
必要最低限の業務をしながら転職の意思があるわけではない、いわゆる「静かな退職」状態。仕事へのやりがいよりもプライベートを優先する人が増えているが、実態はどうなっているのだろうか。
そこでスコラ・コンサルトは、全国の社員100名以上の企業に勤める一般社員・管理職2,106名を対象に、転職や働くことに関する意識についてアンケート調査を実施したので、結果を紹介しよう。
仕事やキャリアの考え方、「仕事は収入を得る手段だと割り切っている」が73.6%で最多
仕事やキャリアについての考え方について質問したところ、「会社やチームに貢献することを重視している」が61.5%、「顧客や取引先・仕事相手に喜んでもらうことを重視している」が60.7%。自組織やその他のステークホルダーを重視する考えが約6割を占める。
一方、「仕事よりもプライベートを大事にしている」が68.7%、「仕事は収入を得る手段だと割り切っている」が73.6%。仕事について割り切った考えが7割前後見られた。
また、「入社時はやる気があったが今はやる気が下がった」が49.2%、「割り当てられた業務以上のことはなるべくやらないようにしている」が40.8%という結果に。
「静かな退職」状態にある人は16.3%、性別・年代に関わらず均等に存在
年代別に「割り当てられた業務以上のことはなるべくやらないようにしている」割合を見ると、20代・30代で高いことがわかる。(図2)
しかし、必要最低限の業務だけを行なう人たちの中には、転職の意思なく会社に居続ける「静かな退職」のほかに、転職に意識が向いているために余計な仕事をしない人たちも含まれていると考えられる。
そこで、「割り当てられた業務以上のことはなるべくやらないようにしている」人(40.8%)の転職意向を確認したところ、「転職意向あり」は59.0%、「転職意向なし」は40.0%であった(図3)。
このことから、「静かな退職」状態にある人は40.8%×40.0%、つまり、全体の16.3%存在すると推定される。(図4)
「割り当てられた業務以上のことをなるべくやらない」人について、転職意向別の性年代内訳を見ると、「転職意向なし」(静かな退職)は性年代に関わらずほぼ均等な割合で存在することがわかる。(図5)。
なお、「転職意向あり」は20代~30代の割合が高くなっている。この年代が「割り当てられた業務以上のことをやらない」背景には、転職意向も関係しているようだ。
社員のやる気が下がった原因の上位は、「評価や報酬が見合わない」「企業風土」「昇給・昇進が期待できない」
社員のやる気が下がった原因として最も多いのは「頑張ったことに対する評価や報酬が見合わない」41.1%、2番目は「会社の体質や企業風土に不満がある」40.0%、3番目は「昇給・昇進がほとんど期待できない」38.7%。
4番目は「会社や職場の問題がなかなか改善されない」34.4%、5番目は「業務量が多すぎた、ノルマやプレッシャーに疲れた」32.0%、6番目は「上司に不満がある」31.2%となった。
転職経験者に自身の転職をタイプ分類してもらったところ、以下のような結果に。
最も多いのは「人間関係ストレス型転職」12.8%、2番目は「ブラック逃避型転職」12.1%、3番目は「組織に失望型転職」9.6%、4番目は「ライフステージ変化型転職」9.0%、5番目は「なんとなく型転職」8.9%。
本人の前向きな意志による転職は、「目標発見型転職」が6.8%、「キャリアアップ型転職」が3.4%にとどまっていた。(会社にも問題がありそうな「ぬるま湯脱出型転職」4.0%を含めても合計14.2%)
今回用いた転職のタイプ分類は次の通り。
・「人間関係ストレス型転職」:上司や同僚・部下との関係悪化、職場の雰囲気などにストレスを感じたことによる転職
・「ブラック逃避型転職」:長時間労働やパワハラなど、ひどい労働環境があり、そこから抜け出すための転職
・「組織に失望型転職」:会社や職場の問題がなかなか改善されず、失望したことによる転職
・「ライフステージ変化型転職」:結婚・出産・介護・転居など、私生活の変化による転職
・「なんとなく型転職」:なんとなくこの会社ではない、転職したら状況が良くなると漠然と思った
・「燃え尽き型転職」:仕事のプレッシャーや責任に疲弊し、心身の限界を迎えたことによる転職
・「環境不適応型転職」:価値観や組織風土、働き方が自分に合わなかったことが原因の転職
・「目標発見型転職」:新たにやりたいことや夢が見つかり、それに向けて進むための転職
・「評価不満型転職」:自分の成果・能力が正当に評価されていないと感じたことによる転職
・「配属ガチャリセット型転職」:希望の職種・業務・勤務地に配属されず、モチベーションが下がったことによる転職
・「ぬるま湯脱出型転職」:求められる仕事の水準が低すぎて成長できない不安があり、より成長できる環境を求めた転職
・「キャリアアップ型転職」:職位や年齢が自分より上の人が多く、キャリアアップや昇進の機会が限られており、キャリアアップや昇進の機会を求めた転職
