
SNSから口コミで拡がり、大きな話題となっているのが「左ききの道具店」だ。
2018年にオンラインストアとしてオープンし、現在はオンライン以外にも、不定期ながら岐阜県の実店舗やポップアップストアで商品を目にすることができる。
国内外から左利き専用の文房具やキッチン用品など200種類以上のアイテムを取りそろえ、類を見ない「左利きのためのショップ」として多くのファンに愛されているお店だ。
日本では人口の約1割と言われている左利き。そんなマイノリティをターゲットに人気を誇り、売り上げを伸ばしている理由はなんなのか?
今回、「左ききの道具店」店長の加藤礼さんに話を聞いた。
――「左利き」にこだわった理由を教えてください
「私自身が左利きで、学生時代から文房具やキッチン用品が好きでした。いろいろな道具を試行錯誤しながら選んだり使ったりする中で「本当に買い物したいと思える左利きのためのお店があったらいいな」と思ったのが出発点です」
「左利き用アイテムの中には“珍しさ”が先行し、デザインや品質が二の次になっているものもあると感じていました。そこで、機能やデザイン・品質のバランスがとれた左利きの方が使いやすい道具をセレクトするお店として、2018年8月13日(左利きの日)にオンラインショップをオープンしました」
――取り扱っている左利き用商品のこだわりは?
「一つは先ほども言いましたが、珍しさより“毎日使える良い道具”。二つめは“選べる楽しさ”を感じられるものです。というのも、多くの左利き用商品は「あれば良い方、あっても1種類だけ」というのがあるあるです。なので、カラーなどできるだけバリエーションを増やせるよう努めています」
「そして三つめは“左専用にこだわり過ぎない“。左右両用で無理なく成立するならその方がより良いと考えているので、左利き専用にこだわりすぎず左右両用のものも取り扱っています」
これまで存在していた左利き用商品よりも、機能や品質が優れているのはもちろん、日常に彩りとワクワク感を生み出してくれるアイテムが「左ききの道具店」には揃っている。
それらは、国内外からセレクトしたものもあれば、オリジナルブランド「HIDARI」で独自に開発した物も。
左右兼用の目盛りを配置した「HIDARI定規」や定番の三徳缶切りを左利き用に企画した「HIDARI三徳缶切り」など、プレゼントにも災害用の備えにも最適なアイテムを開発している。
中でも特に人気の商品がコレだ。
【左ききの手帳】
「2020年より販売している当店オリジナルの手帳です。レイアウトや開き方向など、左手で書く人のために企画しました。毎年多くのリピーターの方に支えられている看板商品です」
「お客様からは「初めて手帳を続けることができた」「もうこれ以外の手帳は使えない」という大変ありがたいお言葉もいただきました」
【分解して洗える左手用キッチンバサミ】
「刃物の街・関のメーカー「サンクラフト」と共同開発したキッチンバサミです。分解して洗浄できるのでとても清潔。ギザ刃で食材も切りやすく反響が大きいアイテムです」
【左ききの扇子】
「一般的な扇子は右手で使うのに最適化された作りのため、左手で持ってあおぐとだんだん閉じてきてしまいます。骨の重なりを逆にした左手用なら快適に使うことができます。実店舗でも体感して驚かれる方が多い定番アイテムです」
「自分が不器用ではない」という気づきの瞬間のために
「左ききの道具店」のテーマの一つに、『左利きにこだわりすぎない』というものがある。
これは、色んなアイテムを反転させて左利き用にすればいいというものではなく、『左右どちらでも使いやすい方がより良い』ということ。
「左右どちらでも使いやすい道具」、「左利き用に企画されたわけではないけれど使い方によっては左利きに使いやすい道具」にも力を入れ、ラインナップしているという。
さらに、子供用の道具も積極的に取り揃えている。その理由とは?
「昔は左利きを矯正するのが当たり前でしたが、現在はその子の個性としてそのまま活かすのがスタンダードになってきたと感じます」
「子供はまだ力も弱く「道具が合っていないからできない」と気づきにくいため、周りの大人が“この子は不器用”と決めつけてしまったり、自身でもそう思い込んでしまうこともあります」
「その子に合った安全で使いやすい道具を選んでいただき、いろいろな活動を楽しんでもらえるよう、当店でも左利き用の文具やキッチン用品など子供向けの道具を揃えています」
そんな「左ききの道具店」は、オープンして7年。今や多くの固定客がつき、順調に売り上げを伸ばしている。日本の人口の約1割と言われている左利きに向けたお店はなぜこれほどまでに人気になったのか?
「まだまだ小さな店ではありますが、オリジナル商品の開発で少しずつ品揃えの幅を広げてきたこと、実店舗やイベントの展開、そしてSNSなどコミュニケーションの地道な積み重ねが大きかったのではと考えています」
「今後は各地のメーカーさんともご一緒しながら、より魅力的な道具をお届けできるように努めていきたいです。また、2年前より海外への発送も行っていますが、日本国内はもちろん海外の左利きのお客様へもたくさんお届けできるよう発信を続けていきたいと思います」
最後に「左利き専門店を開業して良かったこと」を聞いてみた。
「実店舗やPOPUP会場で「使いづらいのは自分が不器用だからじゃなかったんだ」「利き手に合ったものだとこんなに使いやすいんだね」など、“気づき”の瞬間に立ち会えるのが嬉しいです」
「はるばる県外や海外からも予定を合わせて来店してくださる方もいらっしゃいます。また、オンラインショップやSNSなどでも「応援しているよ」「いつもありがとう」などと温かい声をかけていただくことが多く、とてもありがたいです」
取材協力
左ききの道具店
左ききの道具店 公式X @hidarikiki_dogu
文/太田ポーシャ