
世代や国境を超えて愛されるもの。その一つといえば、お菓子だろう。
中でも『江崎グリコ』が手がける「ポッキーチョコレート」は、1966年に発売され、2026年で60周年を迎えるロングセラー。2021年には、「チョコレートコーティングされたビスケットブランドの世界売上No.1」として、2年連続(2020年、2021年)でギネス世界記録にも認定された。決して大袈裟ではなく、「ポッキーチョコレート」は多くの人が一度は食べたことのあるお菓子である。
もちろん筆者もその一人。子どもの頃は、“持ち手”のプレッツェルを最後に食べるのがたのしみだったっけ……なーんて思い出に浸っていたら、なんと10年ぶりに味わいをリニューアルしたという。しかも、原料を一から見直したとな!?
思い出の味がガラッと変わっていたら、どうしよう……半べそかきながら、筆者は『江崎グリコ』の門を叩いた。
「世界初のスティック状チョコレート」として誕生
さて、「新ポッキー」に迫る前に。そもそも「ポッキーチョコレート」はどのように誕生したのか? グローバルブランド事業部のお二人に聞いた。
「当時は、チョコレートといえば贅沢品でした。それをより気軽に、生活者の方に楽しんでいただけないか?と生まれたのが、世界で初めてのスティック状チョコレート『ポッキーチョコレート』です。
スティック状になったのは、1962年に発売していた『プリッツ』の存在があります。社内で『プリッツ』にコーティングしては、というアイディアが出たそうです。
そこで、チョコレートに合うよう、食感も原料も味わいも変えた細長いプレッツェル全体に、チョコレートをコーティング。銀紙で包んでみました。ただ、これでは銀紙をはずす手間があり、手で触った部分のチョコレートも溶けてしまい、非常に食べづらい。試行錯誤した結果、全体にかけなくてもいいのでは?と出来上がったのが、現在のように“持ち手”にチョコレートをかけないお菓子です。
当時、社内の期待はそこまで高くなかったそうですが……発売2年目で、当時の売り上げ目標を大きく越え、お客様にはしっかり受け入れていただいたのだと思われます」(Pockyマーケティンググループ・鈴木 葵さん)
「“持ち手”にチョコレートをかけないことで、より均一にコーティングされ、見栄えがよく、味わいもおいしくなる」とは、商品開発部 Pocky商品開発グループ・鋤本浩司さんだ。詳しい製造方法はトップシークレットだが、製造工程でもチョコレートのムラが出来にくくなるという。
なるほど、だからポキッポキッと食べすすめていっても、最後までチョコレートとプレッツェルのバランスが同じなのか! 改めて割ってみると、プレッツェルの周囲にまとったチョコレートの厚みが均一で驚いた。
ポッキーは「誰かと分け合う」シーンが圧倒的に多い
発売当初は1箱に1袋入りだった「ポッキーチョコレート」は、2000年から2袋に。また、2012年からは「Share happiness!~分かち合うって、いいね~」をブランドスローガンに掲げている。
「『ポッキーチョコレート』について市場を見ると、他のお菓子と比べ、ご友人や親子など、誰かと分け合うシーンが圧倒的に多いんです。それは発売から間もない、1970年代ごろから。1袋にたくさん入っていること。また、個包装ではありませんが、“持ち手”があることで、袋を開けて『はい、どうぞ』と分けやすいのでしょう。
1袋から2袋にしたのは、お客さまからの一度に食べきれないというお声や、シェアのしやすさを考えてです。お一人でも食べきれますし、シェアしてもよいボリュームになっていますよ」(鈴木 葵さん)
新ポッキーのリニューアルポイントは?
時代ごとにさまざまなフレーバーを展開してきた「ポッキー」。10年ぶりにリニューアルしたのは、通称「赤箱」と呼ばれる「ポッキーチョコレート」と、「ポッキーチョコレート」の約1/2の細さで焼き上げた「ポッキー極細」だ。どちらも不動の人気を誇る定番商品である。なぜ今、リニューアルしたのか?