・「ビジョンと実態の乖離型転職」:組織が掲げているビジョンと実態とが乖離していることが分かり失望したことによる転職
・「同僚ものたりない型転職」:同僚が目指す目標や遂行する仕事の水準が物足りないと思うことによる転職
転職理由上位の不満は「給与・賞与・福利厚生」、「企業風土」、「上司」
転職理由を重要な順に5つまで回答してもらった。5番目までに挙げられた合計割合が高い項目は、「給与・賞与・福利厚生に不満があった」40.5%、「会社の体質や企業風土に不満があった」31.9%、「上司に不満があった」28.0%、「経営や将来性に不信・不安を感じた」22.9%、「残業や休日出勤が多かった、代休・有給休暇など休みがとりづらかった」22.5%という結果に。
転職理由となった会社の体質や企業風土の不満で、最も多いのは「社員を大切にしているとは感じられなかった」47.6%、2番目は「会社や職場の問題がなかなか改善されない」34.2%、3番目は「長時間労働でプライベートな時間があまり確保できなかった」26.4%。
4番目は「トップダウンが強く、社員の意見が採り入れられることは少ない」24.2%、5番目は「変化に対応できておらず、時代遅れの体質を感じた」23.4%。これらの要素が目立つ職場は、社員の転職リスクが高くなりやすいと言えるだろう。
スコラ・コンサルトの解説
ここまで、転職に関連する意識とその背景、「静かな退職」などについて報告してきました。
「仕事は収入を得る手段」「仕事よりもプライベートが大事」と割り切る人が約7割を占めます。また、転職タイプや転職理由の上位にはネガティブな項目が並びます。
仕事自体のやりがいや会社への共感よりも、人生をトータルで考えて収入を確保するために、条件の良いところがあれば軽快に移動していく――それが多くの人にとっての転職の実情のように見えます。
一方、近年注目される「静かな退職」は、持続的に仕事と生活のバランスをとるために、仕事への情熱は抑え気味にし、転職を考えずに最低限の業務責任を果たす働き方です。実際に退職するわけではありませんが、心理的に会社から離れている状態を指します。
今回の分析では、労働者全体に占める「静かな退職者」の割合は16.3%と推計されました。また、「静かな退職」はいずれの性別・年代にも存在しうることもわかりました。
「静かな退職」は若年層に多いという分析もありますが、若年層には転職意向の高い人が混在していることや、高齢層で必要最低限の仕事ぶりの人は「働かないおじさん」として既に注目されてきたことから、「静かな退職=若年層」というイメージになったのかもしれません。
転職や「静かな退職」への対策として、無理に繋ぎ止めようとしたり、やる気を出させようとすることは、企業側視点になりかねません。しかし、企業側が見逃しているポイントがあるとしたら、それに対しては手を打てるとよいと思います。
本調査のやる気低下原因や転職理由で明らかになったのは、給与や昇進という見えやすいハード的要因のほかに、企業風土(社員を大切にする、意見を採り入れる、問題改善力など)や上司への不満、働き方(業務量とプレッシャー)といったソフト的要因も上位に挙がるということです。
継続勤務志向層や転職志向層に対しては、これらの要因への対策が必要となります(転職志向の人は悠長に待っていられないかもしれませんが、重要な要素はほぼ共通すると思われます)。
一方、現在は少数派の「静かな退職」層ですが、これからは多数派となるかもしれません。この層に対して即効性のある対策を講じるのは容易ではありません。社会のさまざまな影響から構築された根深い価値観やライフスタイルであり、変えることは難しいからです。
しかし、対価分の責任は果たしてくれる大事な存在でもあります。上記の対策に加えてできることがあるとしたら、そもそも人は多様である、話してみないとわからない、と考えて実態考察のための対話をしてみることではないでしょうか。
「この会社で何かをなさねば」という強制的な話ではなく、お互いを尊重しながら「人生全体をどうしたいか」「その上で職場や仕事をどうしていきたいか」という共生的な話が生まれれば、やる気低下や転職の兆候が見えてくるかもしれません。
対話を通じて意識が変わることもあるでしょう。具体的に何を変えていくかという方策も生まれる可能性があります。
こういった関わりは、直属の上司だけの責任にしてしまうと負担が膨大になりますので、職場の人々のネットワークの中で相互に関わりあえると効果的です。
「静かな退職」層に必要な対策を考えてみましたが、こういった環境づくりはその他の層にも効くことになります。
マイノリティに配慮した工夫がマジョリティにもメリットをもたらす「ユニバーサルデザイン」の発想で、今のうちから「静かな退職」層に対応していくと、今後の新たな人材層からも選ばれる組織になれるかもしれません。
調査概要
調査主体:株式会社スコラ・コンサルト
調査方法:調査会社のインターネットアンケートモニターによる回答
調査期間:2025年5月23日~2025年5月26日
有効回答数:2,106人
関連情報
https://www.scholar.co.jp/
構成/Ara