
先日、「箱入り娘の大家族」という木製パズルゲームが大バズりした。
家族に守られている娘を頭をフル回転させて玄関へと導き、嫁に出すというゲームなのだが、SNSでは「ネーミングセンスが最高」、「家族たちが手強すぎる」、「娘がデカすぎる」、「とりあえず娘はダイエットするべき」など言いたい放題に盛り上がった。
そもそも、このような木製の駒をスライドさせて脱出させるゲームは昔からあったが、久しぶりに見たそれは確かに娘が大きすぎる。
SNSでは、そんな大家族の個性や兄嫁のいない謎の家族構成を考察するポストも次々投稿され、その勢いのまま注文が殺到。
「箱入り娘の大家族」を製作販売している、飛騨高山のさわたく工房は嬉しい悲鳴を上げている。
「このバズをきっかけに全てを工場に集め全員で一気に商品を作れるようにしました。最初の1週間は大量の注文に家族喧嘩するほど大変でした笑。ですが、以前は月40ほどの注文だったのが今回は2000を超えました。本当にありがたいです」
そう話してくれたのは、さわたく工房の社長令嬢、吉澤さん。
ちなみに、「さわたく工房」は家族経営の小さな工房だ。パズルゲームはもちろん、まな板や風呂椅子なども手がけている。
吉澤さんの父親が社長で母親は製造、経理、事務を担当。吉澤さんの夫、娘さんが製造や事務、広報を務め、内職のおばあちゃんら含む計7人で大量の注文をさばいている。しかも手作りで。
田舎の小さな会社の思わぬ大バズり。家族経営の会社の生活や人生や人間関係はどう変化するのか?今回、吉澤さんに詳しく話を聞かせていただいた。
――バズりから約1ヶ月。現在も嬉しい悲鳴は続いているのでしょうか?
「はい、今なおたくさんの注文をいただいております。家族総出で「箱入り娘の大家族」を作っておりますが、現在注文されたお客様への発送は半年後になりそうです」
「弊社はパズルゲーム専門店ではないため、お土産屋さん用のまな板や卸用の商品も同時進行で作ってるんです。そのため、どうしても時間がかかってしまいます。この数ヶ月は、1年間でパズルゲームを作ってきた数よりもはるかに多く仕上げておりますので、もうしばらくお待ちいただければ幸いです」
――今回、バズって良かったことは?
「これまで、『箱入り娘』の木のパズルをご存知の方は沢山いらっしゃいましたが、作っているのが「さわたく工房」であることはあまり知られていませんでした。それが今回話題にしていただいたことで、「さわたく工房」の名前を知ってもらえたのが嬉しかったですね」
ちなみに、ふくよかな娘さんのせいで狂おしいほど難しい「箱入り娘の大家族」だが、その攻略法がセンシティブ設定で公式Xで紹介されているので気になる方は是非!
家族経営工房の大きな野望
ところで、「箱入り娘」というパズルゲームは古くから存在しているもので、娘を嫁に出す家族をテーマにしたものもあれば、同じようなルールで三国志や角界をモチーフにしたものなど様々なテーマで作られている。
そんなベーシックなパズルゲームの「大家族版」として生み出されたのが、「箱入り娘の大家族」だ。既存のものよりも大きいサイズを試しに作ったところ、評判も上々だったため商品化したという。
その決断が大ヒットを生んだ。突然のバズりにてんてこ舞いのさわたく工房だが、実はこの夏、娘さん夫婦が事業継承する予定。二人とも3年前に転職したばかりの修行中の身だ。
「さわたく工房はもともと父が経営する「大沢建築」という会社でした。時代の流れとともに大工仕事が減る中で、父が木のお土産やおもちゃを作ったのが、さわたく工房の始まりです」
「当初は、私たち夫婦も違う職に就いており、父の跡を継ぐつもりはなく、母も違う仕事をしていたので従業員は父ひとり。経営も厳しく畳むつもりだったのですが、」
「パズルゲームの「箱入り娘」も他の方に製造を譲ろうかという話がでたとき、私は「それは悲しい」と思ったんです。父が作ったものがなくなっていくのも切なかったので跡を継ぐことを決意しました。今は父の作ったものが沢山の方に喜んでもらえてこんなに嬉しいことはないです」
運命的なタイミングで訪れた大バズり。家族ドラマが描かれるパズルゲーム同様、小さな工房の家族にも人生の転換期となるドラマがあった。
――SNSでは「このビッグウェーブを乗りこなしてみせる」と話されていました。今後、開発したい商品や挑戦したい新たな取り組みがあれば教えてください
「まずは沢山の方から要望をいただいているオリジナルのパズルが作れる無地のパズルゲームを販売したいと思っています」
「また、さわたく工房は地元の名物でもある「飛騨高山 宮川朝市」に出店しているので、ゲームの製作と朝市を両立して飛騨高山に日本の方がたくさん遊びに来てくれるようにしたいです」
若い世代に託されたこれからのさわたく工房が目指すものとは?
「生活の中で使える木工品を作ることが一番かなと思います。パズルゲームもそうですが、さわたくで作っているまな板やカッティングボードなどは、使って初めて良さがわかります。生活の中で使いやすい、そして周りの方との話題の種になる、木工品を試すきっかけになれる、そんな工房でありたいなと思っています」
注)7月12日現在、さわたく工房ではパズルゲームの注文を一時的にストップしています。
再開は現時点では未定とのこと。
取材協力
さわたく工房
さわたく工房X
さわたく工房インスタグラム
文/太田ポーシャ