
■連載/ヒット商品開発秘話
ハンドクリームはオイルリッチでベタついてしまうものがほとんど。何か作業をしている日中は使いづらく、使うのが就寝前に限られがちだ。
ベタつきを気にすることなくいつでも使えるハンドケアアイテムが、現在売上を伸ばしている。ナリス化粧品が2023年8月発売した『セラミュ ハンドジェリー』のことである。
『セラミュ ハンドジェリー』はジェルでオイルフリー。美容液成分が99.5%で、保湿成分としてビタミンC誘導体(アスコルビルリン酸ナトリウム)やCICA(ツボクサエキス)を配合している。肌の上に油分の膜をつくらないので、1日に何回塗っても水分が角質層に浸透。スマートフォンの画面やパソコンのキーボードを汚す心配がないので、仕事中はもちろん家事をしている間も安心して使える。2025年6月末時点で約12万個が売れているという。
塗ったら吸い込まれ角質層まで浸透
「市場には多くのハンドクリームが出回っていますが、ほとんどがしっとりとした使用感で、塗るとヌルヌル、ベタベタします。軽い使用感で使いやすく何かの作業中でも使えるハンドクリームができないかと考えました」
開発の経緯をこのように明かすのは、マーケティング部マーケティンググループ 主任の羽柴愛子さん。発売の1年半ほど前に、社員の中にハンドクリームを塗るのを我慢したり手の甲にだけ塗ったりしている人がいることに気づいたことがきっかけになった。
ハンドクリームを塗りたいけど我慢したり手の甲にだけ塗ったりしている人がどれだけいるのかを社内で調査。社員にヒアリングしたところ、日中は塗らず寝る時だけ塗っている人がある程度いることが判明した。
開発に当たり着目したのが、韓国コスメで見られる透明でとろみのある美容液。油分があまり含まれておらず、ベタつきにくい特性を持っていた。透明であればさっぱりした使用感であることが視覚的に伝わりやすいことから、透明なジェルタイプのハンドケアアイテムが構想された。
研究開発部門に透明であまりベタベタしないハンドジェルの試作を依頼したが、「私がつくりたいもの、手肌に塗った時の感覚を研究開発部門と共有できるようになるまで時間がかかりました」と振り返る羽柴さん。塗ったら吸い込まれて角質層にまで浸透し手肌がベタつかないものを実現させたかったが、肌への浸透力と浸透している実感を連動させるのが開発上の難点となった。サンプルをつくっては評価することを繰り返したが、羽柴さんが評価したサンプルだけでも10個以上。これまで手掛けた商品と比べて多くのサンプルを評価した。
完成目前で発生した予想外のアクシデント
塗ると肌に浸透している実感が得られる感覚は、高分子材料の調整を必要とするなど手がかかった。サンプルの評価を重ねていくうちに理想に近づいていったが、中身の完成にメドがついた頃、予想外のアクシデントが発生する。羽柴さんを含めたごく一部の人が手肌につけて伸ばすと、消しゴムカスのようなものが突然かつ大量にできるようになってしまったのだ。
「モロモロ」と羽柴さんが称する消しゴムカスのようなものは、研究開発スタッフでは誰ひとりできなかった。しかし、40名近くの女性社員にサンプルを配布して1週間ほど使ってもらい問題がないかどうかを確認する試用テストでは、わずかだができた人が確認された。
試用テストで何も問題が発生しなければ中身は完成となるはずだった。しかし、「モロモロ」の発生により、つくり変えなければならなくなった。
「研究開発部門に頑張ってもらい何とか発売予定には間に合わせることができました」と羽柴さん。最後は、研究開発スタッフがサンプルをつくっている横で羽柴さんがサンプルを試したほどだった。
一つひとつの気泡が確認できるほどの透明感
中身の処方やテクスチャーと同様にこだわったのが、チューブ容器の透明感だった。
「透明なチューブ容器を使ったものは普通に出回っていますが、当社がこれまで使ってきた透明なチューブ容器は少し曇った感じのものでした」と明かす羽柴さん。曇ったチューブ容器だとパッと見た時に透明なジェルがクリームと錯覚されてしまいかねなかった。
容器開発の担当者に透明なチューブ容器の試作を依頼した時、最初は少し曇ったものが提示されてきた。イメージは写真を見せて伝えていたものの、羽柴さんが理想としたのは一つひとつの気泡がしっかり確認できるほどの透明感。透明なチューブ容器を使った商品を買い込み、ダメな見本とOKな見本の両方を容器開発担当者に見せることでイメージの共有を図った。
キャッチコピーは「すぐスマホ触れる」
ハンドケアアイテムはこっくりとしたクリームタイプが主流なことから、社内では販売は苦戦すると認識されていた。冬が過ぎ売場が縮小されると、つくり過ぎた分が返品で戻ってくるリスクが想定されたことから、生産量は最小ロット数程度に絞り込まれ、販売店も一部のドラッグストアに限定された。