「前回は10年前にリニューアルしているのですが、コロナ禍を経て、みなさんの健康意識や、人と人とのつながりが変化しています。そこで、どなたとも、より気兼ねなくシェアできるおいしさを追求しました」(鈴木 葵さん)
リニューアルポイントは、大きく次の3つ。ポッキーとしてのアイデンティティーは守りつつ、よりよく進化させるため、約3年もの開発期間をかけたという。
ここからは、開発を担当する鋤本さんに詳しく聞いた。
◎進化POINT1「チョコレート」
「ポッキーのチョコレートは、ボディーがあり、香りが強いことが大事」と鋤本さん。プレッツェルにチョコレートをまとわせているため、チョコレートの風味がしっかりしていないと味が薄っぺらくなってしまうそうだ。
つまり、一本でもチョコレートを味わえることが超重要。それには「風味の複雑さ」もカギになるという。そこで、カカオ豆は30種類以上取り寄せ、配合を追求。最終的にアマゾン熱帯雨林のカカオ農園に赴き、乾燥や発酵工程も確認することで、より品質のよいカカオ豆に辿り着いた。
「香りのいいカカオ豆を使用しているので、焙煎は1度単位で調整し、低温にこだわりました。また、チョコレートの主原料であるカカオマスの粒度など、加工方法にも工夫し、香りを引き出しています。さらに、カカオマスの一部を分割投入して香気成分の揮発を防ぐ“追いマス製法”で、カカオの風味をしっかり感じられるチョコレートに進化しました」
このほか、ココアバターもカカオの味わいが残っているものを使用。砂糖は2種類ブレンドしている。これらにより、シナモンのようなスパイシーな風味に、フローラル、フルーティーな香りも兼ね備えた、香り高くコク深いチョコレートに仕上がった。
◎進化POINT2「チョコレートが引き立つプレッツェル」
新しいポッキーは、見るからにプレッツェルの色がちがう。
むむっ……これは食べてみないと。いざ、ポキッ! おお、華やかなチョコレートの香りとコクにプレッツェルが調和しつつ、小麦粉の味わいも感じる。チョコレートもおいしいが、プレッツェルもぐーんと味わい深くなっているような?!
「はい、プレッツェルは噛めば噛むほど、おいしさを感じていただけると思います。プレッツェルも数百回に及ぶ試作検証を繰り返し、チョコレートの魅力を引き立てる味わいに進化させました。
ポイントは、小麦粉と砂糖です。小麦粉は、全粒粉(プレッツェル中5%使用)や粗挽きの小麦粉を使うことで、香ばしさと味わい深さを。砂糖は2種使うことで、おいしい自然な焼き色に仕上げています。さらに『ポッキーチョコレート』には、プレッツェル部分に発酵バターを使用し(0.8%)、プレッツェルの味わいを一段引き上げています」
◎進化ポイント3「素材を見直し、よりシンプルな設計へ」
チョコレートもプレッツェルも、使用する素材を一つひとつ考え抜いた。結果、よりシンプルな原料になったという。
「昨今、原料に関心を寄せるお客さまが増えています。これからも安心して選んでいただき、気兼ねなくシェアできる存在であるために、素材本来の力強い味わいを活かすことを大切にしました」
チョコレートに合わせて進化したプレッツェルでは、色素や香料、膨張剤などの添加物、ショートニングなどの添加物は不使用にしたという。
「ショートニングは、サクッとした食感のよさに貢献する、お菓子づくりによく登場するものです。当社で使用しているショートニングは、トランス脂肪酸をほとんど含まない植物油脂のみ使用した“低トランス”のショートニングであり、健康への配慮を行っています。ただし、健康リスクの有無とは別に、『ショートニング』という言葉に対して不安を感じ、購入を控えるお客様が一定数いらっしゃると認識しております。そのため、より安心してお召し上がりいただけたらと、ショートニングはほかの油に変え、イーストの発酵時間を調整するなどして、食感の変化を最大限に抑えました。
また、モルトエキスや全粒粉で香ばしさを引き出しています。それから、白砂糖に加えてミネラル豊富な茶色の砂糖も使用することで、コクや旨みが増しました」
ちなみに、色も変わっているが、プレッツェルを焼く時間は大きく変えていないのだとか。「若干オーブンもコントロールしましたが……ここからは企業秘密です(笑)」
社員一丸となった渾身のおいしさを楽しもう
くる日もくる日も試作を繰り替えし、完成した「新ポッキー」。“らしさ”は大切に、今の時代に必要とされるものを目指して、社員一丸となって試食や意見交換を繰り返したそうだ。
最後に、@DIME読者におすすめの楽しみ方を聞いた。
「まずは1本、じっくり味わってみてください。カカオの豊かな風味や滋味深いプレッツェルの味わいを感じていただけると思います。お酒が飲める方は、オン・ザ・ロックのスコッチウイスキーと嗜んでいただくのもおいしいですよ」(鋤本さん)
「ポッキーは、手が汚れにくいので、デスクワークの合間にぱっとお召し上がりいただくこともできます。忙しい仕事のひと息に、同僚とシェアすればリラックスしたコミュニケーションが生まれるかもしれません」(鈴木さん)
新しくなった「ポッキーチョコレート」と「ポッキー極細」は、全国各地で販売中である。かつてのポッキーを知る人も、まだポッキーを食べたことがない人にも、「はい、どうぞ!」。分かち合うことで、笑顔や会話が生まれること請け合いだ!
取材協力/江崎グリコ
取材・文/ニイミユカ