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年間3.4兆円の経済損失!経産省、パナソニック、伊藤忠商事の担当者が語る女性の健康課題解決策

2025.09.26

ダイバーシティや女性活躍という言葉が当たり前に使われるようになった昨今。生き方や働き方、価値観などの変化にともない、DEI(Diversity;多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)の取り組みに力を入れる企業も増えてきている。

パナソニック目黒ビル

パナソニック株式会社くらしアプライアンス社は、経済産業省が推進する「令和7年度フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の事業者に採択された。「社員一人ひとりのウェルビーイングを実現する『人が活きる人的資本経営』をサポート―女性自身の健康行動が変わる、職場に集うみんなで変わる“オフィス RizMo(リズモ)”」と題した実証事業をスタートしている。

※1本目の記事はこちら

寝る前にショーツに挟むだけ、パナソニックの「RizMo」がフェムテックで叶える〝自分らしく働ける〟社会

生き方や働き方、価値観などの変化にともない、DEI(Diversity;多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)という言葉が聞かれるようになっ…

経済産業省推進のフェムテック等サポートサービス実証事業費補助金 パナソニックくらしアプライアンス社が採択

経済産業省による実証事業の補助は、フェムテック企業、導入企業、医療機関、自治体等が連携して実施する妊娠・出産等のライフイベントと仕事の両立、ヘルスリテラシー向上等の個人のウェルビーイング実現に向けた実証事業に係る費用の一部を補助するもの。くらしアプライアンス社の実証事業では、パナソニックが2025年6月に発表した体調ナビゲーションサービス『RizMo(リズモ)』を活用し、女性社員の健康行動支援と組織パフォーマンスへの効果を検証する。

『RizMo(リズモ)』を活用した実証事業

『RizMo(リズモ)』は、専門家の監修のもとパナソニックが開発した体調ナビゲーションサービス。月経リズムと連動する衣服内温度と睡眠状態を計測するウェアラブルデバイスと、独自のデータ分析アルゴリズムを採用したアプリケーションで、日頃の身体の状態や変化を手軽に把握できる。

体調ナビゲーションサービス『RizMo』

ただ単に生理周期と睡眠状態を把握するだけでなく、その日や先々の体調予測、自身に合った体調サポートアドバイス等を確認することが可能だ。くらしアプライアンス社の実証事業では、同社の女性社員124人を対象に『RizMo』をトライアル導入する(2025年9月~12月)。

体調の変化や予測に役立つ

これにより一人ひとりの健康状態の可視化と行動変容をサポート。さらに、基礎知識向上のためのセミナー動画配信や専門家によるオンライン健康相談を通じて、女性特有の健康課題に伴走する。

女性の健康課題解決が年間3.4億円の経済損失を改善する原動力に

こうした実証事業を機に、8月22日には東京・パナソニック目黒ビルで「産官学連携トークセッション」が開催された。パナソニック くらしアプライアンス社の他、経済産業省、伊藤忠商事、慶應義塾大学SFC研究所などからフェムテック領域の専門家を招き、基調講演とトークセッションを実施。フェムテック市場やそれぞれのフェムテック領域での取り組み等が語られた。記事後編では「産官学連携トークセッション」の様子をお伝えする。

8月22日に開催された「産官学連携トークセッション」

経済産業省・経済産業政策室の小迫美智子氏による基調講演では、経済産業省が進めるフェムテック利活用の促進について解説した。経済社会政策室では、さまざまな属性の多様な人材が活躍し長期的な成長につなげるダイバーシティ経営を推進。その中の取り組みの1つとして女性活躍が重要だと考えている。

同質性が高い組織よりも、多様な人材がインクルーシブされている企業の方が企業価値も高くなるというデータがある中で、日本の現状は世界経済フォーラムが毎年公表する『ジェンダーギャップ指数2025』の世界ランキングで、148か国中118位と下層に留まっている。企業の女性役員比率も諸外国が40%を実現する中、日本は10パーセント台だ。日本政府は2030年までに「女性役員比率30%」を目指しており、そのためにもフェムテックを1つのツールとして起用することを考えている。

経済産業省・経済産業政策室の小迫美智子氏(左から2番目)

小迫氏は令和5年度に経済産業省が実施した調査した女性特有の健康課題による経済損失について説明。

「生理、月経、PMS、不妊や更年期など、女性の労働損失による社会全体の経済損失は年間で3.4兆円と推計されています。不妊治療と仕事の両立ができず仕事を辞めてしまった、雇用形態を変えてしまったという女性は32%もいらっしゃる。更年期症状では、管理職のポストにつく年齢が更年期を患う年齢と重なってくることもあり、半数の女性が昇給を辞退しているというデータもございます。健康課題の解決によって女性が働きやすい環境を作るということが、ダイバーシティ経営・企業価値創造につながってくると考えています」

