「美味しい」は味覚だけでなくストーリーからも感じるもの
収穫体験が行われるのは、7月下旬から9月中旬のわずかな期間。実際に収穫された生のとうもろこしを食べると、その貴重な時期にしか味わえない甘さに驚かされる。青臭さがなく、シャクシャクした食感で和梨のような甘さを感じさせる。
甘さの秘密は、八ヶ岳の大きな寒暖差にあるという。昼夜の温度差が糖度を高め、さらに晴天率の高さと日照時間の長さが活発な光合成を促し、とうもろこしを一層甘くさせるのだ。
「美味しさって、味覚だけでなく、ストーリーからも感じるものだと思うんです。“どうして甘くなるのか?”“なぜ生で食べられるのか?”そんな話を聞きながら食べることで、感じ方も変わってくる」と折井さん。
折井さんが提供する体験は、味だけでなく、その背景にあるストーリーやエピソードを通じて参加者に深い印象を与え、それが再度訪れたくなる理由なのだろう。折井さんは、体験を通じて「友達にも食べさせたい」と思ってもらえることが一番嬉しいと言う。
夏にぴったりな爽やかなドリンクも(左から赤しそソーダ、ルバーブソーダ、クラフトコーラ)。生とうもろこしをかじりながら、ぐいぐい飲めてしまう
農業って「自由」で「面白い」!
折井さんが考える農業は、「自由」で「面白い」ものだと言う。
「農業って、もっと自由でいいと思うんです。服装も、時間の使い方も、売り方も自由に選べる。実は、クリエイティブな仕事なんですよ」と、農業が持つ「堅苦しい」イメージを払拭したいと語る。
さらに、折井さんは「美味しいものを作る」ことは当然のこととして、それだけでなく「面白くしていく」ことが重要だと語る。
「自分たちもこんなことができるんだ、と思って人が集まってくればいいんです」と笑顔で話し、続けてこう言う。
「都市伝説ライブでも怪談でも、畑でやっちゃえばそれも農業(笑)。“こんなことやってる農家がいるんだ”って思ってもらえるだけで、農業の見方が変わるんです。」
例えば、折井さんは農地の一角に「ハマラハウス」というビニールハウス型の直売&体験スペースを作り、農業の新しい提案をしている。
「普通の建物だと農業っぽくなくなるので、あえて農業用のビニールハウスを使って、“外観は農業、でも中はカフェっぽい”みたいなギャップを楽しんでもらいたくて。将来的にはここで『畑で映画』とか『畑で古着市』とか、やってみたいことが山ほどあるんですよ。変わったことをやる農家がいたっていいでしょ?(笑)」
多くの人々が訪れる「ハマラノーエン」。 折井さんの農業に対する独自のアプローチと新たな挑戦が、人を引き寄せ、その数を増やし続けている。
8月31日までは、八ヶ岳生とうもろこしの畑で収穫体験に加え、謎解きゲームや縁日ブースなど農園をまるごと楽しめる「ハマラノーエン祭2025」も開催される。この機会に、ぜひ立ち寄ってみてはいかがだろうか。
取材・文/三島はなえ