
一定の株式数を所有している株主は、会社法303条、304条により、株主総会で議題、議案を提案できる権利がある。1人の株主が膨大な議案を提出し、株主総会の進行が妨げられた・・・なんとことが多発し、令和元年に、提出できる議案の上限数が10に制限されるようになったことはご存じだろうか。
本記事では、これまでにあった、信じられないようなトンデモ株主提案を紹介していく。
117個の議案を提出!? HOYAを悩ませた大量提案
東証プライム上場のHOYAの株主が、117個の議案を提案した。当時のHOYA担当者は株主に議案の数を絞るように交渉、優先すべき20個にするよう電話で連絡した。
その後、株主総会では、その株主の議案は20に絞られ招集通知にはそのうち5個が掲載されなかったそうだ。
株主は、提案が20個になってしまったこと、しかも5個は招集通知に記載されなかったことに対して、株主提案権の侵害としてHOYAを訴え、裁判となり高裁まで争う結果となった。
会社名を「野菜ホールディングス」に変えてください
証券最大手の野村HDは、2012年の株主総会で、「野菜ホールディングス」への社名変更を求められた。さらに、略称は「YHD」とし、営業マンは「YHDは野菜、ヘルシー、ダイエットとの略称だと覚えてください。」と紹介することを定款に定めるべきと求めたという。
さらに、同じ株主の議案として、「オフィス内のトイレを全て和式にすべき」、というものもあった。社員は足腰を鍛錬すべきで、日々ふんばることを定款に明記する、取締役の社内での呼称を「クリスタル役」、代表取締役を「代表クリスタル役社長」と呼ぶことを定款に定めるというものもあった。
会社見学で舞妓やホステスによる接待?
三井金属グループの2020年の株主提案では次のようなものがあった。
「日本を代表とする企業として、企業見学会を行い、今行われているビール試飲ではなく、京都の舞妓や銀座のホステス等による接待行為等の奇抜なアイデアで、会社に好印象を持ってもらう必要がある」──。
そして、「社内のトイレで、トイレットペーパーではなく、古い新聞紙を使用すべき」というものもあった。
粋がっているから三菱UFJの“・”を取れ!
2025年の三菱UFJフィナンシャル・グループの株主提案では、三菱UFJフィナンシャル・グループの「・」を取り除くよう求める株主提案があった。提案理由として、親会社のみ「・」があることは、粋がっているようで不体裁であり、その点が汚点のようで、点がない方が簡素簡潔であるとしていた。
また、社外取締役として、堀江貴文氏、立花孝司氏、三崎優太氏のような有名人の選任を求めるものもあった。
トンデモ株主提案は完全には防げない?
1人の株主が膨大な株主提案を行うことは、令和元年の会社法改正により防ぐことが可能となったが、内容がトンデモないものでも、法律違反や定款違反でない限りその提案を完全に防ぐことができない。
令和元年の会社法改正で、改正案の時点では、議案の提案の制限を設ける規定を設ける予定であったが、株主提案権の権利濫用にかかる判断についてもう少し精査すべきとして見送られた。
株主総会の招集通知を受け取る1株主としては、その議案を見るのはおもしろいが、原文のままその議案を載せなければならない担当の苦悶や、その議案に対して、取締役会が議論しなければならないこと、株主総会で時間をかけざるを得ないことを考えると、なんとも悩ましい。
(参考)
LIBRA 2021年6月号「令和元年改正会社法の解説」 沖隆一
平成23年4月14日東京地裁
第108回定時株主総会招集ご通知(添付書類: 第108期 事業報告) (PDF)
三井金属第95期定時株主総会招集通知
三菱UFJフィナンシャル・グループ 第20期定時株主総会招集通知