
「自分の時間が取れない」という問題は、他者との境界線が曖昧なまま応じてしまうことが原因になることを指摘します。この記事では、時間という貴重なリソースに対して、私たち自身が明確な基準とルールを設定することの重要性を、識学理論における「責任」と「決定権」の観点から深く掘り下げていきます。自分の時間を取り戻し、主体的な日々を送るためのヒントがここにあります。
なぜ「一人の時間がない」と感じるのか?
あなたは、なぜかいつも時間に追われていると感じ、自分のための時間がほとんどない、と感じていませんか? この感覚は、現代社会で多くの人が抱える共通の悩みです。しかし、その根底には、意外にもシンプルな原因が潜んでいます。それは、他者との境界線が曖昧なまま、外部からの要求に「なんとなく」応じてしまっていることです。
例えば、仕事の依頼、友人からのお誘い、家族からの頼まれごと。これらに対して、「断ったら悪いかな」「期待に応えたい」といった感情から、深く考えることなく引き受けてしまうことはありませんか? その結果、自分のタスクが後回しになったり、休む時間が削られたりして、気づけば「自分の時間がない」という状況に陥ってしまいます。
これは、識学理論でいうところの「責任の所在が不明確になっている状態」と言えます。自分の時間の使い方が、自分ではなく他者の要望によって決定されているため、本来自分が持つべき時間の決定権が、他者に委ねられてしまっているのです。このような状態では、いくら頑張っても、自分の時間を主体的にコントロールすることはできません。
時間に対する「責任」を明確にする
自分の時間を取り戻すためには、まず「時間に対する責任」を明確にすることが不可欠です。識学では、組織における問題のほとんどは「責任の所在が不明確であること」に起因すると考えます。これは、個人の時間管理においても同様です。
自分の時間に対する責任を持つとは、具体的にどのようなことでしょうか。それは、「自分の時間は、自分自身が管理し、最大限に有効活用する責任がある」という認識を持つことです。他人の都合や要望に流されるのではなく、自分自身の目標や価値観に基づいて、時間の優先順位を設定する意識を持つことが第一歩となります。
例えば、仕事であれば「この業務は〇時までに完了させる」という具体的な目標設定が、その業務に対する責任を明確にします。プライベートにおいても、「週に〇時間は自分の趣味に費やす」「家族との時間は〇時までにする」といった具体的な目標を設定することで、その時間に対する責任感が生まれます。
この「責任」が明確になると、無意識のうちに他者の都合を優先してしまっていた行動に、ブレーキをかけることができるようになります。自分の時間を守るという責任を果たすために、他者からの要求に対して、一旦立ち止まって考える習慣が身につくでしょう。
時間の「決定権」を自らが持つ重要性
識学では、「責任と権限(決定権)はセットでなければならない」と説きます。自分の時間に対する責任を持ったならば、次にその時間に対する「決定権」を自分自身が行使することが重要です。
決定権とは、「いつ、何を、どれくらいするのか」を自分で決める権利です。他者からの依頼や要望に対し、「イエス」と答えることも、「ノー」と答えることも、あるいは「後日であれば可能です」と代替案を提示することも、すべてあなたの決定権の範囲内です。
この決定権を適切に行使することは、決してわがままな行為ではありません。むしろ、自分の時間を守り、より生産的に、そして精神的に安定して過ごすために不可欠な自己管理の一環です。
例えば、緊急性の低い依頼が来た際に、「今、これに対応することで自分の重要なタスクが滞らないか」「自分の目標達成に貢献するか」といった基準で判断し、必要であれば「申し訳ありませんが、今は別の業務を優先しております」と伝える勇気を持つことです。これは、自分の時間を他者の都合で一方的に奪われることを防ぎ、主体的に自分の時間を管理する姿勢を示すことになります。
決定権を行使することで、あなたは時間の主導権を取り戻し、受動的ではなく能動的に自分の時間をデザインできるようになります。
「時間ルール」の設定で境界線を明確にする
責任と決定権の意識を持ったら、いよいよ具体的な「時間ルール」を設定しましょう。これは、自分の時間を守るための明確なガイドラインであり、他者との曖昧な境界線をはっきりとさせるための具体的な行動指針です。
1.断る基準を明確にする:「原則として、〇時以降は仕事の連絡には対応しない」「休日に急な誘いがあっても、自分の予定が最優先」など、自分の中で譲れない線引きを具体的に設定します。これを周囲に伝えることで、あなたの時間の使い方に対する理解を求めることもできます。
2.自分の優先順位を明確にする:「この日は〇〇の勉強に集中する時間にする」「週に一度は家族との食事を最優先する」など、自分が何を最も大切にしたいのか、何に時間を割きたいのかを明確にします。これにより、他の誘惑や要求に直面した際に、迷わず判断できるようになります。識学の観点では、上位者が目標設定し、下位者がその目標達成に向けて動くことで組織が機能するように、個人の時間管理においても、自分自身が「上位者」として目標を設定し、それに従って時間を配分することが重要です。
3.「ノー」と言うスキルを磨く:最初は断ることに抵抗があるかもしれませんが、自分の時間を守るためには必要なスキルです。断り方を工夫したり、「今は難しいですが、〇日であれば可能です」といった代替案を提示したりすることで、相手との関係性を損なわずに自分の時間を守ることができます。これは、相手に対する配慮を示すと同時に、自分の決定権を行使する責任を果たす行為です。
4.「一人時間」を意図的に確保する:スケジュールに意識的に「一人の時間」を組み込みましょう。例えば、「毎日30分は読書の時間」「週に一度は誰にも邪魔されない思考の時間」など、あらかじめ確保しておくことで、他者に侵されることなく、自分の内面と向き合う大切な時間を確保できます。この時間は、自己成長やリフレッシュのために不可欠です。
まとめ:自分でルールを決め、自分の時間を生きる
「一人の時間がない」という悩みは、決して特殊なものではありません。しかし、その原因の多くは、私たちが時間に対する責任と決定権を曖昧にし、他者に委ねてしまっていることにあります。
識学理論が示すように、責任の所在を明確にし、決定権を自らが行使することこそが、物事を前に進めるための基本です。これは、組織運営だけでなく、私たち個人の時間管理においても全く同じことが言えます。
自分の時間を自分でコントロールできるようになると、心に余裕が生まれ、ストレスが軽減され、何よりも充実感を得られるようになります。自分のための「時間ルール」を明確に設定し、それを実践すること。これが、あなたが主体的に自分の時間を生きるための第一歩です。
さあ、今日からあなたは、自分の時間という貴重なリソースの「責任者」であり、「決定権者」です。どんなルールを設定し、どんな時間を作り出したいですか? 自分の人生の主導権を、今、あなた自身の手に取り戻しましょう。
文/識学コンサルタント 細見翔太