
「仕事を任せる」はどんな職場でも発生します。部下の成長のためであったり、上司のリソースを確保するためであったりと理由は様々ですが、「任せてみたが、全然ダメだった。」という残念な結果に終わることが少なくありません。なぜうまくいかなかったのでしょうか?任せた部下が悪いのでしょうか?この記事では「正しい仕事の任せ方」とそのコツをお伝えします。
1.何を任せるのか?
「仕事を任せる」は管理職やリーダーであれば日常的に行っているはずです。良い結果が出れば「彼を信じて任せて良かった」「任せてみたら期待以上の仕事をしてくれた」と部下の成長を実感できる機会となります。一方で、「任せてみたが全然ダメだった」「フタを開けてみたら全く違う方向に進んでいた」とガッカリな結果になることもよくあることではないでしょうか。
好ましくない結果になったときに、「あいつは使えない」「意図を理解していない」「まだ早かった」と思っていませんか?その結果は本当に部下だけのせいでしょうか?
上司側が「正しい任せ方」を理解して実行することで、部下のアウトプットの精度は飛躍的に向上します。互いのストレスを減らし、業績を向上させ、何よりも部下を成長させるために上司側は必ずマスターしておく必要があります。
2.「任せる」を分解する
「仕事を任せる」を分解すると、次の2つの要素が明確になっており、上司と部下で認識が合っているかがポイントになります。ここがズレていると上司が望んだ結果を出すことが難しくなります。
(1)期限:任せた仕事をいつまでに完了してほしいのか
(2)状態:どのような状態にしてほしいのか
もう少し細かく解説します。
(1)の期限については、「〇月〇日の定時まで」など具体的に示してください。「コレ任せるから、“なるはやで”やっといて」などはNGです。期限の認識を合わせてください。
(2)の状態については「部下が実行すべき責任範囲」と言い換えることもできます。「コレ、いい感じで仕上げといて」などはもってのほかです。部下に任せたい責任領域を設定し、その中でどのような状態にもっていってほしいかを伝える必要があります。この部分の認識がズレていると、上司が思っていたより狭い範囲のことしかやってこなかったり、広すぎて越権行為のようになってしまったりする場合があります。
3.責任範囲の決め方
部下に任せたい責任範囲を決めるポイントは2つです。
ポイント(1):縦の責任範囲
まず初めに、縦の責任範囲、つまり上司と部下の責任範囲を明確に線引きしてください。「この領域はあなたに任せますが、領域をはみ出す部分については指示を仰いでください」と伝えるイメージです。これが不明確だと、細かいことまでいちいち上司に確認する手間が発生したり、好き勝手に何でも決めてしまったり(暴走状態)といった不具合が生じるリスクが高まります。縦の責任範囲で決めておくべき具体例としては以下のようなものがあります。
・おカネの決裁権:〇円までは確認不要。〇円を超える支出がある場合は事前承認を得る。
・人事権:チーム内の配置変えは確認不要。別チームへの応援要望は事前に上司へ相談。
・指揮権:プロジェクトなどの場合、そのミッションを果たす範囲でメンバーへの指示OK。
ポイント(2):横の責任範囲
もう一つ決めておくべきこととして、横の責任範囲、つまり他チームや他部署との責任範囲を線引きしておく必要があります。多くの仕事は複数の人員、チーム、部署が連携して実行していきますが、責任範囲の線引きが曖昧な場合、「責任の重複(互いが自分の責任範囲と認識している領域)」や「責任の空白地帯(誰も自分の責任範囲と認識していない領域)」が発生し、エラーの発生や責任の押し付け合いになるリスクがあります。よって、仕事を任せる前に、その部下の横の責任範囲がどこまでなのかを伝えておかなければなりません。「Aさんは営業活動とその報告を行ってください。見積書の作成はBさんに任せてOKです。受注後の商品手配はCさんに指示してください。」と伝えるイメージです。
ここで1つ注意点があります。横の責任をどう線引きするかについて、部下同士で相談して決めても良いですが、決まらない場合は上司が意思決定して指示してください。また、他部署との調整が必要になる場合、原則的には同じ格の上司間(課長同士など)で決めて部下に落とすようにしてください。部署をまたぐ責任範囲をメンバー層で勝手に決めると上司側が管理できなくなる可能性があるので要注意です。
上述した縦の責任と合わせて、部下に任せる責任範囲を上下左右で明確に区切って、本人にも認識させておくことが非常に大切です。
4.責任とセットになっていないといけないもの
ここまで部下に仕事を任せるにあたり、その仕事の期限と、やってほしい責任範囲を明確にしてきました。ここでもう一つ明確にしておくべきことがあります。それが、責任を果たすための「権限」です。責任を果たすのに必要な武器と言い換えてもよいです。責任と権限は表裏一体、必ずセットになっていないといけません。
例えば、外回りの営業に車が必要なのに、社用車の使用権限を与えなかったり、テレアポの責任があるのに電話が使えなかったりしたらどうでしょうか?当然、不満が出ますし、エスカレートすると「権限がないから出来なくて当然」と開き直りのような状態になるリスクもあります。
部下に仕事を任せるのであれば、その仕事を遂行するために必要な武器もちゃんと与えてあげてください。もちろん、過剰な権限を渡す必要はありません。あくまで責任を果たす上で必要な範囲の権限でOKです。
5.正しい「任せ方」
最後に、部下に仕事を任せた後、「任せっぱなし」になってはいませんか?任せた仕事を完遂させるのも上司の責任です。これを欠くとまさに“画竜点睛を欠く”です。「部下に任せたから、後は知らない。」「任せた範囲は上司である自分の責任ではない。」では上司失格です。
任せた仕事の内容にもよりますが、適切なスパンで進捗を管理してください。任せるとき(スタート時)に「いつまでに」「何をやるか」を明確に約束してください。約束の期限が来たタイミングで進捗を確認し、もし遅れが出ているのであればその事実を指摘しつつ、部下にリカバリー策を考えさせてください。つい、上司が口を出したくなりますが、部下を信じてその仕事を任せたのであれば、リカバリー策を自分で考え、最終期限までになんとか間に合わせる工夫をするのも部下に「任せて」ください。
【まとめ】
部下の成長において、仕事を任せて出来る範囲をどんどん広げさせることは非常に重要です。しかしながら「任せ方」を誤るとお互いのストレスになります。以下のポイントを明確にして任せてみてください。上司である皆さんの期待以上に部下は伸びるはずです。
(1)任せる仕事の「期限」と「状態」を明確にする。
(2)任せる仕事の「責任」と「権限」を明確にする。
(3)進捗を管理して任せた仕事の達成をサポートする。
文/識学コンサルタント 高塚勇希