
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
ロッテグループは1973年に韓国でホテルロッテを設立しホテル事業に参入。韓国を中心にグローバルに事業を拡大し、現在は世界7カ国で計39ホテルを有している。
しかし日本では、「ロッテシティホテル錦糸町」、新潟県妙高市の「ロッテアライリゾート」の2施設にとどまっており、日本におけるホテル事業の拡大を目的に、新会社「LOTTE HOTELS JAPAN」の設立を発表した。
日韓の連携で国内では出遅れていたホテル事業を拡大へ
ロッテグループでは2022年からは「ONE LOTTE」をスローガンに掲げ、日本と韓国の事業シーズを掛け合わせたグローバル戦略を推進している。ホテル事業についても日韓で新会社を設立し、直営に加えて全国のホテルオーナーとのパートナーシップを推進、運営受託(MC)、賃貸借(リース)による展開を基本に拡大、今後10年間で、主要都市や観光都市を中心に、日本国内で20ホテル、4,500客室の展開を目指す。
「私がロッテグループに参画したのが約4年半前ですが、同じルーツを持ったファミリーにも関わらず、日本と韓国のリレーションシップが長年途絶えていました。日本、韓国を別々にマネジメントさせて、互いに競争させるという創業者の考えがあったのかもしれませんが、日韓が連携を始めたのが2022年。ぶっちゃけ、遅すぎました。
現在の重光昭夫会長の体制になってから私は参画したのですが、様々な事業シーズ、人材、ノウハウ、支援企業、パートナーシップといった同じリソースがあるにもかかわらず、日本では展開されてない事業がたくさんあって、これは非常にもったいないと感じていました。
2022年から情報交換したり、お互いを知り合うようにしながら、一個一個チャレンジをしていき、日韓で事業のシナジーを起こそうと取り組んできて、ようやく日本でのホテル事業にたどり着きました」(株式会社ロッテホールディングス 代表取締役社長 CEO 玉塚元一氏)
既存の「ロッテシティホテル錦糸町」は2010年に設立。コアラのマーチのキャラクタールーム、千葉ロッテマリーンズルーム、東京スカイツリービュールーム、ロッテの菓子•アイスとのコラボ企画などを実施、2室の客室を1室に改装して居住スペースを拡大するなどの施策も行い、コロナ前の2019年度と比較し、客室単価145%(12,715円⇒18,436円)、売上高142%を達成した。
もう一つの既存ホテルが、新潟県妙高市にある「アライリゾート」で、14コースのスキー場が併設されたリゾートホテル。
スキーシーズンのみならず、季節を通じて楽しめるよう、「スノーリゾート」から「ウェルネスマウンテンリゾート」へ転換、グリーンシーズンのアクティビティ拡充に注力し、年間訪問者数の向上に寄与、対2019年度比で売上高187%、客室単価145%を達成した。
「新会社のLOTTE HOTELS JAPANは、今までのロッテグループのアセット、知見を結集して、日本でのホテル事業の拡張と収益の向上を担う戦略的な組織で、大きな役割として、ホテル開発とホテル運営支援を掲げています。
ホテル開発は開発戦略策定、ホテルの候補地•用地の選定、エリア特性やゲストターゲットを明確に決め、新規、リブランド、コンバージョン等を提案します。
ホテル運営支援に関しては、既に2ホテル運営しておりますのでそちらの知見を活かし、オペレーション基準の策定やセールスとマーケティング支援、収益マネジメントの実施、ホテルロッテのプログラムのサポートをしていきたいと考えています。
今後の新しいホテルに関しては、直営、運営受託、賃貸借による運営を展開いたします。
韓国ホテルロッテの50年以上のホテル運営実績を活用したブランド力や運営ノウハウを提供し、ロッテグループの自社不動産の活用も検討しており、直営、運営受託、賃貸借をバランスよく組み込んでいきたいと考えています」(LOTTE HOTELS JAPAN代表取締役社長 福井朋也氏)
韓国ロッテホテルはラグジュアリーホテルからリゾートホテルまで、立地に合わせて様々なブランドを展開しており、日本においても韓国ロッテホテルのブランドを踏襲して展開を行う。
