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「バグバウンティ」って何?賞金首ゲームでデジタルの安全を守る仕組み

2025.08.17

「西部劇の賞金首」を想像してください。荒野に 指名手配の張り紙が掲げられ、見つけた人には報酬が出ます。バグバウンティは、そのIT版です。

企業が自社サービスの “指名手配犯=脆弱性(バグ)” を公表し、見つけて正しく報告してくれた人に「見つけてくれてありがとうボーナス(報奨金)」を支払う仕組みです。これは、善意のハッカー(セキュリティ研究者)と企業がチームを組み、攻撃者より先に弱点を潰していくことが目的です。

いまやEコマース、フィンテック、SaaS、ゲーム、公共サービスまで対象は広がり、“開かれたセキュリティ”は競争力の一部になりつつあります。社内テストだけでは見つからない「外の視点」を取り込み、プロダクトの完成度を押し上げる実務的な方法論、それがバグバウンティなのです。

なぜ企業はお金を払うのか?「ありがとうボーナス」の合理性

企業がバグバウンティに報酬を支払うのは、理にかなっています。

最大の理由は「保険として圧倒的に安い」からです。情報漏えい対応や法的措置、謝罪・補償、ブランド毀損の回復といった被害後コストは、見えにくい間接費まで含めると長期化する可能性が高いのです。

つまり、脆弱性を “発見時点” で潰すほうが損失期待値を着実に下げられ、報奨金は「発見と学び」への投資になります。さらに、世界中の研究者が多様なOS・ブラウザ・ネットワーク・ユーザー行動で検証するため、想定外の利用パターンやサービス横断の組み合わせで生じる不具合まで早期に発見できます。

プログラムを設ければ「報告→再現→修正→再テスト」が定常運転となり、受付経路の一本化や深刻度の共通基準によって初動が速くなるのも利点です。「開かれたセキュリティ」を掲げ、謝辞ページ(Hall of Fame)で外部貢献を可視化すれば、透明性が信頼を生みます。実戦的な指摘はナレッジとして蓄積され、設計・コードレビューにセキュリティの視点が自然に入り込み、“バグが生まれにくい開発文化”の土壌も育ちます。

実務では、まずスコープを明確にします。どのドメイン・アプリ・APIを対象に、どの環境でテストでき、何が対象外か(社内ネットワークやパートナー環境など)を示し、テスト用アカウントやサンプルデータを用意して誤操作リスクを下げます。検証はサービスに実害を与えないことが大前提で、DoS(サービス拒否)やデータ消去は禁止、レート制限の尊重や業務時間帯への配慮、ログ監視チームへの事前共有も取り決めます。報告は再現に必要な最小限の証拠にとどめ、個人情報や実データには触れずテストデータで確認します。開示ポリシーとしては、企業が修正を完了するまで一定期間は非公開にし、修正後に詳細を公開して学びを共有します。ここで善意の研究者を守るSafe Harborの考え方を明示しておくと、双方が安心して取り組めます。報奨金は深刻度(例:ユーザー乗っ取り、データ改ざん)と再現性を軸に支払い、相対評価の基準表を用意してブレを防ぎます。無断で不特定のサイトを攻撃したり、ユーザーデータを覗いたり持ち出したり、サービス停止を引き起こしたり、ソーシャルエンジニアリングや物理侵入を行ったりすることは当然厳禁です。まずはルールを熟読し、その範囲内で安全かつ再現性の高い検証を行う。

それが “賞金首ゲーム” を企業・研究者・ユーザーの三者にとって建設的な仕組みにするコツです。

どんなバグに賞金が出る?