世界のフェムテック市場規模は2030年に31兆円になるというデータもある。日本ではフェムテックを推進するにあたり、2021年に初めて骨太の方針である政府決定文書に明記をした。

「今回パナソニックさんにも採択していただきました『フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金』は、フェムテック企業、フェムテック導入企業、医療機関、自治体の皆さまが連携して取り組んでいきます。ライフイベントと仕事の両立、ヘルスリテラシーの向上、個人のウェルビーイング実現に向けた実証事業を一部補助するものになっております。
今年も27社ご応募いただきまして、9社採択をさせていただきました」

DEI+belongingで『心理的安全性』を意識 “自分らしく働ける環境”を

この実証事業に採択されたくらしアプライアンス社の常務・塔之岡康雄氏は、事業内容やDEI推進の狙いについて語った。

くらしアプライアンス社の常務・塔之岡康雄氏

「くらしアプライアンス社はもともと、生活に寄り添う商品、サービスを世の中に提供し続けることを生業にしています。DEI推進のポイントは大きく2つあります。まず1つは社内の組織風土の活動。そして2つ目は事業そのものの持続的な成長や、顧客価値の最大化を目指す“経営戦略の一環”として位置づけているところです。

1つ目の組織風土の活動にはこだわりがあって、DEIだけではなく“belonging”のBを付記しています。その意味するところは、“帰属する”という事だけではなく、『心理的安全性』を意識しています。私たち社員1人ひとりが安心して、“自分らしく働ける環境”を整えることで、組織全体の創造性や生産性を高めることを目指しています。

また事業の特性そのものから見て、私たちが生み出す製品やサービスの開発に、こういったDEIの視点を取り入れることが、より多様なニーズにお応えする商品やサービス作りに繋がるのではないかと思い、推進しているところです」

フェムテックはDEIを体現する手段

また同社のDEIとフェムテックの取り組みについて、「フェムテックをビジネス領域の商品やサービスの開発に留めるのではなく、当社においてのDEIを体現する手段の1つに位置付けている」と語る。経済産業省の実証実験に参画することはもとより、生理痛の体験イベントなども開催している。

「女性社員が“ペイン(痛み)”を抱えながらお仕事されていることの実体感を得るイベントになりました。いろいろな機会を通じて、社員同士が性別を超えて互いを理解し合って、健康課題についても語り合う機会を作る。より心理的安全性を向上していく。それがひいては企業全体としての組織変革活動に繋がるのではないかと思っています」

17年かけて変化した伊藤忠商事は「厳しくとも働きがいのある会社」を目指す

この日は、くらしアプライアンス社の実証事業『オフィス RizMoへの実証フィールド』に参画する伊藤忠商事株式会社も出席。同社第8カンパニーのフェムテックプロジェクトリーダー・古賀弘子氏が、伊藤忠商事のフェムテック領域への取り組みを紹介した。

伊藤忠商事株式会社第8カンパニーのフェムテックプロジェクトリーダー・古賀弘子氏

伊藤忠商事は、食品や衣料品、住まいに関わるサービスなど、生活に欠かせないモノを世界中からつなぐ総合商社。世界各地のネットワークを活かしながら日々の暮らしをより便利で豊かにする挑戦を続けている。

商社というと“男社会”のイメージが大きく、長時間労働や休日出勤などウェルビーイングとは反対の印象が強い。しかし古賀氏は同社が「厳しくとも働きがいのある会社」を目指していると説明する。2008年に入社し、自身も育児休業を取得しながら2人の子育てと仕事を両立している古賀氏。この17年間で会社も随分変わったという。

伊藤忠商事の改革

2010年という早い段階で社内託児所「I-Kids」が開設され、その3年後には「朝型勤務制度」を導入。2017年には「がんと仕事の両立支援」が始まり、2021年には女性活躍推進委員会が設立した。さらに2023年にはバーチャルオフィスによるフェムテック取組の強化、翌年には海外駐在期間中の卵子凍結保管費用の会社負担や、海外で治療費が高額となる不妊治療費に関し、海外駐在中に発生する医療費の一部を会社が負担するといった、フェムテックを中軸としたキャリア継続支援がスタートした。現在は男性育休取得率96%、育児休業復職率は100%を記録している。古賀氏は、こうした社内の変化や取り組みについて振り返る。

育児休業復帰率は100%

「やはり、ひとつひとつ肝入りでやってきて、朝型勤務などは一部から結構反発があったようです。でもやるからには徹底して、やり続ける。この姿勢は商売にも繋がってくると思っております。大切なのは『やってみること』『やり続けること』。

