
指先サイズの新種動物“ミニチュアねこ”の飼育書『ミニチュアねこの飼い方』が話題となっている。
かわいさもさることながら、カプセルトイの人気レーベル「パンダの穴」から誕生した書籍レーベルの第1弾商品だからだ。
アニメやゲームだけではなく、カプセルトイのオリジナルキャラクターもついに書籍展開する時代へ。新たな出版ビジネスを展開するGakkenコンテンツ戦略室の目黒哲也さんに話を聞いた。
指先サイズの新種動物「ミニチュアねこ」の空想飼育書
この本は「体長3cm、体重20gという指先サイズの新種動物“ミニチュアねこ”が発見され、あまりにも愛らしい姿に魅了される人々が増えている。そんなミニチュアねこの知られざる飼い方を伝える初の書籍」というコンセプトの空想飼育書である。
ときにはパソコンのキーに座り、あるときはペン先を追って勉強の邪魔をし、ある昼下がりは洗濯物を干すロープを伝って歩くミニチュアねこたち。ミニチュアねこの生態と日常、そしてその気まぐれな可愛さに翻弄される家族の様子を写真とマンガで綴ったキュートな1冊となっている。
「お堅いイメージの出版社」からユニークな書籍レーベルが誕生
ページをめくるたびに目尻が下がる、猫たちのヤバい仕草。存在しない猫なのに「あるある!」と思ってしまうのだが、注目すべき点がもう一つある。それはこの新刊がガチャレーベル「パンダの穴」から生まれた書籍レーベル「パンダの穴BOOKS」の第1弾であるという点だ。ミニチュアねこは、そもそもはカプセルトイなのである。
カプセルトイが書籍レーベルを? 前代未聞だ。
過去にカプセルトイのメーカーであるケンエレファントが出版社を興した例はあるが、既存の出版社の中にレーベルができたケースを筆者は他に知らない。
「私も、たぶん他にないだろうと思います」
そう語るのは『ミニチュアねこの飼い方』を企画編集したGakkenコンテンツ戦略室の目黒哲也さん。実は目黒さん、「楽しくて柔らかな書籍を提供したい」というのがモットーなのだそうだ。
「Gakkenというと多くの人が“学研”(学習研究社)のイメージのままで、真面目な参考書や児童書、教育書をつくっていると思われているんです。たとえばイラストレーターさんに発注すると、本来の自分のタッチだけではなく、『学研さんだから』と、わざわざ堅くしたイラストを描いてくださる方もいる。手間をかけて申し訳ないんです。学校のクラスでも真面目で堅物な学級委員より、おもしろいやつのほうが人気あるじゃないですか。ずっと、真面目なだけの出版社という先入観を払拭したいと考えています」
Gakkenは学研ホールディングス傘下の出版社。2022年に総合出版社として始動しているが、「教育出版社」という印象が根強く、目黒さんは「お堅い出版社という企業イメージをもう少し崩したい」と悩んでいるのだそう。そこで思いついたのが、ガチャレーベル「パンダの穴」の書籍化だった。
「ちょっとヘンなガチャ」をぜひ本にしたい
「パンダの穴」はタカラトミーアーツが販売する、「ちょっとヘンな世の中に、ちょっとヘンなガチャを」をコンセプトに、ユニークでおもしろみのあるカプセルトイのレーベルだ。2018年に誕生し、「フルーツゾンビ」「考えない人」「自由すぎる女神」「唐揚げ工務店」「はにわプロレス」「氷河期の僧侶」などプッと吹き出しそうになるカプセルトイを続々とリリース。2023年にはギフトボックスから動物たちが口や脚を出す「DELIVERY ZOO」を映像化して配信し、話題となった。
目黒さんはユーモアあふれるパンダの穴の商品が大好きだったという。
「どれもおもしろくて、大ファンでした。以前、仕事ぶりを見せていただいたのですが、膨大な数の企画があり、採用されなかったアイデアも充分におもしろい。『なんてすごいクリエイターの集まりなんだろう。いつか一緒に仕事がしたいな』と願っていたんです」
そうして、ついに念願のタイミングが訪れる。
「パンダの穴のフィギュアを数多く手がけているアートディレクターの岡田啓佑(おかだけいすけ)さんが発案した『ミニチュアねこ』がリリースされたんです。『ミニチュアねこならば、児童書としても馴染むんじゃないか』と考えました」
岡田啓佑さんは商品企画開発と広告デザインの領域で活動するアートディレクター。2024年に大手代理店から独立し、アイデアとユーモアを駆使した表現をする会社「yey inc.」を設立した注目される人物だ。東京工芸大学の非常勤講師でもある。
「岡田さんは、よい意味でバカバカしくてヘンなものをたくさん作っておられる方。『ミニチュアスナイパー』という小指サイズのスナイパーなんて傑作です。机の片隅に置いておくと、つねにスナイパーが自分を狙っているという。そして次が『猫だ』というので、一緒に何か作りたいと思ったんです」