出店は都市力、観光力の強い場所を中心に、2034年までに既存の2ホテルを含めて20ホテの展開を計画している。また、東京、大阪、沖縄などにおいては、直営方式による旗艦ホテルの出店も検討。新規ホテルのみならず、日本国内で展開する他のブランドをロッテブランドへ転換するリブランドも受け付ける。
「直営式でない旗艦ホテルも考えていますし、札幌、仙台、石川、富山といったところでは、妙高市のアライリゾートとの連携もできるのではないかと思います。また、福岡は韓国の訪日客が多い都市ですので、福岡も注目すべき都市と位置付けています。
日本で展開するホテルのコンセプトとして、身体・心・社会とつながる『ウェルネス活動』に注力していきたいと考えています。
ロッテホテルの様々なブランドでは、ウェルネスプログラムや癒しの空間体験を展開してきましたが、LOTTE HOTELS JAPANにおいてもウェルネスと、美容、サプリ、食品、スイーツ、文化、音楽といったグローバル企業ロッテのコンテンツと結びつけ、日韓における事業のシナジー効果を創出していきます。
ロッテのお菓子のキャッチフレーズで『お口の恋人』がありますが、ロッテによる日本のホテルは、日本ならではの真心とおもてなし文化を体現する『和心(まごころ)の恋人』としました。ぜひこのキャッチフレーズで覚えていただきたいと思います」(福井氏)
【AJの読み】お菓子だけじゃない!「先端技術」「ライフスタイル&エンターテインメント」でも事業拡大へ
日本ではロッテといえば「お口の恋人」のキャッチフレーズで親しまれてきた、ガムや「コアラのマーチ」などお菓子のイメージが強く、実際に日本法人のロッテホールディングスの売り上げは約3,800億円で、菓子・アイス事業が中心となっている。
一方、グローバルなロッテグループの2024年度総売上はおよそ7.9兆円。うち食品は15.5%で、ホテル・物流、他28.9%、流通•小売27.0%、化学28.6%と、グループ全体では、食品以外の事業も大きなウェイトを占めている。
2022年から始まった日韓で一体となった取り組み「ONE LOTTE」以降、日本のロッテグループ成長戦略として「食品」、「先端技術」、「ライフスタイル&エンターテインメント」の3つの柱を掲げている。
今回の新会社「LOTTE HOTELS JAPAN」の設立は、グループ内のグローバル企業に比べて遅れを取っていたホテル領域の強化となる。(※下記画像はロッテホテルソウル)
「2024年の訪日外国人旅行者数は、3,687万人と過去最高を記録し、政府目標としては2030年に6000万人。ホテル客室数は、2023年は177.7万室と2019年比4.1%増となっていますが、2030年に訪日外国人が今の倍となる政府目標の6,000万人になると仮定すると、供給数は足りていない状況で、ホテルが求められる余地は多くありポテンシャルを感じています。
訪日外国人の内訳では韓国人が最も多く23.9%、中国、台湾、香港、タイと続き、アジアが78.8%を占めています。韓国人訪日客は数が多く、またリポーター率も高いため、韓国ロッテと連携をしている私たちはその強みを活かせると思っています。
インバウンドはわかりやすい指標ですが、日本人の宿泊者も当然念頭にありまして、現状ではインバウンドが25%、日本人が75%ですから、国内客にも使っていただけるチェーンホテルにしていきたいとい考えています」(福井氏)
コロナ禍以降インバウンド増加の影響からか、国内旅行や出張の際に「ホテルの価格が高い」「予約が取りにくくなった」と感じることが格段に増えた。ロッテホテルが本格的に日本でも展開されるということで、ビジネスにも使える価格帯のホテルが含まれるのか注視したい。
余談だが、プロ野球ファンの筆者としては、日本のロッテグループ成長戦略3本柱の一つ「ライフスタイル&エンターテインメント」に含まれる、千葉ロッテマリーンズの新球場が非常に気になるところ。
商業、宿泊空間を備えた多機能スタジアムを構想しているとのことで、雨天でも開催できるドーム型で野球以外でも楽しめるコンテンツを組み込んだ、エスコンフィールドのようなボールパークが関東にもできればと夢がふくらむ。新球場プロジェクトにもぜひグローバル企業ロッテのシナジーを期待したい。
取材・文/阿部純子