
地下鉄の屋根に太陽光パネルを付けるって? それって……なんて最初から穿ってしまうが、さにあらず。むろん地下鉄の屋根に太陽光パネルを付けて電気を集めよう、貯めよう、活用しようという話ではなく、これはOsaka Metro森之宮検車場でのプロジェクト。つまりは検車場という電車のメンテナンス工場での1/1スケールでの実証実験である。
水素型燃料電池を使う経済的合理性はまだ遠いけれど…
Osaka Metroでは二酸化炭素の排出量の削減目標を、2030年度に-46%、2050年度に実質ゼロとしている。現在はまだまだ道半ばと言ったところか。その目標に向けた取り組みの重要なカギとなるのが、水素・太陽光発電システムである。
二酸化炭素削減の有効な手段としては太陽光発電をはじめ、水力、地熱などが挙げられる。これはもう昭和の時代から冗談のように語られてきたように思うが、要するに、「太陽光いうたかて、雨、曇りの日、夜はどないすんねん? デンキできへんやんけ」ということ。昭和時代は太陽光で発電した電気を蓄電池に貯めて使う発想がうすかった(蓄電池性能も低かった)ため、発電電気=リアルタイムで使用が理解の境界線だったのだ。
現在では非常用、アウトドア用として高性能大容量モバイルバッテリーも普及しているし、家庭用蓄電池の設置、あるいは「移動する巨大な電池」であるEVに貯める手段もとれる。つまり理解・利活用が身近に広がっている。
さて令和時代、Osaka Metro案件である。
実証実験の概要としては、まずテーマは「太陽光パネルと水素燃料電池を組み合わせた発電施設による、鉄道電気への高圧系統連系の実現に向けた実証」であり、このために「Osaka Metro施設内に太陽電池・水素燃料電池を設置し、発電した電力を自社利用することでCO2排出量を抑制、持続可能な社会の実現(SDGs)に貢献」することとなる。
この実証実験のパートナーがパナソニックだ。
パナソニックは燃料電池の普及拡大に向け、2009年に家庭用燃料電池「エネファーム」の発売を開始。2021年には産業向けに純水素型燃料電池を発売してきた。今回Osaka Metroの実証実験に納入したのは、太陽光発電100kWに純水素型燃料電池5kW×2台=10kWで、合計110kW規模となり、太陽光をメインに夜間や天候不良により効率の落ちる分を水素でサポートし安定した電力供給を狙う。ちなみに発電用水素はシリンダー詰めを40本、施設内に設置して使用している。
以上の設備が森之宮検車場に導入され、そのまま電車のエネルギーとして……と言いたいところだが、今回の実証実験では検車場内利用にフォーカス。森之宮検車場内の未来モビリティ体験型テーマパーク「e METRO MOBILITY TOWN」への供給としている。「e METRO MOBILITY TOWN」は10月19日までの営業であるため、その後は工場電気室を経て検車場への送電を検討する予定だ。
Osaka Metroでは今年の7月に地下鉄御堂筋線・中央線のCO2排出量実質ゼロでの運行を実現。2050カーボンニュートラルへ向けての大きな一歩を踏み出した。
「現在のところ水素型燃料電池を使う経済的合理性はないが、これからの時代は火力じゃないよね、と言う認識の上で必要な取り組みだと感じている。国の指針としても水素価格が現在の1/3程度になれば充分実用範囲。今回のシステム全体の年間発電量は太陽光が11万kW、水素型燃料電池で8000kW=11万8000kW。これは一般家庭電力年間需要の17世帯ほどでしかありません。まだまだ時期は明示できませんが、いずれ森之宮検車場近隣の駅施設への供給や電車への供給などへつなげていきたいと思います」とはOsaka Metroの本プロジェクト担当者、交通事業本部先端技術センターの小猿さん。
自動車よりずっと先んじて電気を活用してきた電車。その電車のガソリン(というのも妙な表現だが・笑)たる電気を自らまかなおうとする重要な一手が、いま打たれた格好だ!
Osaka Metro
「e METRO MOBILITY TOWN」
パナソニックエレクトリックワークス社
取材・文/前田賢紀