SNSがテレビ視聴率の架け橋となった画期的な成果
芸能事務所としての強みが最も発揮されたのが、TBS系のバラエティ番組『THE神業チャレンジ』のTikTok運用である。小島さんが担当したこの案件では、認知拡大と視聴誘導の2つの軸で戦略を展開した。
「認知拡大と視聴誘導の2つの軸で戦略を立てました。「TikTokのトレンド」と「タレントの個性やスキル」を掛け合わせた動画で注目を集め、同時に番組の見どころを切り抜いた動画も投稿。興味を持った人が実際にテレビを見るまでの導線を設計しました」(小島さん)
その結果、フォロワーが半年で3,000人から2万4000人に増加し、若年層の視聴率も上昇した。
小島さんはこの事例が示す時代の変化を指摘する。
「大前提として、視聴率が上がったのは番組そのものが面白くてその魅力が多くの視聴者に伝わったからです。しかし現在はテレビを見る習慣のない人も増えていて、どれだけ面白いテレビ番組でも「そもそも知ってもらえない」ということがあります。そこでSNSを活用することで、より多くの人に『THE神業チャレンジ』の魅力を伝えるサポートができたのではないかなと考えています」
なぜ多くの企業がSNSで失敗するのか?プロが明かす成功の必須条件
企業がSNSで成功するためのポイントについて、2つの重要な要素を挙げる。
「まず、ターゲットとメッセージを明確にすることです。例えばコンビニのコーヒーなら、『手軽さ』や『日常使い』といった特性を打ち出し、ターゲットに響く見せ方を工夫します。単に『おいしいコーヒーです』では誰も振り向きません。例えば『コーヒーがある生活』というコンセプトで、様々な人の日常にさりげなくコーヒーが登場する動画を作るなど、共感を生む表現の工夫が必要です」
2つ目は、アルゴリズムのキャッチアップだ。
「SNSのアルゴリズムは常に変化しています。TikTokでは以前は2秒視聴維持率が重視されていましたが、現在はエンゲージメント率や、動画全体の視聴維持時間が重要になっています。当社では全アカウントで投稿72時間後の詳細なデータを記録し、変化を見逃さないようにしています。TikTokの流行フォーマットを取り入れることも欠かせません。アルゴリズムの変化に合わせて効果的なフォーマットや見せ方を更新し、企画や動画編集に反映しています」(小島さん)
こうした変化に素早く対応するため、同社では企画から撮影・編集、分析までを一人が担当する体制を採用。
「一般的なSNS運用支援会社では、企画・撮影編集・分析を分業しているケースが多いですが、当社では全工程を一人が担当します。分析結果をすぐ次の企画に反映できるため、PDCAサイクルが格段に速くなり、成果につながりやすくなります」(久保山さん)
今後の事業展望について、久保山さんはこう語る。
「無理な成長は追わず、お客様に喜ばれる仕事をマイペースに続けていきたい。日本には素晴らしいものがたくさんあるのに、魅力が十分に伝わらず埋もれているケースが多い。エンタメとマーケティングを掛け合わせて、その価値を磨いていきたいです」
マーケティング事業部わずか7名という少数精鋭ながら、芸能事務所ならではの強みを活かして成果を上げているホリプロデジタルエンターテインメント。葛飾区のたわし動画で240万回再生、富士急ハイランドで500倍の成果など、これまで実証してきたSNSマーケティングのノウハウは、多くの企業にとって貴重な指針となるはずだ。
取材・文/宮﨑駿