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「残業代を請求すると評価に響くぞ」発言は一発アウト?裁判所が上司に下した意外な判決

2025.09.26
林 孝匡 (弁護士(情報発信専門))

こんにちは。

弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。

「え……残業代を請求するの?」
「人事評価が下がるからやめた方がいい」

上司から部下にこのような牽制が入りました。

ムカツいた部下が慰謝料を請求。

裁判所の判断は!?

※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化

事件の経緯

■ 当事者

会社は、情報システムの設計や保守などを行う会社で、Xさんはおそらく正社員。

■ 不満がつのる

ある支店に配属されたXさんは、支店長と部長に対して「高圧的である」「えこひいきをする」などの理由から不満を持つようになりました。

しばらくすると、採用という忙しい業務を担当することとなったXさん。業務量は増え、残業することが多くなりました。

■ メールで上司の悪口

こうして、Xさんの不満はどんどん溜まっていったのでしょう。元支店長とメールをやり取りする中で、

・現支店長や部長を蔑称で呼ぶ
・2人を非難したり
・言動を揶揄する

などの悪口事件に発展しました。

このやり取りに使われたのは、Xさんが会社から借りていた携帯電話で、しかもメールの送受信は勤務時間中にも行われていました。

■ 深夜の2時間超TEL

ある日の夜、Xさんは仕事をしながら、別事業所の従業員と午後10時30分から翌午前1時ころまで、約2時間30分の通話をしました。話題は業務外のことにまで及んでいたといいます。

そして、この時間分の残業代を請求したXさん。ここで会社が待ったをかけました。

■ 取締役と面談

悪口メールと残業代問題が会社の知るところとなり、取締役がXさんと3回面談を行いました。

・1回目の面談

取締役はXさんに「覚悟してもらいたい、厳しい話になる」と切り出し、悪口メール問題について「会社にいなくてもいいんじゃねっとなるレベルだよね」と発言しました。さらに残業代請求問題などを挙げて「正直厳しいよ。かなり厳しい処分になると思う」と述べました。

Xさんは弁解しましたが、取締役は顛末書の提出を命じました。そしてXさんは「どんな処罰でも受けますので、どうぞ退職だけは」などと発言しました。

・2回目の面談

取締役は、悪口メールの個々の文言の意味や、社長への悪口の有無などについて質問しました。Xさんは部長などへの不満を伝えました。

・3回目の面談

取締役は、悪口メールについて、誰かれ構わず上司の行動を揶揄しているように見え、Xさんが率先してメールを送っていると感じたため、Xさんに対して「もう会社を辞めた方がいいんじゃない、と思ったのよ。もう無理だよコレじゃあ。だって結局、俺に対しても本当のことも言ってないもん」と発言しました。自分のことも言われていてムカついていたのでしょう。

続けて「処分にしても減俸くらいってのもあったんだけど、でもこうなるともう、ちょっと厳しいよ。結構。これだけ状況が整ってきちゃうと、続けること自体が」と言い、退職勧奨を行いました。

■ 減給処分

会社はXさんに対して「月額2万4200円を減額」する処分を出しました。理由は「支店の業績不振(採用純減)等の評価」というものでした(ちなみに裁判所は「この減給は違法。後付けの理由と見ざるを得ない」と判断しています)

■ 残業代を請求すると……

ある日、部長がXさんに対して「残業代を請求するとあなたの人事評価が下がるのでやめたほうがいい」と述べました。

■ けん責処分

その後、会社はXさんにけん責処分を出しました。理由は、2時間30分の通話事件です。すなわち「上長に届けず事務所に残って他の従業員とほぼ業務に関係ない内容の通話を約2時間30分もした上に、その通話時間分について残業代を請求した」というものでした。

■ 提訴

Xさんは、「パワハラを受けた(取締役との面談、部長から残業代請求すると人事に響くよ発言、けん責処分)」と主張して、裁判を起こし慰謝料などを請求しました。

裁判所のジャッジ

Xさんの勝訴です。

裁判所は会社に対して「慰謝料30万円払え」と命じました。裁判所は「悪口メールについては会社がXさんに対して厳しい対応をしてもやむを得ない」としつつも、以下の行為は違法と判断しました。

■ 残業代請求しないほうがいいよ発言

部長の「残業代を請求するとあなたの人事評価が下がるのでやめたほうがいい」について、裁判所は「Xさんの権利行使を不当に阻害するものであり違法」と指摘しました。

■ けん責処分(2時間30分の通話)

裁判所は「たしかに、通話には業務と関係のない会話が含まれていた」としつつも、「Xさんの処理すべき業務量が多かったと推認できる。なぜなら、退出時刻を見ると、前日は午後10時30分ころ、当日は午前1時ころ、翌日は午前2時ころだからです。これらの残業は会社から承認を受けています。そうすると、Xさんは業務に関連する電話を受けたあとに、通話作業をしながら業務を行っていたと認めるべきです。たしかに作業密度などの点において問題がないとはいえないとしても、それを理由にけん責処分までするのは重すぎて相当性を欠いています」と判断しました。

■ 3回の面談

この面談については裁判所は「違法ではない」としています。

〈理由〉
・1回目と2回目はXさんが自らの意見を述べている
・3回の面談で取締役が声を荒げることはなかった

最後に

「残業代請求すると人事に響くかもよ」のような発言は、言語道断です。判決文には部長や取締役の発言の詳細が記載されていたので、Xさんが録音していたということでしょう。

読者のみなさまも、何か不穏な空気がただよう面談に召喚されたときは、録音することをおすすめします。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!

文/林孝匡

Author
弁護士(情報発信専門)
林 孝匡
「ムズイ法律を、おもしろく」がモットー。 YouTube:https://www.youtube.com/@saiban_LABO

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