
先を示す明確な地図を持たされないままに初めて通る山道を歩いていかなければならないような時、今歩いている道が果たして合っているのか疑心暗鬼になり徐々に集中力や思考力は低下、先々への不安や漠然とした憂鬱感も重なる事で、やる気を失ってしまう可能性があります。
従業員の方々が離職してしまう要因でもある「上司が何を評価しているのか分からない」「頑張っているのに認められない」も同じ事ではないでしょうか。「成果の定義」や「判断基準」が言語化されていない組織では成長意欲の高い方ほど、このような組織構造を嫌気し自らその組織を離脱する意思決定をされるでしょうし、入社時に成長意欲の高かった方でも人によってはこのような組織に存在するうちに仕事に対する意欲や目的意識を失い、機械的に業務をこなすだけの状態の「社内ゾンビ」をうみ出してしまうかもしれません。
この問題を解決するためには、評価の基準を明確にし、従業員が何をすれば評価されるのかを具体的に理解できる状態を作ることが不可欠です。
ルールの明確化
組織内のルールが明確であることが、パフォーマンス向上と従業員のモチベーション維持に最も重要です。ここでのルールとは、単なる就業規則ではなく、「何をすれば評価されるのか」「何をすれば給与が上がるのか」「何をすれば昇進できるのか」といった、個人の行動と評価が紐づく具体的な基準を指します。
「何を見られているか分からない」という状態は、このルールが不明確であることに起因します。従業員は、目標設定の段階で何を達成すべきか、日々の業務でどのような行動が評価に繋がるのかが曖昧なため、手探りで仕事を進めることになります。結果として、期待されるパフォーマンスを発揮できなかったり、評価に不満を抱いたりする可能性が高まります。
まず手掛ける事は評価基準の「数値化」と「言語化」になります。
評価基準の徹底的な数値化
評価されるべき項目を、可能な限り数値で測定できる形で定義します。例えば、以下のような項目が考えられます。
•売上目標: 「前年比〇〇%増」「新規顧客〇〇件獲得」
•コスト削減: 「部署経費を〇〇%削減」
•生産性向上: 「業務プロセスを改善し、〇〇時間の短縮」
•顧客満足度: 「アンケートで〇〇点以上獲得」「クレーム件数を〇〇%削減」
数値化が難しい「協調性」や「リーダーシップ」のような項目も、具体的な行動に落とし込み、その行動の結果を測定できるよう工夫します。例えば、「チーム内の情報共有会議に〇〇回参加し、〇〇件の提案を行った」「後輩指導を通じて、〇〇のスキル向上に貢献した」といった形です。
評価基準の徹底的な言語化と周知
数値化された評価基準を、誰もが理解できる言葉で明確に言語化し、組織全体に周知徹底します。
•評価シートの整備: 評価項目、評価方法、ウェイト(重み付け)などを記載した明確な評価シートを作成します。
•個別面談での説明: 評価者(上司)は、評価期間の開始時に、被評価者(部下)に対して個別に評価基準を詳細に説明し、疑問点があればその場で解消します。
•進捗の定期的な確認: 評価期間中も、定期的に進捗状況を確認し、目標達成に向けたフィードバックを行います。これにより、方向性のズレを防ぎ、必要に応じて軌道修正を行います。
効果
評価基準が明確になることで、従業員の方々は「何をすれば評価されるか」を正確に理解し、その目標に向かって自身の行動を最適化できるようになります。
•集中力の向上: 余計な「忖度」や「察し」が不要になり、自身の業務と目標達成に集中できます。
•パフォーマンスの向上: 評価基準に沿った具体的な行動を意識するため、結果として組織全体のパフォーマンスが向上します。
•モチベーションの維持: 自身の努力がどのように評価に繋がるかが明確なため、達成感を感じやすく、モチベーションを高く維持できます。
•公平性の確保: 主観や感情に左右されず、客観的な基準で評価が行われるため、評価に対する不満が減少します。
まとめ
「評価されたいのに何を見られているかわからない」という状況は、離職を誘発するだけでなく、組織の成長を阻害する大きな要因になります。今回お示ししました内容に基づき評価基準を明確にすることで、従業員の方々が迷いなくパフォーマンスを発揮できる環境を構築していく事ができます。
そして何よりも、従業員の方々一人一人が、自身が評価される位置にいる事を明確に認識出来る様になり、評価を自身で獲得しにいく活動が浸透されていく事で、組織全体の目標達成に繋げることが可能になるのです。
文/識学コンサルタント 大橋克仁