
■連載/ヒット商品開発秘話
2025年も猛暑に見舞われた日本。不快な暑さを吹き飛ばす大風量家電が今シーズンも好調に売れている。
その大風量家電とは、ドン・キホーテで販売されている『ド風量』シリーズ。ドン・キホーテのプライベートブランド(PB)『情熱価格』で販売されている大風量に特化した家電を2024年5月にシリーズ化したものだ。サーキュレーターをはじめハンディファン、冷風扇などをラインアップ。2024年シーズン(4月1日~9月30日)は売上を4億円から4億5000万円の間で見込んでいたが、最終的にシリーズ累計6億円、11万9000台を売り上げた。
風の強いものは突出してよく売れる
『ド風量』シリーズは2023年シーズンに好評だった大風量が特徴の〈3DスイングACターボサーキュレーター〉〈羽なしDCジェットタワーファン〉〈ダブルブレードハンディファン〉をリニューアルし、新たに〈3DスイングDCターボサーキュレーター〉〈大風量DCリビング扇風機〉〈大風量冷風扇〉〈大風量冷却プレートハンディファン〉を投入して、2024年シーズンにシリーズ化した。
大風量が特徴の夏の季節家電を『ド風量』シリーズとしてシリーズ化することにしたのは、例年風の強いものの販売実績が突出していいことにあった。
ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスでPB季節家電の開発を担当する1MDデジタル&バラエティPB企画開発マーチャンダイザー ゼネラルチーフの今井潤氏は次のように話す。
「2022年、23年の夏の季節家電の中で風の強いものはサーキュレーターやハンディファンなど2、3アイテムしかなく、冷風扇などは他社との差別化ができていませんでした。風が強いことはわかりやすいことから、お客様に支持されると考えました」
あえて風量を大きくし、ドンキらしさを打ち出す
サーキュレーターやハンディファンの拡充だけではなく新たに扇風機や冷風扇をつくることにしたのは、風量に特化した扇風機や冷風扇が市場に存在しなかったらからであった。
「扇風機は市場が落ち込んでいることや使っていて風量が物足りないことから何とかできないかと思い、風量の強いものを開発してみることにしました」と今井氏。モーターの回転数や羽の形状を見直すなどの工夫を施した。一方、冷風扇は自然の柔らかい風に近いことからエアコンの風が苦手な人たちの支持が集められるものだが、あえて風量を大きくすることでドン・キホーテらしさを打ち出せると考えた。
『ド風量』シリーズにはアイテムごとに設定された目標風量があり、クリアした上で安全性と耐久性に問題ないことが確認されたものが上市される。2024年シーズンに発売されたもののうち開発で苦戦したのが、リニューアル発売された〈羽なしDCジェットタワーファン〉であった。リビングになじむ高いデザイン性と大風量を両立することにしたが、従来品とさほど変わらない風量にしかならず、納得いく風量になかなか届かなかった。
「搭載しているシロッコファンの回転数を上げても、思ったように風量が上がりませんでした」と振り返る今井氏。モーターの出力を上げて風量アップを試みるも、今度は耐久性が不安視されるなど、なかなか思った通り開発が進まなかった。
風量アップの糸口は風の吹き出し口にあった。大きすぎると風が拡散してしまい、小さすぎると風が届く範囲が狭くなることから、検証しながら吹き出し口の最適な大きさを探っていき、納得いく風量を実現した。納得できるものができたのは、納期ギリギリの2月終盤。例年、夏の終わりから翌シーズンの計画を立て始めることから、計画立案から半年近くかかったことになる。
サーキュレーターの限界を越えるジェットサイクロンファン
2025年シーズンは〈大風量冷風扇〉をリニューアルし残りは継続販売としたほか、新たに〈ジェットサイクロンファン〉〈大風量卓上サーキュレーター〉〈大風量3DスイングDCターボリビングサーキュレーター〉〈360°首振り大風量DCサーキュレーター〉を追加した。継続販売の〈大風量DCリビング扇風機〉と〈大風量冷却プレートハンディファン〉の2つは、店舗によっては取り扱うところもある形としている。
〈大風量冷風扇〉のリニューアルは、「ダサい」「大きい」といったデザインやサイズに関する不満の声を受けて実施することにした。リニューアル後は、幅をそれまでの60cmから26cmと大幅にスリム化。モーターをそれまでのACモーターから節電効果の高いDCモーターに変更し、風量調整をより細かくできるようにした。幅が狭くなると吹き出し口も狭くなるので風量の観点から見るとマイナスでしかないが、モーターの出力と吹き出し口のサイズのバランスを見直して風量は維持した。カラーもそれまでの白/黒から黒へと変更しイメージを刷新した。
