
「どうしてこの会社はダメなんだ」「あの上司の指示は意味がわからない」。職場で成果が出ないとき、つい上司や会社など、自分以外の環境に原因を求めてしまうことはありませんか。しかし、その思考こそが、あなた自身の成長を止め、変化の機会を奪う最大の壁かもしれません。本記事では、人を責める「他責思考」から抜け出し、自らの行動で未来を切り拓くための考え方を、組織コンサルティングの手法である「識学」の観点から解説します。
なぜ「上司が悪い」と考えると、何も変わらないのか
「あの人は何も分かっていない」「会社の制度が古いのが問題だ」。このように、自分以外の誰かや環境を”悪い”と結論づける思考を「他責思考」と呼びます。
なぜ多くの人がこの罠にはまってしまうのでしょうか。それは、精神的に楽だからです。
「自分は正しい、悪いのは相手だ」と考えることで、一時的に自尊心は守られます。うまくいかない現状を自分の能力不足ではなく、外部要因のせいにできれば、現状を直視する苦痛から逃れられます。
しかし、この「他責思考」には大きな代償が伴います。それは、自分自身が「受け身」の存在になってしまうことです。
「上司が変わってくれれば」「会社がもっと良い制度を作ってくれれば」。そう願っている間、あなたは「誰かが何かをしてくれるのを待つ」だけの存在になります。自分の人生の操縦桿を他人に明け渡し、助手席で不満を言っているのと同じ状態です。当然、他人はあなたの思い通りには動いてくれません。結果、不満は募り、状況は何も変わらず、時間だけが過ぎていくのです。
「正しさ」という幻想
組織における「正しさ」は存在しない、と考えます。あなたが「正しい」と思うことと、上司が「正しい」と思うことは、往々にして異なります。そもそも、会社という組織において、部下が上司のやり方を「正しいか、間違っているか」で評価すること自体が「位置ズレ」、つまり役割誤認であると捉えます。
会社の構造はシンプルです。社長が会社の目標(結果)を決定し、その目標達成のために、各階層の上司が部下に対して具体的な目標と、それを達成するための「ルール」を設定します。部下の役割は、そのルールの中で最大限のパフォーマンスを発揮し、与えられた目標(結果)を達成することです。
例えば、サッカーの試合で、監督が「守備を固めろ」と指示したとします。一人の選手が「いや、今こそ攻めるべきだ」と自分の判断で持ち場を離れて攻め込んだらどうなるでしょうか。たとえその選手が「自分は正しい」と信じていても、チーム全体の戦術は崩壊し、勝利という結果から遠ざかってしまいます。
仕事もこれと同じです。上司の指示や会社の⽅針に対して「もっと良いやり方があるのに」「これは間違っている」と感じたとしても、その正しさを証明しようとすることに意味はありません。組織があなたに求めているのは、あなたの「正しさ」の表明ではなく、与えられた役割とルールの中で「結果」を出すことなのです。
すべての鍵は「結果に責任を持つ」こと
では、他責思考から抜け出し、主体的に動くためにはどうすればよいのでしょうか。その答えが、「結果責任」を持つことです。
これは、「すべての失敗の責任を負え」という精神論ではありません。「発生した結果のすべては、自分の行動の結果である」と捉え、その結果を改善するために「自分がコントロールできることは何か?」を考え、行動する姿勢を指します。
■上司が承認してくれない
他責思考:「あの人は頭が固いからダメだ」→ 思考停止
結果責任:「承認という結果を得られなかったのは、自分の提案内容、説明の仕方、タイミングに改善の余地があるからだ。次はどうすれば承認されるか?」→ 行動の改善
■会社が評価してくれない
他責思考:「この会社は見る目がない」→ 思考停止
結果責任:「評価されるという結果を得られなかったのは、自分の成果が会社の評価基準に達していないか、アピールが不足しているからだ。評価基準を再確認し、それを満たすための行動は何か?」→ 行動の改善
重要なのは、フォーカスを「他人(変えられないもの)」から「自分(変えられるもの)」へと移すことです。
あなたは上司の性格や思考を変えることはできません。会社の歴史や制度を明日から変えることもできません。しかし、自分の行動、思考、努力の量は、今この瞬間から変えることができます。
まとめ:操縦桿を自分の手に取り戻す
「上司が悪い」「会社が悪い」と考えているうちは、あなたは変化を待つだけの無力な存在です。その思考は、あなたを成長から遠ざけ、現状に縛り付ける鎖となります。
しかし、発生した結果に対して「自分にできることは何か?」と問い始めた瞬間、あなたは自分の人生の主人公へと変わります。目の前の現実は、変えられな”壁ではなく、攻略すべき課題へと姿を変えるでしょう。
他責という甘い罠から抜け出し、結果に責任を持つ。それが、環境に左右されず、自らの足で着実に成長していくための唯一の方法なのです。その一歩を踏み出したとき、これまでとは全く違う景色が見えてくるはずです。
文/識学コンサルタント 清水健悟