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こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
今回は、フリーランスの美容ライターが取引先の社長からセクハラを受けたとして裁判になった事案を取り上げます。
発端は、あるエステ会社からの依頼でした。
「実際に施術を体験して、その感想を記事にしてもらえますか?」
この依頼を受け、美容ライターのXさんは施術を受けることに。
ところが、施術を担当したのは男性社長本人。
施術中、Xさんは社長から数々のセクハラ行為を受けたのです。
セクハラ内容と、裁判所が命じた慰謝料額は!?
(アムールほか事件:東京地裁 R4.5.25)
以下、わかりやすく解説します。
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
登場人物
▼ 会社
・エステティックサロンを運営
▼ Y社長
・セクハラした人
・40歳前後
▼ Xさん
・女性(当時24歳くらい)
・美容ライターなどをしていた
・会社と業務委託契約を結んで仕事
会社から仕事のオファーが
Xさんは、美容ライターとしては駆け出しの時期でした。毎月の固定収入がない状況だったんです。そんなとき、この会社から記事執筆のオファーがきました。
仕事の内容は、実際にエステ(施術)を受けて会社HPに感想を執筆するというものです。
実際に施術をしたのは……セクハラY社長です。
どんなセクハラ・パワハラが?
裁判所が認定したハラスメントは以下のとおり。
▼ ハラスメント1
社長がXさんに対して、これまでの性体験や自慰行為について質問しました。
―― 社長、不服そうですが。
社長
「性体験や自慰行為について話を始めたのはXさんのほうです」
―― 裁判所、いかがですか?
裁判所
「Xさんから話し始めた?……考え難いですね。なぜなら、社長から体験記事を執筆するよう依頼され、記事の内容などについて打合せを行うために店舖を訪れた20代の女性であるXさんが、初対面の年長の男性に対し、自ら進んで性体験や自慰行為等について話を始めることはおよそ考え難いからです。しかも、社長は、Xさんが自らの性体験や自慰行為等について話を始めるに至った経緯を具体的に供述できていないからです。Xさんの言い分のほうが自然ですね」
▼ ハラスメント2
社長がXさんに対して、「無理やりにでも裸になった方が施術の時にくすぐったく感じなくなる」など言ってて、バストを見せるよう求めた。
▼ ハラスメント3
個室のベッドで仰向けで寝ていたXさんに対し、施術用の紙パンツを脱ぐよう指示し、Xさんの陰部を触る。股関節のストレッチと称してXさんの股を開いて両足を押さえ、再度Xさんの陰部を触る。Xさんがこれを嫌がると、社長はXさんに対し、自分で陰部を触るよう要求して従わせ、再度Xさんの陰部を触った上、社長の性器を触るよう要求。
▼ハラスメント4
「性交渉をさせてくれたら食事に連れて行く」と言う。また、キスをするよう迫り、Xさんの腰を触り、Xさんの臀部(でんぶ)に自分の股間を押し付け「このようにすると骨盤底筋が鍛えられる」と言う。
▼ ハラスメント5
記事の質問のレベルが低いことなどを理由として「契約を打ち切る」と告げ、「Xさんが専属として仕事をしていなかったことにガッカリしている」などのメッセージを送る。
▼ ハラスメント6
「書く記事すべてが上位に表示されなければ意味がない」などとメッセージを送る。
▼ ハラスメント7
仕事の質が低いことや兼業をしていることなどについて不満を述べる。
▼ ハラスメント8
Xさんを抱擁してキスを迫り、Xさんの臀部(でんぶ)に自分の股間を押し付ける。
▼ ハラスメント9

Xさんと別の女性Aに対し「上半身の服を脱ぐよう」指示した。女性が服を脱いだので、Xさんも続いて服を脱いだ。すると社長は2人に対し「互いの胸を触るよう」指示した。
―― 社長、ふたたび不服そうですが……。
社長
「Xさんと女性は【自発的に】服を脱いで互いに相手の胸を触りました」
―― 裁判所さん、いかがですか?
裁判所
「自発的に脱ぐことは考えづらいですね。Xさんがエステの施術講習において施術モデルを務めていたという状況を考慮しても、女性であるXさんと女性Aが、男性である社長の面前において自発的に上半身の着衣を脱いだり、互いに相手の胸を触ったりすることはおよそ考えづらいです。社長の供述や女性Aの陳述書は不自然と言わざるを得ないです。Xさんの供述の方が自然です」
▼ ハラスメント10
Xさんは社長に対して「私が行った作業を検証ないし評価する方法について話し合いたい」と伝えました。すると社長は、以下のメッセージを送りました。
・そういうことも教えないと分からないのであれば報酬を要求しないでほしい
・Xさんとは契約も交わしていないし、 今の状況ではスキルが低すぎるので契約は交わせない
・私の教えの下に育ててほしいのであれば報酬は要求しないでほしい