小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

なぜ、カクヤスは「ひとまいる」に社名を変更したのか?酒屋から運送業にシフトする独自配送システムの活用戦略

2025.07.29

2025年7月1日、「ビール1本から送料無料」で知られる「なんでも酒やカクヤス」の親会社「カクヤスグループ」が社名を「ひとまいる」に変えた。

街の酒屋は、これからも「カクヤス」の名で営業するというが、いったいなぜ? 

社長に話を聞くと、この社名変更には深い理由があった。

生き残るため、変わり続ける──酒屋の脱皮と「その先」

“蛻変(ぜいへん)”という言葉がある。蝉の卵が幼虫になり、さなぎになり、羽化する様を指すのだが、実は企業が脱皮する場合にも使われる言葉だ。

最初に口にしたのは、帝人の大屋晋三社長。

同社は「帝国人造絹糸」の旧社名通り化学繊維メーカーだったが、これがありふれた物に変わりつつあった1960~70年代から化学の技術を活かし素材メーカーへ脱皮、現在は航空、自動車、土木など多様な産業で不可欠な素材を供給するグローバル企業へと“蛻変”している。

ほか、富士フイルムが医療(X線装置・内視鏡)、化粧品(アスタリフト)へと展開していく様や、トランプや花札を製造し、「運を天に任せる」を社名にしていた任天堂が、ゲーム機、キャラクターのIP事業へと進化していく様も“蛻変”と言えるだろう。

実はカクヤスも“蛻変”を繰り返してきた企業だ。

東京・北区の酒屋として始まり、昭和が終わる頃までは『サザエさん』に出てくる酒屋のサブちゃんのように、時に店で酒を売り、時にリヤカーや自転車で酒を届けていた。

しかしバブルが崩壊し始めた92年、折からのディスカウントブームに乗り、『酒 スーパーディスカウント大安』をオープンし安売り競争に参画、さらに2000年前後にはさらなる進化を遂げた。

当時、酒類販売業免許は同じ地域に競合店があると取得できない等のルールがあり、酒屋は守られていた。しかし2003年からは新規付与が原則自由になり、大手スーパーも酒類販売が可能になると決まったのだ。

この危機に際し、同社は「お届け」に活路を見出した。

その結果、東京23区に「注文を受ければビール1本から無料で即日配送、到着時間は1時間刻みで指定可能」という類を見ない配送体制を築くことになったのだ。

ひとまいるの前垣内(まえがいち)洋行社長(左)と、佐藤順一会長(右)。前垣内社長は優しい雰囲気、アイデアマンの佐藤会長はユーモアたっぷり。

他社には真似できない物流の進化形

変化の仕掛人、同社会長の佐藤順一氏によれば、相当なチャレンジだったらしい。

まず、23区をくまなくカバーするため、当時持っていた30店舗に加え100店舗出店する必要があった。スタッフは自転車に大きなリアカーをつけ、いちいちお店に戻らず配送することにより、1時間あたり4件ほどまわる。

お客さんは便利なはずだった。ところが――。

「この路線は大赤字でした。以前は出店後、半年~1年で黒字になっていたのですが、それは低価格戦略をとっていたからだったんです。価格の勝負ならお客様は比較しやすいですよね。しかし配達の場合は、一度試してもらうまで『これ便利じゃん』とはならず、店が黒字になるまで時間がかかったんです」(佐藤会長)

そんな中、明かりが見えた。飲食業者からの評判がよかったのだ。当日注文可能なら、店に急な大人数の予約が入っても対応できる。

逆に荒天でお客さんが少なそうなら、お酒の仕入れを控えればいい。在庫が減るのは大助かりだ。

飲食店のニーズを聞くうち、さらなる進化も遂げた。

ある高級飲食店のオーナーが「店に数百万円分も在庫があって盗難が心配」と嘆くのを聞き、お店が高級酒の注文を受けたらすぐお持ちするサービスを始めた。銀座など一部地域では、10分以内に徒歩で届ける。

この体制を築くと、飲食店は“高い酒をメニューに載せ、注文が入ったらカクヤスに持ってきてもらう”というワザが使えるようになり大評判を呼んだ。佐藤氏が話す。

「私が『これだ!』と感じ営業しまくると、その先はもう、使っていただけないお店はないほどの大盛況でしたよ(笑)」

そこからも手探りの進化の連続だった。街によって自転車&リヤカーを駆使したり、受注、配車、ルート設計までできる独自のITシステムを築いたり。

ここからは現社長の前垣内(まえがいち)洋行氏が話す。

「近年では、2017年に平和島に大きな倉庫を立ち上げ、さらなる効率化を果たしています。当時、運送業が人手不足で運賃が高騰し始め、問屋さんからの卸価格も高くなり始めていたんです。しかし倉庫があれば問屋さんは大きなトラックで1か所に卸すだけ。そこから先は、当社の効率的な配送システムで各店舗まで運べます。すなわち運賃が高騰しても、それを理由に卸価格が上がることはなくなったのです」

この進化により、空き瓶を高値で回収してもらえるようにもなった。お酒の瓶は消費者から回収され、業者にいくばくかのお金で引き取ってもらう。

そんな中、カクヤスは車が各店舗から倉庫に向かう時に空き瓶を載せ、平和島に集約する体制を構築。酒瓶回収業者は各店舗を回る手間が省け、高く買い取ってくれるようになったのだ。

そんな工夫の連続で配送コストを下げ続け、ついに同社は配送をサステナビリティにまで活用し始めた。

「店舗やご家庭の廃油を、お金をお支払いして回収しています。これを平和島に集約し、化学工場へ運び、航空機の燃料に変えるのです。2024年に始め、今までに、東京から沖縄に行けるだけの燃料をつくりましたよ」

そんな進化が、次の“蛻変”へとつながっていく。

サステナビリティへの取り組み。社内では、商品を運ぶ便を「動脈」、何かを回収する便を「静脈」と呼んでいるとか。

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年7月16日(水) 発売

DIME最新号は、誕生45周年のガンプラを大特集!歴史を振り返り、ガンプラが今後どのように進化していくのかを総力取材。プラモデル制作に役立つ〝赤い〟USBリューターの特別付録付き!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。