新商品のうち〈ジェットサイクロンファン〉は、羽をモーターで回転させる従来のサーキュレーターではこれ以上の風量アップが望めないことから開発した。既存のサーキュレーターと同程度のサイズながら風量を上げるためにシロッコファンを採用。「サイズがちょうどいいシロッコファンが調達できるかどうか、風量が大きくなるかどうかが不安でした」と今井氏は振り返るが、最初の試作品で狙った風量が得られたという。ドン・キホーテ公式TikTokにアップした商品紹介動画では「室内干しに最高」というコメントが複数書き込まれており、冷房以外の面でも好評を博している。
〈大風量卓上サーキュレーター〉は、今井氏が欲しかったものを形にした。「会社の中が熱い上に、私の席はエアコンの風が当たらないものですから卓上扇風機を使っているのですが、風量が足りません。卓上扇風機で風が強いことを謳ったものがほぼ皆無でした」と明かす今井氏。卓上サイズでありながら6畳程度までの部屋の空気循環ができる風量が実現できたら汎用性が高くなると判断し、ベッドサイドにできるちょっとしたスペースに置けるサイズ感を目指して開発した。
2025年シーズンは現在のところ、2024年シーズンと比較すると売れ行きが好調だ。4月1日から7月9日までの売れ行きを比較すると、2024年は売上がシリーズ累計約3億円で販売点数が6万5000台なのに対し、2025年は売上がシリーズ累計3億5000万円で、販売点数は7万1000台となっている。
TikTokにアップ後2日間で100万再生達成
売場が狭いところ以外では、「風が強い『ド風量』シリーズ」と銘打った統一の販促POPや、「フラッグ」と呼んでいる天井から吊るす旗状の掲示物を使って売場をつくり、そこに商品を集めることにした。また、補助POPもつけ、風量や風量が強い理由、前年モデルからどれだけ風量がアップしたか、といったことも説明するようにしている。
SNSもドン・キホーテ公式Instagramや公式TikTokなどをメインに活用。TikTokで取り上げると、反応が他の商品よりもいいという。中にはアップから2日間で100万再生を超えた動画もあるほど。店舗によってはTikTokにアップした『ド風量』シリーズの動画をつなげて店頭で流し、『ド風量』シリーズ全体を紹介しているところもある。
2024年シーズンで一番売れたのは、売上、台数ともに〈3DスイングACターボサーキュレーター〉の黒。2025年シーズンも現時点では販売台数は同じだが、〈3DスイングDCターボサーキュレーター〉の黒の売れ行きが伸びており、売上では〈3DスイングACターボサーキュレーター〉の黒を抜いてトップになっている。売上の2位は〈大風量冷風扇〉であり、〈3DスイングACターボサーキュレーター〉は3位となっている。冷風扇は2024年より多く用意したものの、すでに在庫が店頭流通分のみとなっている。
〈3DスイングDCターボサーキュレーター〉の黒の売れ行きが伸びている理由を、今井氏はこのように分析する。
「パッケージでも謳っていますが、以前から言われてきたDCモーターの節電効果が浸透してきたことが大きいと思われます。本体価格はACモーターを使ったものよりやや高いですが、サーキュレーターは年中使いますので、浮いた電気代で高くなった分がペイできてしまいます」
取材からわかった『ド風量』シリーズのヒット要因3
1.わかりやすいコンセプトとシリーズ名
風量の強さに特化したサーキュレーターやハンディファンなど夏の季節家電各種で構成。店員から細かい説明を聞くまでもなく、『ド風量』というシリーズ名から商品の特徴がつかめるほど、わかりやすさに徹した点が好評を博した。
2.高いコストパフォーマンス
ディスカウントストアのPB商品なので、生活者はNB商品よりも安価であることを期待する。同スペックの他社品と比べたら絶対安いことが確実に求められるが、期待される低価格を実現しコストパフォーマンスの高さを示すことができた。
3.ドンキらしい個性的なラインアップ
自然に近い柔らかい風が特徴の冷風扇で風を強くしてみたり、サーキュレーターと同程度のサイズ感ながらシロッコファンを使ったことによりさらに強力な風量を実現したりと、他社ではなかなかお目にかかれない個性的な商品を揃えた。ドンキらしさ全開といってもよく、生活者の期待通りだった。
今井氏は通勤の2時間で、電車内で『ド風量』シリーズのハンディファンを使っている人を見かけることがあるという。「買って使ってくれている人がいるのを見ると、朝からめちゃくちゃ嬉しくなります」と話す。
この夏、圧倒的な風量で暑さから助けられた人も多いはず。2026年シーズンも規格外のド風量で猛暑を吹き飛ばしてもらいたい。
取材・文/大沢裕司