
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
1995年に「夏に食べられるチョコレート」として誕生した森永製菓の「板チョコアイス」。今年30周年を迎えた同商品は、パキッとした食感の分厚いチョコと、すっきりとした味わいのバニラアイスの組合せで、チョコ感を思いっきり味わうことができる板チョコ型のアイス。
30年の間には販売休止に追い込まれる時期があるなど、さまざまな障壁があったものの、2024年にはブランドとして過去最高売上を達成した。
「板チョコアイス」の30年間の軌跡、おいしさの秘密などを、森永製菓株式会社 冷菓マーケティング部 谷山実希氏に聞いた。
板チョコらしさを追求した「板チョコアイス」のおいしさの秘密
「板チョコアイス」は数種類のチョコをブレンドすることで、最初にくるパキッとしたチョコの食感と、口に入れた瞬間のすっとしたなめらかな口どけを両立していることが大きな特徴。
「森永製菓が販売している商品では、菓子用とアイス用でチョコレートの溶ける温度や溶け方が異なります。通常の菓子用のチョコレートをそのまま冷凍すると口の中で溶けづらいのですが、『板チョコアイス』は、冷凍下でも口の中ですっと溶けるように融点が低いアイス用のチョコを使用し、そのチョコも含めて森永製菓独自の配合を行っています。(※下記画像の左が菓子用、右がアイス用)
パキッと食感となめらかな口どけという、相反する食感を実現している商品であり、チョコだけではなく、チョコとバニラアイスが口の中で混ざり合って溶けていくというところも『板チョコアイス』が支持されているポイントだと考えています」(以下「」内、谷山氏)
板チョコらしさを追求した「板チョコアイス」は、チョコレートが製品全体の約45%を占めていて、これはアイスとしては異例の比率となっている。
パキッと食感となめらかなくちどけの両立を実現させ、ミルク感とビター感のバランスを調整。そのうちのひとつにカカオの風味豊かなベルギー産チョコレート(製品中5%使用)を使用しており、本格的なチョコの味わいを楽しむことができる。
バニラアイスもチョコを引きたてるほどよい甘さや、アイスの中の氷の大きさをコントロールすることで実現したなめらかな食感と、チョコとのバランスを考えて開発されている。
また、夏限定では、バニラアイスの甘みだけではなく、チョコや油脂の配合を変更することで、シャープな口どけを実現し、甘さの後切れを良くしているという。
夏でもチョコが思いっきり楽しめるチョコが主役の「板チョコアイス」30年の歴史
1995年当時の森永製菓の冷菓事業では、乳業メーカーへの対抗として菓子メーカーならではの新しいアイスを作ろうと、「ジャンジャン新ジャンル」というスローガンを掲げ、開発を進めていた。
「板チョコアイス」もそのタイミングで生まれ、他にも、ミントの氷とチョコを組み合わせた「クールスティック」や、クラッシュ氷がチューブ容器に入った「アイスガイ」(共に現在は終売)と、携帯を意識した個性的なアイスが誕生していた。(※下記画像は1995年発売時のパッケージ)
「今は1年を通じてチョコレートを食べることができますが、当時は冷房環境も整っていなくて夏場になるとチョコレートの売場が大幅に縮小されていました。そこで、夏にも食べられるチョコレートとして『板チョコアイス』が開発されました。
当時の開発者がイタリアに旅行に行った際に、板チョコでアイスをサンドしているお菓子を食べたそうで、それがヒントとなり、板チョコの中にアイスを入れることを生産部に相談したのが始まりだと聞いています」
新アイスを開発する際に意識したのが、菓子メーカーならではのアイス開発と形態で他社との差別化を図るということだった。「チョコボール」や「小枝」といった人気ブランドを展開する森永製菓の得意分野のチョコレートを存分に活かせることや、フレーバーとしてのチョコレートはあっても、チョコレートをそのままアイスにする商品はなかったことから、「板チョコ」らしさにこだわった。
「本物のチョコレート感として重要となるパリパリ食感と、冷凍下で食べる際に口どけの良いチョコレートを追求して、冷菓用のチョコレートの改良を重ねました。また、形状もより板チョコに近づけようとしていたため、金型の開発には苦労したそうです。
製造した商品が型から抜けないこともあったそうで、板チョコのような型を再現するのは非常に難しく、担当者は理想の金型を求めて板金工場を訪ね歩いたと聞いています」
発売当初は話題を呼んだ「板チョコアイス」だったが、1997年以降売上は徐々に縮小し、2002年春から休売に追い込まれた。
「休売はいくつか要因がありますが、特に大きかったのが食べやすさを重視してフィルムのパッケージに変更したことですね。お客様にとっては、よくあるチョコバニラアイスと同じような見た目で違いがわかりづらくなり、『板チョコアイス』が持っているユニークさが伝わらなくなってしまいました」(※下記画像は1998年のフィルムパッケージ)
