
ありそうでなかった“粉末タイプ”のぽん酢「無限さっぱりスパイス by味ぽん」。
2か月で販売予定だった数量を、わずか4日で完売した。製造が追いつかず、現在も品薄状態となっている大ヒット商品だ。
今回は、株式会社ミツカン マーケティング本部 マーケティング企画1部 調味料2課 主任 吉岡真優さんに、商品開発のきっかけや苦労した点、こだわり、そしてヒットの要因について詳しくお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
「粉末ぽん酢」で広がる味ぽんの新しい魅力
「味ぽん60周年」のタイミングで登場した、無限さっぱりスパイス by味ぽん。開発のきっかけについて、吉岡さんは次のように話す。
「“お客様のニーズに応えよう”と考えたのが始まりです。揚げ物料理にレモンや味ぽんをかけると、どうしても食感がべちゃっとしてしまいます。『サクサクのまま、さっぱり感を楽しめたらいいのに』というインサイトを受けて、”粉末ならその願いを実現できるのでは”と考えました」
当商品は、60周年だから生まれた商品ではない。2年以上に及ぶ試行錯誤の末、ポン酢の新しい価値を求めてたどり着いた答えだった。
「粉であることの価値やメリットがなかなか明確にできず、企画が進んだり止まったりを繰り返していました。お酢を粉末にする取り組みや、ふりかけ事業での知見もあり、“粉”という形態自体には親しみがありましたが、『味ぽん』ブランドでどうやって新しい価値を届けるかは悩んだところです。最終的には、ぽん酢のメニュー領域を広げる社内のブランド戦略と、お客様のニーズが上手く合致したことで開発に至りました」
「消費者インサイトを見抜くべく、普段からユーザーの声を参考にしている」と話す吉岡さん。中には、開発側が想像もしなかった使い方を楽しむファンもおり、味ぽんの新たな可能性を感じることも多いと続ける。
「サラダにそのままかけたり、お肉に合わせたりするのはもちろん、カット野菜にそのまま味ぽんをかけて食べる方もいるようです。たっぷりのエノキを味ぽんだけで煮詰めて“自家製なめ茸”を作るユニークなアレンジも教えていただきました。私も初耳で、思わず家で真似してみたほどです」
新しい調味料、だけど“味ぽんらしさ”は大切にしたい
「味ぽんをただ粉末化するだけでは面白みに欠ける」と考え、繰り返し食べたくなるよう工夫を凝らした。
「『やみつき感』を出すために、スパイスを加えようと考えました。唐辛子やにんにく、胡椒など、さまざまなスパイスの種類や配合を何度も試作し、最終的な味のバランスに徹底的にこだわっています。柑橘の皮“陳皮”を加えているのも特徴です。味ぽんらしさを残しつつ、液体の味ぽんにはないスパイシーさを加えました」
スパイスの種類やバランスにも、一切妥協しなかった。
「液体の味ぽんは全体が均一な味わいですが、粉末はさまざまな素材をブレンドするので不均一さや複雑さが生まれます。いろいろな味が後から広がったり、最後まで風味が残ったりする。こうした“多層的な味わい”をどう調整するかを一番のポイントと捉え、社内で何度も試作を繰り返しました」
吉岡さんは「アウトドアブームもあり、スパイスやブレンド調味料の需要が高まっている」と話す。多くの商品が出回る中、差別化ポイントとして重要視したのが“らしさ”だった。
「“ぽん酢フレーバー”は、唯一無二の魅力です。だからこそ、味ぽんをもともと好きでいてくださる方が『これは味ぽんじゃない』と感じるものにはしたくありませんでした。あくまでも味ぽんらしさを大切にしつつ、新しさを付与しようと考えました」
この考えは、商品の至るところに反映されている。
「キャップ部分はあえて液体の味ぽんと同じものを使い、親しみやすさを残しています。一方で、口元のイラストを入れるなど、今までの味ぽんブランドにはない新しい挑戦もしました。また、液体の味ぽんは要冷蔵ですが、当商品は常温保存が可能です。キッチンや食卓など好きな場所に常備でき、賞味期限も1年と長いため、いつでも気軽に使っていただけます」
