
タカラトミーは2024年度が2割の増収、3割の営業増益となりました。この好業績を支えている要素の一つが、キャラクターグッズを販売するキデイランド。今年4月25日には新宿駅前に旗艦店となる「キデイランド新宿店」をオープンし、年内の売上目標を35億円に設定しました。
インバウンド需要が旺盛で、国内では「ちいかわ」や「サンリオ」などのキャラクターグッズが人気。キデイランドはコロナ禍で赤字に陥りましたが、見事な復活を遂げました。
観光客数の増加と歴史的な円安が好業績を後押し
キデイランドの2024年度の純利益は前期の1.6倍となる38億円でした。2023年度はおよそ2.0倍に急拡大していたにも関わらず、更に躍進しました。
しかも、2024年度の売上高は337.5億円で、純利益率は11.3%。経済産業省によると、小売業の“営業利益率”の平均が2.1%です。純利益は営業利益から営業外費用や法人税などを差し引いたもの。驚異的な利益率だと言えます。
※業績推移画像を入れてください。

※決算公告より筆者作成
コロナの影響がまったくなかった2018年度の純利益は4億円。このころ、旗艦店の一つである原宿店の外国人比率は6割弱でした。現在は7割程度と比率が大きく変化したわけではありません。しかし、純利益は9倍に拡大しています。
2018年のドル円相場は100円台から110円台で推移していました。2024年は140円台から一時160円台をつけるなど、歴史的な円安となった年。しかも、海外観光客数は2019年比で15.6%増加しました。
キデイランド原宿店は2021年に「ちいかわらんど」の常設展をオープンしています。国内では「ちいかわ」の人気も過熱。キデイランドの外国人比率がコロナ前と比べて大きく変化していないとしても、国内外の客数そのものが増えている可能性は大いにあるでしょう。
そして円安により、外国人にとっての価格が相対的に安くなったため、観光客一人当たりの購入量も増加しているとすれば、大幅な利益増も納得ができます。
日本への依存度が強い収益構造を変化させることができるか?
キデイランドの歴史は古く、1946年に埼玉県秩父市に誕生した書店が前身。1950年に進駐軍向けの書籍や雑貨、土産物を販売する目的で原宿に店を構えました。1966年には原宿店を自社ビル化し、1969年には梅田店をオープン。1989年にはフランチャイズ事業を開始しました。
しかし、玩具市場縮小のあおりを受けて経営不振に陥ると、タカラ(現タカラトミー)を再生スポンサーとして立て直しに邁進しました。現在もタカラトミーの完全子会社です。
そのため、キデイランドはキャラクターグッズの他に、「トミカ」や「プラレール」、「ベイブレード」などのタカラトミーの主力商品を販売しています。これが経営戦略上、極めて重要です。
タカラトミーの2024年度の売上高は2502億円でしたが、そのうち日本は2110億円で全体の8割を占めています。この年は2割を超える増収だったものの、日本は急速な少子化が進んでいるため、長期的に玩具市場が縮小するのは明らか。海外市場の攻略が必要なのです。
海外観光客がキデイランドに足を運び、「ベイブレード」などに興味を持てば、自国に持ち帰ってファンが広がるチャンスがあります。
すでに「ベイブレード」はグローバル展開を本格化しており、アジアや欧米などで世界大会を開催しました。日本での体験を契機とした、自国での盛り上がりに期待ができるのです。
今年4月にオープンした新宿の旗艦店は、原宿店のインバウンド比率を上回ると予想されており、海外観光客を意識した企画を作るといいます。年内の売上35億円という高い目標を掲げるのも、この店舗が経営戦略において重要な役割を担っているからに違いありません。
ホロライブで男性客に照準を合わせる
キデイランドは国内の顧客に向け、ターゲット層を広げる取り組みも行っています。2024年11月にはホロライブ公式ショップを東京駅にオープンしました。
従来のターゲットは若年層の女性、もしくは子連れの家族でした。
ホロライブは「宝鐘マリン」や「兎田ぺこら」、「星街すいせい」などの人気女性VTuberが多数在籍するマネジメント事務所。ファンの大部分が男性であり、20代から30代の若い層から支持されています。
VTuberはテレビCMに出演するほど身近な存在になりました。そのため、キデイランドのような一般的な小売店でグッズが販売されていても違和感がありません。これが一部のオタク層だけに支持されていたのであれば、売場に並べるのは難しいでしょう。既存の顧客が忌避感を覚える可能性があるためです。
キデイランドに男性という新たな顧客層を取り込むという点において、ホロライブという存在はうってつけであるように見えます。
円安によってインバウンド需要は盛り上がりを見せており、国内では推し活人気でキャラクターグッズの売れ行きが好調になりました。キデイランドは二つの潮流がぶつかる間にいます。この好調ぶりはまだしばらく続きそうです。
文/不破聡