ただ、年々長引く傾向にある暑さが、販売面で味方した。こっくり感のあるハンドクリームは暑さが長引くようになった影響を受け、店頭での立ち上がりが遅くなってきていることから、他社がハンドクリームを本格展開するより前から大きな売場面積を確保しやすくなっていた。水仕事をしていて手肌の乾燥が気になりやすい人などは、まだ暑いものの少しずつ空気が乾燥し始める9月や10月あたりからハンドクリームを使い始める。まだ暑い時期からハンドクリームを使いたい人たちにとって、軽いジェルタイプはクリームより望ましいものだった。
商品には「すぐスマホ触れる」のキャッチを印刷したアイキャッチラベルも貼付された。スキンケア商品らしくないキャッチだが、違和感によって売場で目を引くために採用した。
透明感のあるチューブ容器によりイエローが映えるものの、ただ店頭に並べただけでは目に留まりづらい。そこで、イエローが映え商品がキレイに見える専用什器をつくり商品を並べることにした。什器はイエローがくすんで見えないよう背面をホワイトとし、軽い使用感が視覚的に伝わるように考慮。一緒に置くことにしたテスターはすぐなくなり、什器を置けない店舗と比べると製品の回転が早い傾向が見られた。
2024年10月以降からは、それまで取り扱っていなかったドラッグストアやバラエティショップなどでの販売も始まった。先行して販売していた一部のドラッグストアでの販売が好調なこと、女性だけではなく男性購入者も多いこと、男性発信のクチコミが多いことなどを材料に販売店を拡大していった。
男性ウケが良いのは、パソコン使用中やゲーム中でも使える点が支持されたため。小売店によっては「男性にオススメ」といった男性向けに訴求するPOPを掲示するところもあるほど。中にはスマホケース売場の横に置いたカゴに商品を置いて売っているところもあるほどだ。
無香料タイプを新たに追加
また、この9月に第2弾『セラミュ ハンドジェリー HA』が発売される。『セラミュ ハンドジェリー』とは処方が異なり、3種のヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸クロスポリマーナトリウム、加水分解ヒアルロン酸)と保湿剤としてグルタチオンを配合。さらに無香料とした。
ヒアルロン酸を3種配合することにしたのは、ヒアルロン酸は女性がスキンケア商品を購入する際に魅力的だと感じる成分であるためだ。処方は大幅に変わることになるが、ヌルヌル、ベタベタしない軽い使用感と水分がぐんぐん肌に浸透していくところは変わらず継承している。
無香料にしたのは、仕事中に使ったり男性が使ったりすることを考慮したため。ユーザーのクチコミでも無香料を求める声が確認されており、要望に応えた形だ。医療や食品関係といった香りがNGの職場でも使いやすくなった。
ブルーは配合成分のグルコン酸銅に由来する。羽柴さんは「冬のイメージが強いハンドクリームでブルーは考えられませんが、みずみずしさや潤いと直結する色味ですので、手肌の状態をみずみずしく整えてくれる印象は『セラミュ ハンドジェリー』のイエローより強まりました」と話す。
取材からわかった『セラミュ ハンドジェリー』のヒット要因3
1.潜在ニーズの掘り起こし
スマートフォンの画面を汚してしまうなどの理由から、日中はハンドクリームを塗るのを我慢したり手の甲だけしか塗らなかったりする人がわずかながらいたことに着目。ヌルヌル、ベタベタせず潤いだけ与えるものを開発したところ、待ち望んでいた人が多くニーズを顕在化することができた。
2.新規ユーザーの開拓
ハンドクリームは女性ユーザーが多いイメージだが、ヌルヌル、ベタベタしない点を男性も評価。パソコンを使っている間やゲーム中でも使える点が支持され、新規ユーザーの獲得につながった。
3.従来品とは違うことを視覚的に伝えられた
オイルリッチなクリームではなく美容成分主体の透明なジェルタイプとしたが、ヌルヌル、ベタベタしないことが視覚からも伝わるよう、チューブ容器の透明度にこだわった。専用什器も透明感が損なわれないよう考慮し、クリームとは明らかに異なることをうまく印象づけることができた。
「最初は期待されていませんでしたが、予想以上に売れたので現在は社内の反応も変わりました」と笑いながら話す羽柴さん。ネット上のレビューなどを見ると「パソコンで仕事ができる」「スマホが使える」といった声が目立つ。このほか、夏場でも使えるものなのでいつでも使えるよう職場の机に置きっ放しにしている人が多く、平べったく自立するチューブ容器を評価する声も多いという。気が利いてかゆいところに手が届いている点を感じ取っている向きが多いが、そういう商品ほど放っておけないものなのである。
製品情報
https://www.narisup.com/shop/brand/serumyu.aspx
取材・文/大沢裕司