ヒットのしかけはSNSにあり!若年層にヒットした理由
やみつき感と味ぽんブランドを再現するネーミングも、最後まで悩んだポイントだった。
「“さっぱりスパイス”にするか“パウダー”にするか、その言葉一つにも議論を重ねました。結局“パウダー”ではただ味ぽんを粉にしただけの印象になってしまい、“やみつき感”や新しさが伝わりにくいと考えたんです。お客様へのアンケートや社内ヒアリングも重ねた上で、“無限さっぱりスパイス by味ぽん”が一番イメージに合うと判断しました」
当商品は幅広い世代をターゲットとしつつも、特に若年層との新たなブランド接点づくりを重視している。
「PPIHグループのドン・キホーテさんやユニーさんで取り扱いいただくことで、普段スーパーではあまり味ぽんを手に取らない方にも、新しい形の味ぽんに出会っていただけるのではないかと考えました。宝探しのように“今日は何があるかな”とワクワクしながらお店を訪れるお客様に、商品を発見してもらう。その体験が、ブランドにとっても新しいファンづくりに繋がると思っています」
フタを開けてみたら、ローンチからわずか4日で2か月分の販売個数を完売という大ヒットに。想像を上回る反響の裏には、緻密に練られたプロモーション戦略があった。
「今回、テレビCMなどのマスメディアは使わず、SNSを中心にプロモーションを行いました。発売前から味ぽんとドン・キホーテ両方の公式アカウントで、シルエット画像を使ったティザー投稿や『どんな味ぽんが出ると思いますか?』といった大喜利形式のやり取りを行ったんです。企業同士で掛け合う様子も含めてSNS上で話題が広がり、一気に注目を集めることができました」
変わる調味料のニーズ。ヒットのカギは“料理ライト層”にあり
発売後の評判も上々で、7割以上の方が「また買いたい」とポジティブなフィードバックを寄せる。ユーザーは思い思いの使い方で“無限の可能性”を堪能しているようだ。
「パッケージに記載している揚げ物や焼き物だけでなく、ふりかけのように使ったり、トーストにのせてみたりと、これまでの液体ポン酢では試されなかったメニューにも積極的にチャレンジしていただいている様子が伺えました。アンケート結果を見て、私たち自身も“こんな使い方があったんだ”と新しい発見があります」
生産が追いつかないほどのヒット商品となった「無限さっぱりスパイス by味ぽん」。吉岡さんはヒットの要因について、次のように分析する。
「一番の要因は、これまで顕在化しにくかったニーズに上手く応えられたことだと思います。当たり前のようにレモンや味ぽんをかけていましたが、その裏でサクサク感が損なわれていた“隠れた不満”に、新しい価値を提案できたのが良かったです。また、味ぽんブランド60年の積み重ねによる高い認知度も大きな強みだと感じています。今後もお客様を驚かせるような提案を続けていきたいです」
変革期にある調味料市場。レッドオーシャンの中でヒット商品を開発するためには、トレンドを見極めていくことが求められる。
「コロナ禍以降、家で料理をする人が増え、食に対するニーズも変わってきました。これまであまり料理をしてこなかった若い方や男性、いわゆる“料理ライト層”が手に取りやすい調味料の形や味わいに、これからも注目していきたいと考えています。また、最近は日本の四季の二季化が進み、私たちが好む味も少しずつ変化しているように感じます。そうした時代の変化を捉えながら、ミツカンの技術やポン酢の特徴を生かした新しい味づくりに今後も挑戦していきたいです」
撮影・取材・文/久我裕紀 構成/DIME編集部
2か月分が4日で完売!無限に食が進むと評判のミツカンの粉末ぽん酢を20種類の料理で試してみた
1964年11月10日に発売され、今年、発売60周年を迎えた「味ぽん」。発売当時は鍋専用調味料として、西日本限定で販売されていたが、その後、全国に販売エリアを拡…