
今年5月、「ピュレグミ」や「健康のど飴」でお馴染みのカンロから『ノンシュガー味のしない?のど飴』が発売された。
すーっと体感だけの、のど飴ってどういうこと?
公式サイトでは「カンロ独自の「味のしない?製法」からのど飴が登場!味や香りを極力感じずにのどを潤したい方へ向けた、すーっと体感だけの、のど飴です。」と紹介されているが…
一体、なんのためにこんな飴を作ってしまったのか、気になって仕方がなかった。
カンロと言えばキャンディ市場のトップを走り、美味しいキャンディで子供から大人までを魅了してきた一大キャンディメーカーのはず。
なのに、なぜ、「味」を手放したのか?
今回、カンロ株式会社CX推進部の高田橋さんに「味のしない?飴」誕生の理由を伺った。
――「味のしない?飴」はなぜ生まれたのでしょうか?
「そもそもは、2022年にローソンで実施した「ありそうであまりなかった商品」という企画の一環で開発したのがきっかけです。以来、定期的に販売していますが、再販希望がやまないくらいの反響をいただいております」
「様々な理由で口が渇く症状をお持ちの方などからは「味や匂いがなく、口を潤すのに最適」「毎日の励み、心の支えになっている」「常時販売してほしい」といったお声のほか、「のど飴要素のある飴を発売してほしい」とのお声もいただき、今年5月、『ノンシュガー味のしない?のど飴』の発売に至りました」
3年前に行われたのは、複数の食品メーカーによるテスト販売イベント。そこで好評だったことから開発を進め、現在は全国のコンビニや駅売店などで「ノンシュガー味のしない?のど飴」として販売されている。
「現在販売中の商品も想定した以上に熱量の高い反響を多くいただきました。例えば「甘さのない、こういう飴を求めていた」「こっそり口を潤すのに最適」「まさに願っていた飴です」「革命」「ずっと売り続けて欲しい」等、たくさんの声をいただいております」
開発の経緯は分かった。
ならば、「味のしない?のど飴」は、いかにして作られているのか?気になるのは原材料だが…
表示を見ると、食物繊維(ポリデキストロース)(国内製造)、エリスリトール、ハーブエキスに加え、香料、カラメル色素と記載されている。
一応、香料とあることから何かしらの香りはするのだろう。それが鼻から抜けるものの、舌には何も感じない、ということだろうか。
実際に購入してみた
見た目は、半透明の飴玉。口に入れると、なんとなくスーッとした爽やかな香りを感じるが、味はほとんど感じられない。遠くの方でほのかな甘みがゆらゆら揺らめいているような、掴みどころのない例えようのない感覚だけが広がっていく。
ただ、なんかクセになる。もう一個、もう一個と口に放り込みたくなる。
謎すぎる初めての体験。開発のこだわりを聞くと、
「通常の飴は砂糖と水飴をベースに作るのですが、この飴は原材料に食物繊維を使用することで甘さを控えた味わいを実現しました。味に関しては、空腹時と満腹時、のどの渇き具合や食べるタイミングなど、人によって味の感じ方に大きく差が出ます。社内でもたくさんの人に様々なタイミングで試食をお願いし、味の感じ方をヒアリングして調整しました」
――「味のしない?のど飴」のターゲットは?
「甘さは苦手だけれど、のどを潤したい方々をターゲットとしています。またお客様の声をお聞きしていると、味がしないことによって今までにないニーズが生まれる可能性を感じており、これまで飴を食べてこなかった人たちにも手に取ってもらえる可能性を秘めた商品だと思っています」
たしかに、普段ほとんど飴を口にしない自分が気になってしまったのだから、その戦略にまんまとハマってしまったことになる。それだけ魅力的だということだろう。
ただ今回は、興味本位で「味のしない?のど飴」を楽しんでしまったが、正直どんなタイミングで味わうのが正しいのか?
開発者だからこそ分かる、おすすめの味わい方、食べ方はあるのか?
