
ここ数年は抹茶ブームが続いている。テアニンやポリアミンといったお茶の成分に関する研究も進んでいるようだ。そのような近況について、前回に続き、丸利吉田銘茶園の吉田利一園主に取材した。

【話を伺った人】丸利吉田銘茶園の吉田利一園主
丸利吉田銘茶園16代目園主の吉田さんは弟で専務の勝治さんとともに同茶園の経営をし、宇治茶製法技術保存協会の会長として後進の指導にも注力。
16代目の園主もビックリの注目ぶり!
インバウンド人気も高まるお茶の現状を取材
玉川 お茶といえば、昔から贈り物に選ばれることも多かったと思います。最近ではいかがでしょうか。
吉田 正直、厳しいですね。以前は知り合いの会社がお中元やお歳暮の用途として、1万円くらいのセットを何十個も買ってくれていました。けれど、粗品を贈る日本の文化はなくなりつつありますから。年賀状もそうですけど「日本の文化はなくしたらアカン!」って思うんです。
玉川 日本の文化って、海外から評価されることのほうが、今は多いのでは?
吉田 私もそう思って今から3年前に、お茶の文化を海外に広めようと、フランス・パリへ行きました。
玉川 フランス人は日本の文化をよく理解してくれそうですよね。
吉田 その時の縁などをきっかけに、今ではフランス・パリにある『寿月堂』というお茶屋さんで、丸利吉田銘茶園の玉露を置いてもらっているんですよ。


玉川 海外の人からのお茶に対する評価はいかがでしょうか。
吉田 ブームになっていますね。ひとつは、てんちゃ。市場では1年前に比べて倍の値段で売れます。もうひとつは抹茶。スイーツに使われることが多く〝抹茶ブーム〟は3~4年くらい前から続いています。私たちの農園の近隣には、ほかにも有名なお茶の農園があって、外国人観光客の方々が抹茶を買おうと、朝8時半くらいから並ぶんです。一度にたくさん買われてしまうことを防ぐため、どこも販売規制をしていることから、外国人観光客の方々は、いろんな茶園を回って購入するわけです。ほら、そこにもお茶を買いに来ている人がいるでしょ?
玉川 ホントだ! 3~4年前といえば、コロナ禍が少し落ち着き、外国人観光客が再び増えてきたタイミングですね。てんちゃや抹茶とは違って〝揉む〟という工程があることから、旨味が豊富な玉露の引き合いはいかがですか。
吉田 徐々に需要は増えてきています。ただし、ほかに比べて高額なので、玉露を親しむ機会が少なく、誤った飲み方をしている人が多くて……。急須に入れる茶葉の量を、少なめにしてしまうんです。
玉川 もったいないと思うわけですね。
吉田 そうなんです。しかも、熱いお湯を急須に並々入れてしまって、せっかくの玉露が台なしになっちゃう。あくまでも茶葉は多めに入れて、お湯は冷まして少なめに。そうすれば、誰でも簡単に美味しい玉露が出来上がるんですけど。

〝よしず〟で作る玉露はなぜ美味しいのか?玉川徹が京都の茶園の16代目園主に直撃
京都を深掘りしている玉川さん。日頃から愛飲しているというのが、京都・宇治で生産されている玉露だ。濃い旨味のある玉露は、どのように作られているのか。丸利吉田銘茶園…
テアニンやポリアミンといった成分を活用する商品化も進行中
玉川 私は、お茶の中でもとりわけ玉露に多く含まれる「テアニン」という旨味成分に注目しています。心を落ち着かせる効果があるので「寝る前に飲む専用のお茶」のような商品を実現できたらいいなと考えているんです。お茶といえばカフェインが含まれていることから「眠らないために飲むもの」という認識の人も多いじゃないですか。なので、カフェインはできるだけ抑えつつテアニンをたっぷりと含ませたらいいのではないかと。
吉田 おもしろそうですね。そういったお茶の成分については、京都府の茶業研究所が研究を進めています。お茶にかかわる京都の企業などで構成される会議所が研究費を援助し、研究成果を発表してもらっているんです。そのひとつに挙げられるのが、急須がなくても簡単に玉露を飲めるようにする「玉露キューブ」。旨味がたっぷり含まれるテアニンを抽出して凍らし、飲む際には湯呑みにそのまま入れてお湯で溶かすだけでいいんです。すでに研究の段階は終わっていると聞いています。また、同研究所では、アンチエイジングに効果的なポリアミンという成分にも着目しています。テアニンと同様にお茶に含まれていて、活用できたら、美容に関心のある人たちに受け入れられるのではないかと。テアニンもポリアミンも商品化に向けて動いています。
玉川 そういった商品などを通じて、玉露への関心が高まるといいですね。
吉田 ここ最近だと、玉露を好む外国人の方も増えてきています。〝パリコレ〟に出ているという海外のファッションモデルの人が玉露の大ファンみたいで。Instagramのフォロワー数が10万人以上もいて、玉露を海外に広めたいと、つい最近ここまでやって来られました。私は常々「ペットボトルのお茶はのどを潤すもの。玉露は心を潤すもの」だと考えているんです。そんな玉露のことを、頑張って世界に広めてほしいなと。
玉川 とてもいい言葉だと思います。私も玉露の旨味をひとりでも多くの人に、知っていただきたいですね。
急須を使わずに飲める〝玉露キューブ〟の開発が京都にて進行中!


「玉露キューブ」は冷凍庫から少し出して、ほんのり溶けてきたら100度のお湯を注ぐと、玉露のお茶が味わえるというもの。1粒当たりの湯量は1mlで、4粒分(4ml)で1杯分とのこと。商品化を実現すべくパートナー企業を探しているそうだ。
今月の取材で深めた実は高額な玉露でも
コーヒー1杯より安いという事実

今回のまとめ
当初はヘルシー志向で飲まれはじめたお茶が、最近では玉露の旨味まで理解され、好まれるようになっている状況には驚きました。お茶をはじめとする日本の文化が外国人観光客に注目される流れは、もう変わらないと私は考えています。海外の人は日本の魅力を十分に理解し、今まで知らなかった観光スポットにまで赴こうとしていますから。インバウンドを前提に投資を進める企業も多く、今や日本の活路といえるでしょう。なお「就寝前に飲むお茶」の商品化につながればという思いもあり、京都府の茶業研究所にも追加で取材しましたが……道のりは厳しそうです。ただ、取材を重ねて知ることは多く、皆さんも恐れることなく、好きなことを探究してほしいですね。
インバウンド人気はお茶農園にとって好機!今後に注目したいです

玉川徹さん
テレビ朝日系、朝の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーターとしておなじみ。パーソナリティーを務めるレギュラー番組『ラジオのタマカワ』(TOKYO FM / 毎週木曜日11:30 ~13:00)が大好評オンエア中!
取材・文・編集/田尻健二郎 撮影/佐藤信次