
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法には、カスタマーハラスメント(カスハラ)に関する対策の強化が盛り込まれました。
近年では、店員に対して暴言を浴びせるなど、客による不適切な行為が社会問題化しています。こうしたカスハラ行為から従業員を守るため、店舗などの事業主は改正労働施策総合推進法に沿った対策を推進することが求められます。
本記事では、改正労働施策総合推進法によるカスハラ対策強化のポイントを解説します。
1.カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
「カスタマーハラスメント」とは、客が店舗や施設などに対して理不尽な要求をしたり、不適切な言動をしたりすることを意味します。「カスハラ」と略称されることもあります。
たとえば、以下のような行為がカスハラに当たります。
・従業員を怒鳴りつける
・従業員に土下座を強要する
・従業員を自宅に呼びつけて、長時間にわたり拘束する
・退去を求められているのに、店舗に居座り続ける
・従業員のミスを必要以上に責め、商品を無料で提供するようしつこく求める
など
2.改正労働施策推進法によるカスハラ対策の強化
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法には、カスハラ対策の強化に関するさまざまな変更が盛り込まれました。改正法は、公布日から1年6か月以内に施行される予定です。
改正法によるカスハラ対策強化の主な内容を紹介します。
2-1. カスハラ防止措置の義務付け
事業主は、カスハラによって雇用している労働者(従業員)の就業環境が害されないように、雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされました。
たとえば、カスハラに関する相談を受け付ける体制の整備や、カスハラのリスクをできる限り抑止するための措置などを講じることが求められます。
事業主が講ずべき措置の内容については、改正法の施行日までに厚生労働大臣が指針を公表する予定です。
2-2. カスハラの相談等を理由とする不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者がカスハラに関する相談をしたことなどを理由として、その労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをしてはならないものとされました。
労働者が萎縮することなく、カスハラに関する相談や調査協力を積極的に行えるようにするためです。
上記の規定に違反して行われた解雇などは、無効となります。
2-3. カスハラ対策強化に関するその他の変更点
上記のほか、カスハラ対策強化に関して以下の変更が行われます。
(a)国は、ハラスメント防止について必要な啓発活動を積極的に行わなければならないものとされました(公布日より施行済)。
(b)国・事業主・労働者・顧客等に対して、カスハラ防止に関する以下の努力義務が課されました。
・国は、カスハラ防止に関する広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるよう努めなければなりません。
・事業主は、カスハラに関する関心と理解を深め、自らの言動について必要な注意を払うようにするために、労働者に対する研修の実施などの必要な配慮をするよう努めなければなりません。
・労働者は、カスハラに関する関心と理解を深め、自らの言動について必要な注意を払うよう努めなければなりません。
・顧客等は、カスハラに関する関心と理解を深め、労働者(店員など)に対してカスハラに当たる言動をしないように努めなければなりません。
3.カスハラをするとどうなる?
店舗や施設の利用、または購入した商品やサービスに関して理不尽なクレームを入れると、損害賠償請求や、業務妨害罪での刑事告訴を受けるなど、法律上の責任を問われるおそれがあります。
労働施策推進法の改正により、カスハラ対策強化の流れはますます強まりました。事業主側の対応はいっそう厳格になることが予想されるので、カスハラに当たる言動をしないように十分ご注意ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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