『矜持(きょうじ)』には、自分の価値や能力に対し、自信・誇りを持つという意味があります。自分の内側に根ざした信念を表し、他者の評価が影響する『プライド』とは意味合いが異なります。
目次
矜持とは?基本的な意味と語源
『矜持』という言葉を聞いたことがあっても、正しい意味を知らない人もいるのではないでしょうか。まずは、基本的な意味や語源を紹介します。
■自分の価値や能力に対する自信と誇り
『矜持(きょうじ)』は、自分自身の価値や信念を強く誇りに思う気持ちを指します。
『矜』は『自負する』『誇る』といった意味を持ち、『持』は持つことを表します。これらが合わさり、『自分の誇りをしっかり持つ』という意味として使われるようになりました。
矜持は、単なる自信を超えた意味を持ち、自分自身の価値観・信念に基づくしっかりとした自己肯定感と結び付いています。
英語の『pride』『dignity』『self-respect』に訳されることが多いですが、『矜持』には職業や立場に伴う責任感・誇りなど、日本独自のニュアンスが含まれます。
■矜持の語源と歴史的背景
『矜持』は中国由来の漢語で、当初は『自分を慎む』『誇り』『自信』などの広い意味がありました。現在の使われ方は、『矜恃(きょうじ)』の意味と混同されたために定着したとされています。
『矜恃』の『恃』は『頼みにする』の意味があり、自分の誇りを頼りにすることを表します。読みや漢字が似ているため、『矜持』も『矜恃』と同様の意味で使われるようになりました。
『矜持』は、日本の武士道精神とも通じる考え方として捉えられ、個人の行動指針や企業文化にも影響を与える重要な価値観とされています。
■プライドとの違い
『プライド』も誇り・自信の意味を持ちますが、使い方やニュアンスは『矜持』とは異なります。
矜持は、他人との比較ではなく、自分の内面の信念・価値観を基盤とした揺るぎない自信であり、その信念を貫く強さを指します。
一方で、『プライド』は他者から認められることを意識した相対的な自信であり、外部評価や比較に左右されることがほとんどです。
『プライド』は、『高慢』『うぬぼれ』といった否定的なニュアンスで使われる場合もあり、他者の評価を気にしすぎる様子や負けず嫌いな性格を表すこともあります。
【例文あり】ビジネスシーンでの矜持の使い方

ビジネスシーンにおける『矜持』の使い方について、具体的な例文を紹介します。また、適切に使用するために、注意点も押さえておきましょう。
■自分の信念や姿勢を表現する場合の例文
ビジネスシーンでは、自分の信念や仕事に対する姿勢を表現したいときに使用できます。
- この業界で10年間経験を重ねてきた者としての矜持から、品質に妥協はしません
- クライアントの期待を常に上回る仕事をすることが、私の矜持です
- 私たちのチームの矜持として、どんな困難な課題にも最後まで取り組む姿勢をお約束します
- 誠実さを何よりも大切にすることこそが、私の矜持です
このように、『矜持』という言葉を使うことで、単なる自信以上に、内から湧き上がる揺るぎない誇りや責任感を表すことが可能です。
■他者に対して使う場合の例文
相手の内面的な誇りや信念を尊重する際にも、『矜持』という表現を使うことができます。
- 彼女は強い矜持を持ち、誰にも媚びずに自身の信念を貫いています
- その決断には、彼なりの矜持が込められていたのでしょう
- 彼は顧客に対して常に誠実で、プロとしての矜持を貫いている
- プロジェクトを成功に導いた彼女は、リーダーにふさわしい矜持を備えている
『矜持』は、他者の行動・決断の背景にある揺るぎない誇りを表現する際にも、適した言葉です。
■『矜持』を使う際の注意点
『矜持』は、基本的に書き言葉として使うのが無難です。『きょうじ』と聞いただけでは文字が思い浮かばない人も多く、意味が伝わりにくい可能性があるためです。
スピーチなどでは、『プライド』『自負』などに言い換えると、相手に伝わりやすくなります。
また、『矜持』は単なる自信以上に、確固たる誇りや尊厳に関わる強い言葉です。そのため、他者に対して安易に使うと、誤解や反感を招く可能性があります。
自己の信念として過度に主張してしまうと、高慢な印象を与える恐れもあるので注意しましょう。
矜持の類義語と言い換え表現

