大幅な低下につながる可能性も十分にある。日常の業務においても周囲の監視の目が強まる可能性が高く、働きづらくなることも多い。
■信頼関係に及ぼす悪影響
静かな休暇は、職場の信頼関係にも悪影響を及ぼす。周囲からの信頼や期待を裏切り、築き上げてきたチームワークを損なえば、自分だけでなく職場全体の雰囲気悪化やモチベーションの低下を引き起こすかもしれない。信頼関係の構築は一朝一夕ではできないため、一度失った信頼を取り戻すのは簡単ではないと認識しておくべきだろう。
■個人が感じる罪悪感やストレス
周囲を騙す行為とも言える静かな休暇を続けることで、自分自身の罪悪感やプレッシャーが蓄積するケースも多い。会社にバレるかもしれないという緊張感や、常に状況を気にして行動しなければならない精神的負担は大きく、休もうとしたはずが反対にストレスが増す場合もある。バレない工夫など余計な部分に神経を使い続けるうちに、仕事への集中力が低下し、本来のパフォーマンスができなくなる可能性も否定できない。静かな休暇を検討する際は、自分にとって静かな休暇を取るメリットがあるのか、リスクの大きさと比較して今一度考えてみてほしい。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部