重大な欠陥としてまず挙がるのが認証・認可まわりの破りです。

IDOR(アイドア/Insecure Direct Object Reference=「URLやIDをいじるだけで他人のデータに触れてしまう参照制御の不備」)は、アクセス制御不備(Broken Access Control)の代表例で、とくに危険です。たとえば「注文IDの数字を変えると他人の履歴が見える」なら典型的なIDORです。入力処理の不備も深刻で、XSS(クロスサイトスクリプティング=ユーザー入力がそのまま画面に混ざってブラウザ上でスクリプトが実行される)やSQLインジェクション(入力がそのままSQL文になってデータベースが命令を実行してしまう)は、少しの甘さからアカウント乗っ取り・データ漏えいに直結します。

セッションやトークンの管理が甘いと、セッションID(“ログイン中”を示す合言葉)が推測・奪取され、なりすましの入口になります。基本は「推測困難でランダム」「URLに載せない」「ログイン時に再発行(セッション固定化対策)」「ログアウトや一定時間で無効化」です。設定ミスも“見えない穴”を外に露出させる典型で、クラウド権限の緩さ、CORS(クロスオリジン許可)をワイルドカードで許可してしまう、HSTSやContent-Security-Policy、X-Frame-Optionsなどセキュリティヘッダー未設定といった問題は発生率が高く、悪用されがちです。さらに、リモートコード実行(RCE)やOSコマンドインジェクションのようにサーバー乗っ取りへ直結する欠陥は、最小限の検証に留めて即連絡が鉄則です。

見落とされがちな “中堅どころ” としては、パスワードリセットのワークフロー(メールアドレスの有無を漏らさない、短寿命のワンタイムトークン、リセットURLがHostヘッダーに依存しない等)、OAuth(古いフローや緩いリダイレクトURIを避け、最新のSecurity Best Current Practiceに従う)、Webhook(署名ヘッダーで必ず検証し、未検証のPOSTを信用しない)、GraphQL(本番で過剰なエラー情報やスタックトレースを出さない、過大なデータ露出を防ぐ)、サプライチェーン(脆弱・古い依存コンポーネントや署名未検証の更新を放置しない)などが挙げられます。

総じて深刻度は「どれだけ簡単に再現できるか(攻撃難易度・到達性)」と「影響がどれほど大きいか(機密性・完全性・可用性)」で評価され、国際的にはCVSSの考え方が広く用いられます。一般に報奨金はこの重さに比例します。

有名な賞金ハンターの実例

たとえば、マイクロソフトは2013年に研究者James Forshaw氏へ「Mitigation Bypass Bounty」の初代受賞者として10万ドルを授与しました。Windowsの防御を迂回する新たな手法の提示に対する評価です。

航空会社ユナイテッド航空は2015年、研究者Jordan Wiens氏に100万マイル(現金換算で約2万5千ドル相当)を進呈しました。報告内容はリモートコード実行(RCE)に関わる重大欠陥で、同社のバグバウンティ黎明期を象徴する出来事として知られています。

コンテスト枠ですが、「Pwn2Own Vancouver 2023」では、フランスのSynacktivチームがTesla Model 3の脆弱性連鎖を実演し、$350,000+Tesla Model 3を獲得という報道があり、かつ大会通算では$530,000+Tesla Model 3を得ています((主催はTrend MicroのZDI)。

これは実車の安全対策をベンダーが即時学習する “実戦の場” という意味でも象徴的です。

さらに遡ると、Google主催の「Pwnium 2012」でSergey Glazunov氏がChromeのサンドボックスを単独で突破し、6万ドルの報奨を得ています。ブラウザの防御設計を一段押し上げた象徴的な一件です。

なおApple Security Bountyは、条件次第で最大100万ドル(ベータやロックダウンモード関連の追加ボーナス適用時は150万~200万ドル上限)という高額レンジを公式に示しており、モバイル領域の難易度と重要性を物語ります。

まとめ: 賞金首ゲームは、私たちの毎日を守る共同戦線

バグバウンティは、攻撃者と同じスピード感で弱点を探し、修正するための “オープンで実利的な仕組み” です。企業は「ありがとうボーナス」で外の知恵を呼び込み、ユーザーは安全性という形で恩恵を受けます。

見つける側と作る側が連携することで、あなたの毎日の買い物や送金、仕事のデータが静かに守られます。

今回はバグバウンティについて解説させていただきました。

文/suzuki

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