休売から1年半後の2003年に秋冬限定商品として復活。秋冬のアイス市場は伸びしろがあり、菓子カテゴリのチョコレートの売上が拡大するシーズンでもあることから、このシーズンの需要喚起を狙って復活となった。
「売上が縮小してしまい休売となりましたが、一部のお客様から非常に熱いご要望をいただきまして、お客様の声に応える形で復活し、再販売に際しては休売になった反省を活かしました。
夏に食べられるチョコレートから、秋冬にぴったりなチョコをたっぷり楽しめる板チョコ型のアイスとして、チョコレートの山の数や食べた時の音、菓子を想像させる箱のパッケージと、『板チョコアイス』としてのおいしさにこだわりました」
復活後は長らく秋冬限定商品として販売していたが、「夏でも食べたい」「秋冬限定が終わるころに買いだめをして春夏に備えている」といった、「板チョコアイス」愛好者の声に応える形として2020年に通年販売を決断した。
「2023年からは夏限定も発売しています。通年化をしてからもやはり夏場の売上が思ったよりも伸び悩んでいたことが理由のひとつです。特に近年は異常な暑さの影響もあってか、お客様にとって『板チョコアイス』が重たく感じられているのかもしれないと考えました。
夏はさっぱりタイプのアイスが主流であるという視点から、夏にぴったりな『氷点下で食べるチョコレート』へと発想を転換することで、ネックだった夏場の売り上げ停滞を打破しようと、夏でもさっぱりと食べられる夏限定品質を実施することになりました。
従来からのこだわりである板チョコ感をキープするために、チョコレート自体の分量は変えず、チョコレートや油脂の配合比率、チョコレートをサポートするバニラアイスの甘さを調整して、チョコレートを感じながらも後味さっぱりという絶妙なバランスに仕上げました」
紆余曲折を経て30年の歴史を歩んできた「板チョコアイス」だが、ブランド全体で、直近5年間で売上が236%伸長(※インテージSRI+アイスクリーム市場 対象期間:2020年4月~2025年3月の全国推計累計販売金額)、2024年には過去最高売上を達成した。
「2024年の過去最高売上は単年での成果というより、長年の積み重ねによる結果だと思っています。転機となったタイミングはいくつかありますが、2020年の通年販売化の際に『進撃の巨人』とコラボしたことがかなり大きな要因かもしれません。
箱型のパッケージを活かして、『進撃の巨人』の背表紙を印刷し、1巻から10巻まで揃えると、冷凍庫の中で本棚に本が並んでいるような見た目になるという施策を行いました。思わずコレクションしたくなるようなプロモーションの効果もあって、多くのお客様に板チョコアイスを認知していただけるきっかけになったのではないかと思っています。
2023年から実施している夏限定品質も間口拡大に寄与していると思います。また、2019年、2022年の秋冬に発売した『白い板チョコアイス』も大変ご好評をいただき、2023年から秋冬限定商品として発売するようになり、『白い板チョコアイス』もブランド拡大に貢献している商品だと考えています。
昨年初めて一部で販売したナッツ入りの商品など、一部の流通限定で異なるフレーバーの商品もあり、まだ確定はしていませんが、こうしたバリエーションのある『板チョコアイス』を今後も検討していきたいと思っています」
【AJの読み】板チョコとバニラアイスが両方楽しめる一挙両得な商品
「板チョコアイス」は、その名の通り板チョコのように手に持って、パキッとかじることができるのが魅力。製品全体の約45%がチョコレートというほどチョコ感が強く、しかも口に入れるとチョコはすっと溶けるので、アイスとしてもとてもおいしく、板チョコとバニラアイスが両方を楽しめる一挙両得な商品だ。
定番の「板チョコアイス」ももちろんおいしいが、ゲリラ的に突如発売される限定フレーバーもお宝のようで目が離せない。限定フレーバーは見かけたらすぐに買うが鉄則。SNSでは愛好者が即座に発売情報がアップするのでチェックするのがいいかも。
筆者も、今春に30周年記念のいちごソースが入った「板チョコアイス<バースデーショートケーキ味>」をSNSで見て、買いにいこうと思いつつ忙しさに紛れすっかり忘れてしまい、1週間後にコンビニに行ったがとうになく、悔しい思いをした。
現在発売中の夏限定も、もはや一部の店舗では終了している模様。森永製菓が想定していた以上の出荷実績の良さで、事前の想定より前倒しになって夏限定の出荷が終了する状況になったという。まだ店舗によっては発売されているので、こちらも見かけたらすぐにゲットする態勢で臨んだ方がいい。
多くのファンを持つ30年のロングセラー商品の「板チョコアイス」。公式サイトhttps://www.morinaga.co.jp/itachoco/には、当時の開発メンバーが描いた、誕生秘話の漫画が掲載されているので、「板チョコアイス」を食べながらぜひ読んでほしい。
取材・文/阿部純子