『矜持』の類義語や言い換え表現を知っておくと、状況に応じた適切な言葉選びができるようになります。三つの代表的な類義語について、ニュアンスの違いや使い分け方を見ていきましょう。
■自尊心
『自尊心』は、自分自身の価値や能力を前向きに認め、尊重する気持ちです。単なる自信とは違い、長所も短所も含めて自分を受け入れる姿勢が基盤となります。
つまり、自分の価値を信じ、前向きに評価する感覚です。例えば、「私はこの分野で培った経験に自尊心を持っています」と言えば、自分の専門性に対する誇りと責任感を表現できます。
自尊心は、矜持の土台となる重要な要素といえるでしょう。
■誇り
『誇り』とは、自分の価値や行動に対して抱く肯定的な感情です。辞書では『自慢に思うこと』『得意とする気持ち』などと定義されていますが、単なる『自慢』とは異なり、他者との比較を必要としません。
ビジネスシーンでは、自分の職業や成果に対する価値を認め、責任感を持って取り組む様子を『仕事に誇りを持つ』と表現することがあります。
例えば、「私はこのプロジェクトに誇りを持っています」と言えば、その仕事への深い関与と満足感を示せるでしょう。
■自負
『自負』は、自分の才能や成果に対して確信を持ち、肯定的に評価する心理状態を指す言葉です。ビジネスシーンでは『自負しております』という使い方をし、自信があることを謙虚に表現できます。
例えば、自己PRの場面で「これまでの実績を自負しております」と伝えることで、傲慢にならず自分の強みをアピールできるでしょう。
自負は、基本的にポジティブな事柄に使用する言葉です。過去の失敗などに対し、「ミスがあったと自負する」といった使い方はしないので注意しましょう。
矜持の対義語

『矜持』の対義語には、どのようなものがあるのでしょうか。最後に、『卑屈』『忸怩』という二つの対義語を紹介します。
■卑屈
『卑屈(ひくつ)』は、自信を失い、自分を必要以上に卑しめる様子を表す言葉で、『卑屈になる』『卑屈な態度』などの使い方がされます。
自信がないだけでなく、自尊心の喪失や相手への過度なへりくだりなど、ネガティブな状況に使われる表現です。
ビジネスシーンでは、「卑屈な態度で上司に接する」「クライアントの前で卑屈になり過ぎると信頼を失う」などのように用いられます。いずれも、いじけたり自分を過小評価したりする様子を表しています。
■忸怩
『忸怩(じくじ)』は、深く恥じ入り、強い自責の念を持つことを示す言葉です。自分の言動に対し、『恥ずかしい』『ふがいない』『申し訳ない』といった、自責の念を表現する際に用いられます。
『忸怩たる思い』という形で使われることが多く、「恩を返そうとした矢先に逝去され、忸怩たる思いです」というように使います。
自信や自尊心に裏打ちされた『矜持』とは異なり、『忸怩』は自分を責め、いたたまれない状態を表す言葉です。
矜持の正しい意味を知ろう

『矜持』とは、自分の価値や能力に対する自信・誇りを表す言葉です。日本の文化に根づく価値観として受け継がれてきた概念で、現在では企業の風土にも影響を与える要素となっています。
ビジネスシーンでは、自分の信念・姿勢を表現する場面や、他者を評価する際に使用できます。自尊心・誇り・自負といった類義語や、卑屈・忸怩といった対義語についても理解を深めることで、状況に応じた適切な言葉選びができるでしょう。
構成/編集部







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