「頭を空っぽにして、ぼーっと一息つきたい時にオススメです。味や香りを極力排除したゆえに舐めていると味を探してしまい、その結果、舐めることに集中できます」
飴の絶対王者・カンロが過去最高利益を達成した理由
近ごろ、何でもかんでも「若者の◯◯離れ」と言われている気がするが、ご想像の通り「若者の飴離れ」も進んでいるらしい。
見た目、食感、美味しさという三位一体で人気のグミに比べると、ハードキャンディはここ数年劣勢を強いられ、特に若者たちには馴染みのないお菓子というイメージが拡がっているとか。
そんな中でもカンロは昨年、国内キャンディ市場で5年連続シェアナンバーワンを達成。2024年度の売上高は約318億円で、営業利益と共に過去最高を更新した。
他の追随を許さず、好調を極める理由は何なのか?
「セールスの営業力はもちろんですが、既存ブランドに軸足を置きつつ、新たなブランドや商品展開によって間口を広げることが出来るのは、いくつものロングセラーブランドを抱えるカンロの強みだと思います」
「直近は改めて「顧客起点」を掲げており、今年からコーポレート部門とSNSやECの運営を手掛けるデジタル部門が1つの部署となって、顧客とのコミュニケーションに注力しています。そこから得られる消費者の声を活かした商品開発力も大きな強みです」
もちろん、飴離れの進む若年層へのアプローチも抜かりはない。
「飴の高齢化が進むキャンディ市場において若い世代の獲得は大事ですが、若年層に関してはそもそも飴を食べる習慣がないので、話題化させるだけでなく、その後も継続して購入してもらえるニーズの発掘が大事だと考えています」
「2023年に発売された「透明なハートで生きたい」は、実際に社内の若い社員や現役女子高生とともに開発をし、ターゲットの深層心理をとらえた商品設計になっています。他にも専修大学をはじめ学生との商品の共創など、若い世代をターゲットとした様々な取り組みを行っています」
「話題となる商品を発売して終わるのではなく、そこから得たノウハウを次の商品づくりに活かすことが大切だと考えています」
――時代にあったヒット商品を生み出すための秘訣は?
「カンロは昔から、時代の流れとターゲットのニーズを把握して顧客の不を解消する「顧客起点」の商品づくりを大切にしてきました。「カンロ飴」が発売されたのも、当時は海外製品が多かったキャンディ市場において、「しょうゆ」を使用し日本人の口に合う飴として開発されたことがきっかけです。顧客への理解を深め、時代やターゲットのニーズに合わせて商品を開発することは、現在も変わらず注力しています」
2025年、新たな取り組みとして始動したのが「カンロ ひとつぶ研究所」。飴がもたらす価値を紐解き、再認識していくプロジェクトだ。
「若い世代を中心に飴の喫食機会が減っていくなか、改めて”キャンディ”の価値や魅力を様々なタッチポイントで発信していくプロジェクトです」
「例えばそのひとつとして、3月からは自社で初めてポッドキャストの番組を立ち上げており、実際にカンロで働く社員の出演を通して、仕事や商品にかける想い、会社の魅力などを社内外に発信しています」
――今後さらにお菓子業界を牽引していくために企業として必要なこととは?
「今年からコーポレート部門とSNSやECの運営を手掛けるデジタル部門が「CX推進部」として1つの部署となり、顧客のエンゲージメント向上に注力しています。現在はヒトツブカンロといった直営店をはじめ、「KanroPOCKeT X」といったコミュニティサイトやSNSなど様々なタッチポイントで顧客とのコミュニケーションが可能です」
「“商品を買って終わり”ではなく、継続して購入してもらうために、様々な接点から顧客の体験価値を高めることが大事だと考えています。「カンロ飴」や「ピュレグミ」など商品のファンだけでなく、“カンロ”という企業のファンを増やしていきたいです」
文/太田ポーシャ