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宇都宮市がふるさと納税を通じて宇宙開発を支援、寄付目標7000万円で宇宙ゴミを除去

2025.09.24

栃木県宇都宮市が宇宙産業の振興に力を入れています。

宇宙産業振興を目的とした企業版ふるさと納税の募集を開始しており、2025年6月から2026年3月までで7000万円を寄付額の目標に設定しました。

宇都宮市が支援している会社が宇宙ゴミ(デブリ)除去の事業化を進めるスタートアップの株式会社BULL。地方自治体による産業振興の新たな形として注目を集めています。

宇都宮が航空宇宙産業と縁が深いのはなぜか?

BULLの創業者である宇藤恭士氏は防衛省の元官僚。退官後に株式会社ALEで事業統括を経験しました。ALEは人工的に流れ星を作り出すという宇宙のエンターテインメント事業を主軸とするスタートアップ企業。宇宙デブリ事業も手掛けており、それを引き継ぐ形で起業しました。

実は宇都宮市は航空宇宙開発が活発な場所の一つ。かつて東洋最大と言われた日本の航空機メーカー、中島飛行機が1944年に宇都宮製作所を開設した経緯があるためです。中島飛行機は戦後、GHQによって解体されましたが、1953年に富士重工業(現SUBARU)として再編されました。

現在でもSUBARUはヘリコプター事業を手がけており、陸上自衛隊多用途ヘリコプター「UH-2」の生産ラインを宇都宮製作所に設置しています。また、SUBARUの100%子会社で、航空機産業における中堅の部品、組立製造会社であるエフ・エー・エスが本社を構えているのも宇都宮市です。

専門的な人材を養成する土壌も整っています。

帝京大学理工学部は宇都宮市内にキャンパスがあり、総合理工学科 機械・航空宇宙コースで技術者を育成しています。2021年には宇宙工学クラブ「宇宙システム研究会」が製作する超小型人工衛星がJAXAの革新的衛星技術実証2号機の実証テーマの1つに選定され、鹿児島の宇宙観測所からイプシロンロケット5号機で打ち上げられています。

BULLはフランスに新たな拠点を設立

宇都宮市は「うつのみや産業振興ビジョン」において「航空宇宙関連産業」を重点振興産業に位置づけました。宇宙ビジネスの産業集積拠点とする狙いがあります。

宇宙産業のふるさと納税で集めた寄付金は大部分がBULLの研究開発支援に充当されています。

宇宙開発を主軸とするスタートアップは、開発の難しさもさることながら、運転資金の確保という最大のハードルがあります。経済産業省は宇宙ビジネスの市場規模は2022年で54兆円、2040年までに140兆円に膨らむと予想していますが、事業として黒字化できているのは「スターリンク」を提供するイーロン・マスク氏のスペースXなどわずかな巨大企業だけ。大部分のスタートアップは外部からの資金調達に依存しています。

投資家目線だと、出資先に対してリターンを求めるのは当然の流れ。しかし、宇宙開発は時間がかかり、成功確率も高くありません。日本ではispaceのような一部の会社が上場を果たしていますが、その道のりも困難です。

投資家からプレッシャーがかけられると、起業家は腰を据えて開発に打ち込むことができません。宇宙開発ビジネスは投資家から資金を調達する難しさもあるのです。

その点、自治体が活動資金を支援するというのは魅力的。宇都宮市もふるさと納税を活用するなど、資金の集め方を工夫しています。

BULLも活動の場を広げており、今年8月にはパリに子会社を設立しました。ヨーロッパのパートナー企業や宇宙機関との連携を深める拠点として機能し、BULLが開発した宇宙デブリ化防止装置「HORN」などのサービス展開を担います。

大規模な工場閉鎖が相次ぐ栃木県

宇都宮市が最先端の産業振興に力を入れるのも、緩やかに衰退することへの焦りがあるでしょう。

2021年の生産年齢人口は31万7000人(推計値)で、2050年には21万7000人ほどにまで低下すると市は予想しています。25年後には10万人も失われてしまうのです。

帝国データバンクによると、2024年の栃木県の倒産件数は170件で過去最多を更新。休廃業・解散した会社は1000社だったといいます。

栃木県は宇都宮市を中心として製造業が盛んな地域。経済産業省の「2024年経済構造実態調査」によると、国内の製造業における製造品出荷額はおよそ9.9兆円で、全都道府県で13位。大部分を宇都宮市周辺の工業団地が担っています。

しかし、周辺の工場からの撤退が後を絶ちません。宇都宮市の中心地から15キロほどの真岡市では、ホンダが四輪車向けのエンジン部品工場を2025年に閉鎖すると発表。従業員の雇用は継続されるものの、周辺の取引先である中小企業経営者には動揺が広がりました。

2018年には矢板市にあるシャープの栃木工場が閉鎖しました。経営不振の日産自動も上三川町にある工場の一部売却を検討していると報じられています。

企業は生産拠点を海外に移す動きがあったところに、トランプ関税がそれを加速させました。関東圏では埼玉県、千葉県、茨城県なども製造業が人々の暮らしや中小企業を支えています。日本のものづくり大国という強固な地盤は揺らいでおり、産業の空洞化はいつ起こってもおかしくありません。自動車産業で隆盛を極めたアメリカのデトロイトは、財政破綻して街の一部が廃墟化しました。決して対岸の火事ではありません。

宇都宮市は先進的な取り組みを進めていると言えるでしょう。

文/不破聡

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