実際に私が育児休業から復帰したのが2020年頃ですが、その10年以上前に『安心して復帰できる環境』ということで託児所の整備が行われました。また私の同期が病児保育サービスとの連携や補助の仕組みを整えてくれて、この制度に日々、本当に助けられています。

最近では卵子凍結の保管、不妊治療の一部補助まで開始しており、不妊治療経験者としては『当時あったらよかったな』と思いました。こういう丁寧な取り組みに対して会社にも感謝しています。男性育休も伸びてきていて96%。そして今や育休からの復帰も100%。こうした中で、現場レベルで育児しながら奮闘している男性社員が増えてきているので、性別を問わず、大変さを共感できる環境が醸成されてきているのではないかと感じます」

また、伊藤忠商事が目指す「厳しくとも働きがいのある会社」については、「私がここで働き続けているのも、厳しさがあり、チャレンジがあるから。だからこそ成長があり喜びがある。それは先人たちが、過去の苦労を苦労のままにしなかったので、安心して働ける環境が整いつつあるのだと思っています」と語り、「でも“整った”わけではありません。時代に合わせて永久にアップデートしていくものだからです。自分たちの課題は自分たちの時代のうちに解決することに取り組み続けていくことで、未来により良い社会を残せていけたら」と意気込んだ。

女性養生食『Fun to Me』の朝食配布や生理用品ディスペンサーなど“他の事業者”と協力

伊藤忠商事のフェムテック領域の取り組みについては、「我々は商社なので自社の“モノ”というものを持っていないですし、作っていません。そのため、人・モノ・お金を繋げて新しい価値を創造しなければなりません。常にさまざまな事業者さまの力を借りながら一緒に何かできないかを考えています」と語る。

そうした取り組みのひとつとして、東京本社と本社に隣接するSDGs情報発信拠点『伊藤忠SDGsスタジオ』に、フェムテックの製品を取り入れた自動販売機を1台ずつ設置している。製品の中には、乳がんの発見をサポートする自己触診手袋『ブレストケアグラブ』や、妊娠中の吐き気やむかつきを緩和するリストバンドなども含まれている。さらに会社では『朝型軽食』を配っている。

「我々は朝型勤務を推奨しているので、8時前に出社する社員に対して朝食を配っています。これはクラシエ株式会社さまのお力をお借りいたしまして、大人の女性養生食『Fun to Me(ファントゥーミー)」』を配布させていただいております」

大人の女性養生食『Fun to Me』の導入

クラシエとは、更年期への理解促進を図る社員向けセミナーの共同開催させしている。また女性従業員の急な生理に対応するために、生理用品を無料で配布する生理用品ディスペンサーの取り組みも。通常トイレに設置されるものを企業内の共有部に設置する実証事業を、伊藤忠本社以外にも日本アクセス内のファミリーマートや山野学苑の協力のもと、試験的に行っている。また3月から7月の間はITOCHU SDGs STUDIO内の展示エリアで、女性の生理と社会の関係をあらゆる視点から見つめ考える企画展 『Period museum-生理と社会の交差展-』を開催。来場者数は5400人を記録した。

フェムテックは女性だけのものではなく「人自身」の生きやすさをもたらす

フェムテック領域でさまざまな意見が交わされる

この日はその他にも慶應義塾大学SFC研究所や、伊藤忠商事と同じく『RizMo』の実証事業に協力する株式会社ファミワンなども、それぞれの事業の取り組み等を解説。フェムテック領域に、産、官、学、医が連携し、垣根を越えて取り組んでいく。

株式会社ファミワン(右)も『RizMo』の実証事業に協力

塔之岡氏は、「私たちパナソニックは長年、ビューティー・パーソナルケア領域でビジネスを行い、ある意味、市場を牽引するリーディングカンパニーの1つだと自負しています」と語り、「その当社が今回フェムテック領域に本格参入をして、『RizMo』というサービスを新しくリリースをさせていただいた。これは女性の心身の変化に寄り添う、新しいライフスタイルの提案になります」と説明。「さらにフェムテックが女性だけではなく、人自身に『生きやすさ』をもたらし、企業においては社員1人ひとりの働きやすさを支える。まさに基盤になるんじゃないかなと思います」と期待した。

DEIやフェムテックを通して発展を目指す

「今回の取り組みを機に、パナソニックとしてこれまで以上にDEIやフェムテックの持つ意味を会社の組織カルチャー変革にしっかりつなげていきたい。何よりも、長年やってきた製品やサービスをご提供する活動を通じて、人的資本経営、企業としての生成発展を実現していきたいと考えています」

ウェルビーイングを向上させ人々がより良く生きていくために、各社の取り組みはもちろん、協働し高めあっていくことが求められている。

取材・文・撮影/コティマム

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